健康職場モデル
作業条件適応研究部 原谷隆史
労働省が実施している労働者の健康状況調査によると、仕事に関する強い不安、悩み、ストレス等を感じる労働者の割合はきれいに増加し、平成9年の調査結果では62.8%でした。日本の景気はその後さらに悪くなり、失業率は過去最高の水準にあります。企業の倒産やリストラなどによって、労働者のストレスはますます強くなっています。平成10年には自殺者が急増し、職場のストレス対策は大変重要な問題ですが、企業ではそのような余裕がないと考えているのではないでしょうか?
これまでの医学的な考え方では、労働者の健康に悪影響を及ぼす要因はできるだけ取り除いたり、軽減しなければなりません。しかし、労働者の健康を重視して、職場環境の改善を行い労働負荷を軽減すると、コストがかかり生産性も低下してしまいます。企業はそのような対策をなかなか受け入れることはできません。特に不況下においては生産性の向上や効率化が重視され、労働者の健康は軽視されがちです。一方、短期的な生産性や業績だけを追求すると、労働者への負荷が高いきつい仕事となり、長期的には労働者の健康を損ねたり転職してしまう可能性が高くなります。
米国の国立職業安全保健研究所(NIOSH)では、図1のような「健康職場」という新たな概念を用いたモデルを提唱しました。これまで労働者の健康と組織の業績は相反すると一般的には考えられていましたが、労働者の健康や満足感と職場の業績や生産性を両立させることは可能であり、むしろ両者には相互作用があり互いに強化することが可能です。組織の健康は、働く人の健康や満足感とともに職場の業績や生産性も視野に入れる必要があります。また、組織の健康には、管理方式、組織風土、経営方針といった組織特性が重要な要因となります。従来の職業性ストレスの研究では、仕事の特性を中心にストレッサーを捉えていましたが、今後はその背後にあるマクロな組織特性に注目する必要があります。このような組織特性を含めて組織の健康を考えたストレス対策を実施すれば、労働者の心身の健康増進とともに生産性や業績を高め、労働者と企業の双方にとって利益をもたらし、職場を活性化すると考えられます。最近、日本ではアメリカ的な経営、人事管理を取り入れ、短期的な個人の成果を重視するようになり、組織特性も大きく変化しています。この時に、短期的な業績だけを目指すのではなく、労働者の健康や満足感への影響を考慮して、日本的経営に欧米の経営をうまく取り入れていけば、もっとよりよい働き方ができるでしょう。
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参考文献
1) Sauter SL, Lim SY, Murphy LR. Organizational Health: A New Paradigm for Occupational Stress Research at NIOSH. 産業精神保健 1996;4(4):248-254.
2) 原谷隆史.勤労者のストレスと職場の活性化.こころの健康 1999;47(6):12-19.
3) 原谷隆史、川上憲人.職業性ストレスと健康職場.ストレス科学、印刷中.
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