紫外線の健康への影響
健康障害予防研究部 主任研究官 山田博朋
紫外線に曝される労働者は、屋外の作業に従事する人々はもとより屋内でも紫外線を扱う作業は数多く、印刷・滅菌消毒・溶接・食品加工・紫外線発生装置を用いる検査や研究・医学の治療・日焼けサロンやデイスコの従業員まで多岐にわたります。紫外線がヒトに与える影響では、急性症状として、日焼け・日光皮膚炎・ポルフィリン光感作症・皮膚角化症・光角膜炎・視力低下等があり、それが繰り返されて障害が積み重なると白内障や皮膚癌になることが知られています。しかしながら白内障や皮膚癌が紫外線によって発症するとしても、紫外線を浴びて即座にそうなるというものではないことも我々は経験的に知っています。重い症状になる前に、どのような変化がヒトの細胞に起こるかを知ることができれば予防的処置も執りやすく、労働者の健康の増進に寄与することができます。そのような目的で我々は、ヒトの皮膚由来の細胞に紫外線を照射して比較的短時間にどのような変化が見られるかを、特に生体防御蛋白に注目して研究しています。
メタロチオネイン(MT)は、重金属の解毒や様々なストレスに対抗するため我々の細胞が産生する生体防御蛋白の一つです。例えばヒト細胞を有害な重金属であるカドミウムに曝すと、MTが誘導されてきます。しかし280 nmの紫外線を照射しますと、カドミウムによるMTの合成は止められてしまいました。280 nmの紫外線によるMTの誘導の抑制は、別の重金属である亜鉛や、ステロイドを誘導物質に用いても見られました。 そこでMTの誘導がどの段階で阻害されているか明らかにするため、メッセンジャーRNA(mRNA)の量的な変化を調べてみました。細胞をカドミウムに曝すとMTのmRNAは合成されてきますが、280 nmの紫外線の照射によってmRNAの合成は停止しました。細胞内で常に合成され続けられているアクチンのmRNAも、全体のRNA量も、このような大きな変動は起こりませんでした。紫外線によるMTの誘導の抑制は、遺伝子からmRNAが転写される過程が阻害を受けて、引き起こされていることが判ります。
そこで、もう一つの誘導性の生体防御蛋白の例としてとして、熱ショック蛋白70(HSP 70)のmRNAの転写を取り上げ、調べてみました。HSP 70はその名の通り、細胞が熱に曝された時にたくさん作り出されてくることから発見された蛋白で、熱にかぎらず様々な原因によって構造が歪み生理活性を失った蛋白の立体構造を、元の活性のある構造に戻す重要な働きをします。結果は、MTの場合と同様に、280 nmの紫外線の照射により、本来なら熱に曝されると促進されるはずのHSP 70 mRNAの合成は、起こりませんでした。
これまで紫外線の有害性は、紫外線が直接、細胞内の生体高分子を励起して、本来起こるべきではない化学結合を作ったり、あるいは切ったりすることによると考えられていました。しかしここで述べたように、UVBの短波長成分である280 nmの紫外線の照射により、重要な生体防御蛋白のいくつかがその合成誘導を転写の段階で止められるということは、これらの蛋白が担っている細胞を保護する作用が、結果的に紫外線照射によって奪われ、有害な刺激や作用に対して細胞の耐性が広範に低下している可能性を示唆します。この現象は、物理的な有害因子が有害化学物質の効果に大きな影響を及ぼす例としても興味深く、労働衛生の上からも新たな注意が必要となると考えられます。
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