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National Institute of Industrial Health

中高年労働者の運動調節機能に関する研究

作業条件適応研究部  福田 秀樹

 我が国では、21世紀初頭における少子・高齢社会の対策が最重要課題の一つとなっています。労働力人口を年齢階級別にみてみると、1998年の労働力人口は、40代後半が875万人と最も多く次が20代後半の802万人です(図の上段)。2020年になると、40代後半を中心とする壮年層が最も多く次に60代後半です。しかも20代後半の労働力人口は1998年よりも約300万人減となり、20代前半は最も多い40代後半のほぼ半分と推定されています(図下段)。現在も出生率の低下が続いているため以降の若年層と壮年層の増加は見込めないことになります。このために高年齢者がその技能・経験・知識を積極的に活かしながら働ける産業構造や社会にするための対策が推進されています。とは云え、高年齢労働者が増加し、さまざまな職場や作業現場で働くことを想定すると、これまでも高年齢者の労働能力を考える上で問題とされてきた運動調節機能と、この機能と密接に係わるその他の高次脳機能(感覚、認知、注意、記憶、学習、思考など)が加齢によってどのように変化するのかについて検討する必要があると考えられます。
 私たちが行っている運動調節機能に関する研究では、次のような理由から眼球運動を指標としています。1) 眼球運動は、四肢の運動・動作に比べて記録・解析しやすい。2) 眼球運動には、例えば絵画を鑑賞している間、一点を見ている期間(固視期間)と眼球が動いている期間があり、両者は交互に生じているという特徴がある。したがって、運動調節機能を運動発現と抑制という二つの機能に分けて分析できる。3) 使用している計測システムは眼球運動を誘導する数種類の光刺激の位置・呈示時間の設定次第で、作業記憶・注意といった高次脳機能についても測定・評価できる。4) このシステムは、サルの眼球運動とその中枢メカニズムを行動生理学的に明らかにするために開発されたものである。このために、動物の行動生理学的研究をもとに人間の異常な眼球運動のメカニズムをかなり推定できる。5) 脳の特定の領域に器質的、機能的病変を有する疾患患者の眼球運動を同じシステムで検査可能である。
 私たちは、これまでに数種類の眼球運動課題を用いて約200名の健常者(5歳〜76歳)の眼球運動を調べてきました。その結果、加齢に伴い記憶した位置へ眼球運動を起こすことが困難となり、同時に抑制も困難になるという特徴がみられました。このような傾向は30代以降徐々に現れ、55歳以上で顕著にみられました。また高齢者では、注意すべき対象が消失すると、呈示される光刺激とは反対方向に一瞬目を動かしてしまうこと多くなるようです。高年齢者の眼球運動の特徴は、大脳基底核と呼ばれる脳の領域の障害で生じる特徴と類似し、また持続的抑制とそれからの解放(脱抑制)という大脳基底核の基本的メカニズムに密接に関連しているようです。さらに大脳基底核で興味深いことは、手続き学習と記憶、動機づけといった機能に関与していること、頭の定位、歩行・姿勢の制御、発声、呼吸の中枢へ強い投射があること、そして疲労、無欲といった自覚症状にも関与していることが指摘されていることです。加えて、中枢神経系に作用するとされる化学物質には、この大脳基底核を障害するものがあるのです。運動調節機能の解析結果の一部について述べましたが、今後その他の高次脳機能の加齢影響も検討し、高年齢労働者が安心して働ける環境づくりに役立つ研究を進めたいと考えています。

図:労働力人口の推移・見通し 労働力人口の推移・見通し

1998年:総務庁統計局「労働力調査、2020年:「労働省職業安定局推計(平成10年10月)による。

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