独立行政法人産業安全研究所 と独立行政法人産業医学総合研究所は平成18年4月1日をもって統合し,独立行政法人労働安全衛生総合研究所となりました。
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生殖毒性

 生殖毒性という言葉をご存じですか?そう、文字どうり生物の生殖機能へ悪い影響をおよぼすことを指します。1996年にコルボーンらによる『奪われし未来(Our stolen future)』の発刊(邦訳・1997年、翔泳社)以来、いわゆる「環境ホルモン」(外因性内分泌撹乱化学物質)の問題が世間を騒がせています。ご存じの方も多いとは思いますが、今までにリストアップされている70種類にもおよぶ物質はみな「環境ホルモン」として生殖影響を及ぼすことが疑われています。今回は紙面の都合上ヒトに絞ってお話しします。
 1992年にデンマークの研究者が過去50年に男性の精子の数が半減したことを報告しました。この報告に対しては評価方法をめぐりその信憑性について賛否両論があったのですが、その後スコットランドやフランスのデータにより裏付けがなされました。また最近では日本でも若い男性の精子数の低下、精液の量の低下、精子の運動性の低下、奇形精子の割合の増加といった報告がなされるようになりました。そして現在、その原因の一つとして疑われているのが「環境ホルモン」なのです。他方、労働衛生の分野においては、韓国で電子部品工場の労働者が2−ブロモプロパンにさらされ精子減少や月経中断を示すという中毒事例もでてきています。
 対策を立てようとした場合ネックとなるのは、「環境ホルモン」は我々の生活と密着して摂取されることから特効薬的に規制や禁止ができないことです。そんなことをすれば、我々の生活そのものが成り立たなくなってしまいます。かといって「環境ホルモン」は微量でも作用し何十年もたってその影響が現れてくることになるので今のうちに手を打たなければ取り返しがつかなくなる恐れがあります。一部には楽観論もありますが放っておくこともまたできないのです。したがって国を挙げて知恵をしぼり国民の皆さんの協力を得つつ総合的に予防していくしかないように思います。まず、徒らに世間の人の恐怖感をあおるのではなく冷静に客観的にデータを見据え適切に対処することが必要です。そのためには簡便で客観的な評価方法を確立して科学的に原因を究明することが先決です。また、あらゆる分野にまたがる問題であるので、なるべく多くの専門家を巻き込んで研究に取り組む必要があります。さらに一国だけの問題ではないため国際的な協力も必要です。そして何よりも重要なのは、生物の多様性をふくめ環境問題に一人一人が注目し害ある化学物質を摂取しないようにつとめ、またむやみに廃棄しないようにつとめることです。
 本年度より科学技術庁を中心として科学技術振興調整費、生活・社会基盤研究のうちの生活者ニーズ対応研究『内分泌攪乱物質による生殖への影響とその作用機構に関する研究』という大規模な研究プロジェクトが発足しました。産医研も「職場環境に関わる内分泌攪乱物質の効率的な生物試験法の開発」というサブテーマで参加する予定です。簡便な生殖毒性試験法や血液検査による事前予測法の開発をめざして研究を進めるとともに、国際的なガイドラインを作成するための会議にも積極的に参加しています。

      表     精子数の変化に関する主な報告
報告者   精子数の変化
1992 カールセンら デンマーク 52年間に半減
1993 ソーミネンら フィンランド 44年間で変化無し
1994 イルヴィンら スコットランド 20代の精子が40代より4割減
1995 オジェーら フランス 17年間で30歳の精子が半減
1996 フィッシュら アメリカ合衆国 25年間でむしろ増加
1998 押尾ら 日本 20代の精子が40代より半減

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