独立行政法人産業安全研究所 と独立行政法人産業医学総合研究所は平成18年4月1日をもって統合し,独立行政法人労働安全衛生総合研究所となりました。
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National Institute of Industrial Health

神経行動学的毒性試験

健康障害予防研究部  宮川宗之

 平成10年度版『労働衛生のしおり』には、死亡を含む7つの職業性疾病発生事例が紹介されていますが、その多くが、有機溶剤、一酸化炭素、酸欠など、中枢神経系に強い影響を及ぼす化学物質等に起因する事故となっています。中枢神経系はヒトの行動を統御する指令室で、ここが影響をうけると、急性中毒による意識消失などから危険な事故につながる可能性があり、慢性の曝露では記憶等ヒトの高度な認知機能に影響が生じるといった報告もあります。このような化学物質の神経毒性は、健康障害防止を目指した化学物質の管理、曝露基準の設定、中毒病態の解明等の面で労働衛生上重要な研究課題であります。
 ところで、いわゆるMSDS等に記載される化学物質の安全性・有害性に関する情報の基礎としては、実験動物を用いた各種の毒性試験が重要な位置を占めますが、このような試験は、一般に国際的・標準的な指針(テストガイドライン)に従って行われることとなっております。このような試験指針の代表に経済協力開発機構(OECD)が定めたものがあり、継続的な改定作業により整備が進んでおります。これには急性投与、28日間反復投与、90日間反復投与等、投与期間別の一般毒性試験指針や、生殖毒性試験や神経毒性試験など有害性の種類に応じた試験指針が含まれていますが、最近の改定作業で注目すべきことは、28日反復投与等の一般毒性試験において、神経毒性試験指針で定められている神経行動学的観察が要求されるようになってきていることです。米国環境保護庁(EPA)の試験指針やわが国の化審法の試験指針においても、OECDに対応した動きがあり、国内では専門家による『神経行動毒性研究会』も組織されました。労働衛生では神経毒性が問題となる場合も多く、これが重視されるのは望ましいことと思われます。
 さて、OECDの神経毒性試験指針に定められた神経行動学的観察・試験ですが、神経毒性の有無の推定を目的に行う第一段階試験(スクリーニング試験)には、『詳細な症状観察』と『機能検査』が含まれます。『詳細な症状観察』では、主に自律神経系の活動を反映する流涙・立毛・瞳孔・呼吸・糞尿等の異常等に加えて、姿勢、歩行、振戦・痙攣、常同行動・攻撃行動等について、訓練された技術者が一定手順で被験動物の観察を行い、数値による評定も行います。『機能検査』では各種の感覚刺激(痛覚、視覚、聴覚等)に対する反応のチェックや、前後肢握力、自発活動量の測定(自動測定機器使用)が行われます。
 このような一次試験の結果等から神経毒性が疑われる場合は、より詳細な検討(二次試験)を行うこととなりますが、それには各種感覚の精密な測定や認知機能(学習・記憶)の測定が含まれます。動物実験でこれらを測定するには、条件づけ学習等を応用した各種の方法がありますが、OECDの試験指針やその解説書(ガイダンス文書)には具体的方法の指示はなく、検査対象となる神経系の諸機能や測定法の文献等が示されているのみです。この二次試験で広く使用され得るような方法の検討・確立は今後の課題で、産医研での私の仕事でもあります。

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