ノートパソコン利用の人間工学
作業条件適応研究部長 斉藤 進
事務所や工場など職場で見られる技術革新つまりOA(オフィスオートメーション)化やFA(ファクトリーオートメーション)化の象徴として、コンピュータの視覚表示端末つまりディスプレイ(VDT)があります。VDT機器が職場に導入され始めた1970年代後半から、VDT作業をめぐる健康や疲労の関係について多くの研究が行われてきています。これらの研究から、VDT作業者に起こる筋骨格系の障害や眼の痛みや疲れなどを防ぐため、使用する機器や作業場の環境に対する人間工学上あるいは労働衛生上の十分な配慮が必要であることが分かってきました。わが国では1985年に「VDT作業に対する労働衛生上に指針(労働基準局長通達)」や、1987年には日本工業規格「JIS X6041 業務用陰極線管表示装置及びけん盤」としてVDT作業や使用機器への対応がなされています。また、VDT作業の人間工学に関する国際規格ISO9241シリーズの日本工業規格への導入も、着実に進められています。
一方、技術革新の速度は著しく、VDT作業に利用される機器や労働環境は数年前とは大きく変化しています。ノートパソコンの多方面での利用と、デスクトップパソコン使用時のCRTサイズの大型化が最近のVDT職場の大きな特徴です。とくにノートパソコンは、いつでもどこでも使えるという携帯性のよさと、机上の省スペースという優れた特徴から、職場や家庭への導入が急速に進められています。職場にLAN(ローカルエリアネットワーク)が設置されると、一人に一台の端末が必要になります。またSOHO(スモールオフィス・ホームオフィス)やテレワークと呼ばれるように、労働形態の変化が起こりつつあります。これら新しいシステム導入の多くは、情報通信機器としてノートパソコン利用を前提としています。しかし、ノートパソコンは比較的新しく登場したVDT機器のため、利用上のガイドラインはあまり見当たりません。人間工学に関係した国際会議では、ノートパソコンをめぐる課題が最近になり指摘されてきている現状です。
私たちはノートパソコン利用の人間工学上の問題点を、作業者の視覚系や筋骨格系の解析をとおして明らかにしてきています。例えば、眼の疲れ・視距離の短縮・頸部伸筋群の負担増・拘束姿勢・作業能率の低下などがノートパソコン利用者の特徴として示されています。このような研究から、現在のノートパソコンを長時間のディスプレイ作業に使用するには慎重な配慮が必要であると考えています。これらの研究成果は、1998年4月に日本人間工学会から発行された「ノートパソコン利用の人間工学ガイドライン−パソコンを快適に利用するために−」に反映されています。
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