化学物質の循環系への生体影響評価に関する研究
健康障害予防研究部 田井 鉄男
『意味ないじゃん』−最近小中学生の間で良く使われる言葉です。意味のないもの、本当にそういうものがあるのでしょうか?『無用の用』という言葉もあります。一見、無用のようにみえるがその無用が用をなしているということです。ですから私は、どんなことでも、なにかしら意味があるのではないかと思います。研究に関しても、もちろん意味がなければ研究をすすめる意義はありません。
さて、我々の身の回りには約五万種類の化学物質が存在し、毎年新たに500から600種類の化学物質が登録され、その数は年々増加しつつあります。化学物質による人類への恩恵は計り知れませんが、物事には表と裏があるように化学物質には恩恵のみならず好ましくない作用もあります。化学物質が生体、特に循環系に対してどのような健康影響を及ぼすかを明らかにし、その作用メカニズムを解明することがわたしの研究の目的です。
下図に示したような実験装置を用いて化学物質による循環系組織への直接的な作用を調べています。マグヌス法と呼ばれる方法です。この方法は、環境中に存在する微量な化学物質による微妙な生体機能変化を捕えることが可能です。実験には、実験動物から摘出した心筋組織を用います。マグヌス管と呼ばれる二重試験管の中に人工栄養液が入っており、生体内での環境とほぼ同様な環境中で組織を維持します。このマグヌス管の中で直接、化学物質等を作用させることができるため化学物質の濃度設定が容易で、低濃度での実験設定が可能です。この方法は、化学物質による微妙な生体機能変化を直接目で見ることができ、捕えることが可能です。心筋組織は心房筋と心室筋に分離します。右心房筋には、ペースメーカーセル(歩調取り細胞)があり心臓全体の拍動を統括しています。摘出した右心房筋は、このマグヌス管の中で一定の環境を整えると半日程度拍動し続けます。(この組織を見ていると、生命って不思議だな、すごいな、素晴らしいなと驚くと共に、あらためて生命力を感じその偉大さに圧倒されます。)右心房筋で心拍数に対する作用を調べ、一方心室筋では心筋収縮力に対する作用を検討します。心拍数の変化はしばしば不整脈を誘発すること、また心筋収縮力の低下は心拍出量が低下し体血圧の低下につながることから、各心筋組織に対する化学物質の影響を評価することは、循環系に対する影響を評価する上で非常に重要な指標となります。
一人の研究者ができることは限られてはいます。しかし、地道に研究活動を続けることで、結果として、ささやかながらでも人類のために寄与することができればと研究を続けています。
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