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粉じん分析を支える分光分析
作業環境計測研究部 篠原也寸志
じん肺症は依然として有所見率の高い職業病であり,粉じん物質は我々の周囲にも存在するため,治療法はもとより粉じん発生源の抑制,防じん手段,環境測定手法,有害性究明に関する研究が続けられています。その中より環境測定と有害性研究の側面から赤外分光法による粉じん研究について触れます。
赤外線は可視光より波長の長い光の一つで,通信映像手段,暖房器具などに利用されています。手をかざすと暖かく感じるように,分子に吸収されやすい性質を持ちます。吸収の様子を示す赤外スペクトルは分子種によって異なるため,赤外分光測定で物質中の分子の種類と量がわかります。測定には分光計を使いますが,波長を刻みながら順次検出していた従来の方法に代わり,全波長を同時に検出し積算,解析する装置が普及しています。赤外線を効率的に測定する今の装置の利点として,微小試料からの信号が得やすい,弱いスペクトルが検出できる,時間変化に即応した測定が行える等が挙げられます。
作業環境粉じんの濃度測定では,粉じん中の遊離珪酸含有率を知ることが重要な課題であり,りん酸法またはX線回折法による定量が行われます。赤外分光法も適用でき,試料から透過または反射してくる赤外スペクトルの測定はX線回折法より容易に行えます。しかし粉じんのように原子種が多い無機物では分子の結合様式が複雑でスペクトルの分離が悪いため,より長波長の遠赤外線まで測るなどの工夫が必要とされます。赤外分光,X線回折は共に遊離珪酸中の個々のシリカ鉱物種(石英,クリストバライト等)を定量する分析法です。粉じん中でもシリカ鉱物の有害性が特に強く,シリカ鉱物種によっても影響が違うことを考慮すれば,効果的な作業環境管理を行うには機器分析法で特定対象を測定するのが望ましいといえます。
一つの鉱物種でも扱う試料により生体影響に差があります。理由として結晶構造の乱れ方の程度,粒子径の違い等との関連が考えられています。労衛研時代に行われた石英の研究例を示すと,石英を順次摩砕した試料を細胞投与すると長く摩砕した試料ほど毒性が低下しており,粒子形態,表面変化と毒性との関係が指摘されました。また産医研の神山らは,この様な石英で表面から内部にかけて本来の整った原子配列が失われている様子を高分解能電子顕微鏡観察で明示しました。赤外分光法を使えば,この関係をより定量的に捉えることができます。石英の原子配列が失われているので,原子の結合体である分子で調べるのが適しているからです。労衛研の研究でも赤外分析が行われましたが,赤外線プローブを試料に接触させたり,集光して数〜数十μm程度の微小分析も行える様になったため,石英表面におけるOH基やSi-O(OH)結合の様子がさらに詳細に捉えられると期待されます。
このような高感度赤外分光法の特徴を利用して作業環境試料の定量分析,粉じん特性の研究が行われています。目的とする分子の信号を的確に読取り評価する手法の検討が重要であり,基準となるデータの収集,解析評価を含めた調査を実施しています。
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