平成12年度研究評価報告書要約
1. まえがき
産業医学総合研究所(以下、研究所という)では、平成10年度から、外部有識者・学識経験者委員から構成される外部研究評価委員会を設置し、国立研究所としての機関および研究課題について、外部評価を実施してきた。評価の目的は、「国の研究開発全般に共通する評価の実施方法の在り方についての大綱的指針(平成9年8月7日、内閣総理大臣決定)(以下、大綱的指針という)」に沿った厳正な外部評価の導入および評価結果の公開と活用により、限りある研究資金等の重点的・効率的配分を図り、研究員の創造性が十分に発揮されるような研究環境を整備することによって、研究所および研究員が、より創造的で、より効率的で、かつ社会ニーズに適合する高度な研究を展開することを目的とする。平成11年度と12年度には、総務庁行政監察局による「科学技術に関する行政監察」が全国立研究機関を対象として実施され、平成12年12月には多くの国立試験研究機関に対して評価のさらなる充実が勧告された。研究所における平成12年度の評価は、対象を研究課題に限定しつつも、総務庁行政監察の勧告を勘案し、評価手続きの簡潔化と評価のさらなる充実を図った。研究所における研究評価の充実は、平成13年度から発足する独立行政法人産業医学総合研究所における研究の質的向上と運営の効率化に資するものと期待される。ここに、外部研究評価委員による評価結果を平成12年度研究評価報告書の要約版としてインターネット上で公表する。
2. 評価対象
本年度は、平成12年度に実施した特別研究と経常研究の成果、平成13年度における特別研究と経常研究の計画、平成14年度開始を検討中の特別研究課題の候補のみを評価対象とした。経常研究とは、各専門分野に対応する研究者が、単独、または少人数で行う、比較的長期間にわたって実施する調査研究である。特別研究とは、比較的短期間(通常3年程度)に労働衛生に関する有用な研究成果が見込める課題について、集中的に行う調査研究である。
3. 評価方法
特別研究、経常研究の成果等報告書と研究計画書および平成14年度開始を検討中の特別研究課題候補に関する資料は、それらの内容を内部研究評価委員会で評価した後で、外部研究評価委員会に付託され、外部研究評価委員会による外部評価を受けた。同委員会は、下記の学識経験者11名の委員および厚生労働省安全衛生部担当官2名のオブザーバーから構成される。
| 委員氏名(敬称略) |
所属(平成13年3月現在) |
| 岩田 弘敏 |
岐阜産業保健推進センター 所長 |
| 遠藤 仁 |
杏林大学医学部 教授 |
| 岸 玲子 |
北海道大学大学院医学研究科 教授 |
| 酒井 一博 |
労働科学研究所 所長 |
| 荘司 栄徳 |
千葉産業保健推進センター 顧問 |
| 高瀬 佳久 |
日本医師会 常任理事(産業保健担当) |
| 竹内 康浩 |
名古屋大学大学院医学研究科 教授 |
| 田中 勇武 |
産業医科大学産業生態科学研究所 所長 |
| 沼野 雄志 |
沼野労働安全衛生コンサルタント事務所 所長 |
| 保原 喜志夫(委員長) |
北海道大学名誉教授(天使大学教授) |
| 安井 至 |
東京大学生産技術研究所教授 |
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| オブザーバー |
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| 平野 良雄 |
厚生労働省労働基準局安全衛生部労働衛生課
主任中央労働衛生専門官 |
| 奈良 篤 |
厚生労働省労働基準局安全衛生部計画課調査官 |
4. 評価結果の概括
1) 研究課題の成果と計画に関する評価
イ) 特別研究課題評価の結果
研究成果:昨年度終了した特別研究課題は7課題で、これらの課題の成果が本年度に事後評価の対象となった。現在実施中の継続特別研究課題は13課題であり、これらの課題の成果が本年度の中間評価の対象となった。各特別研究課題の成果に対する評価は、「研究目標の達成度」、「成果の労働衛生ニーズ満足度」、「成果の学術的意義」、「基盤技術としての有用性」の各4項目に対して5段階の評価点を与える評価法および各特別研究課題の成果に対して委員が自由形式で意見を記述する評価法である。特別研究課題に対する評価点を概括する目的で、これらの4つの評価項目に対して平均して「高い」、「やや高い」、「中間」、「やや低い」、「低い」のそれぞれの評価点を与えた委員の数を課題毎に集計した。事後評価の対象となった7課題では、平均して「高い」評価を受けた課題が2課題、「やや高い」評価を受けた課題が3課題、「中間」評価を受けた課題が2課題であった。中間評価の対象となった13課題の中では、平均して「高い」評価を受けた課題が2課題、「やや高い」評価を受けた課題が7課題、「中間」評価を受けた課題が4課題であった。平均して「やや悪い」または「悪い」と評価された課題は一つもなかった。従って、特別研究課題の成果は、概して高く評価されたと解釈される。これらの評価結果は、特別研究課題の成果が労働衛生のニーズに適合し、学術的に高い意義を包含していることを示している。
研究計画:平成13年度から開始される新規特別研究は5課題が事前評価の対象となった。5課題の新規特別研究の中で、「ダイオキシン類測定法の高度化に関する特別研究」と「職業関連疾病監視記録システムによる衛生管理特別指導事業場における労働衛生管理実施状況に関する調査研究」の2つの課題は、緊急な社会的・行政的な要請に応えるべく、所内特別研究として取り上げられた。それ以外の8課題の特別研究は、平成11年度または平成12年度より既に実施されており、前年度に事前評価または中間評価をすでに受けている。これらの8課題の平成13年度研究計画が中間評価の対象となった。特別研究課題の平成13年度計画の評価は、各計画に対して8項目の評価事項に3段階の評価点を与える段階的評価法と各課題計画に対する5段階の総合評価および各委員が自由形式で各計画に対する意見を記述する評価法であった。「高い」という最も高い総合評価点を与えた委員数が最も多かった特別研究課題計画は、全13課題の中で2課題であり、「やや高い」が8課題、「中間」が3課題であった。平成13年度計画に対する外部評価委員の評価結果は、概して高く、労働衛生ニーズに適合し、独創的な成果を生むべく、周到かつ綿密に計画されたものであると評価されつつも、さらに研究計画について再検討の余地が存在すると解釈される。 平成14年度開始を検討中の特別研究課題候補については、5名の外部評価委員から課題全体および個別課題に対する建設的な意見が提言された。
紙面に限りのある要約版では、全ての特別研究の成果と計画に対する外部研究評価委員の評価結果を紹介することはできないので、外部研究評価委員会において、それぞれ事後評価、中間評価、事前評価を受けた代表的な特別研究4課題の評価結果を以下に概括する。
- a) 事後評価:「長時間労働・深夜業の循環系への影響の研究(平成 9〜11年度)」
- 昨年度終了した本研究の目的は、実際の労働者を対象とした現場調査や文献調査等に基づき、長時間労働と深夜業の循環器系への影響を評価し、作業管理や健康管理を実施する上での課題を探ることにある。外部評価委員による事後評価の結果からは、研究目標達成度、労働衛生ニーズ満足度、成果の学術的意義の項目すべてで「やや高い」以上の評価を受けた。基盤技術としての有用性を「中間」とした委員が1名である。また、研究成果を活用した具体的提言、疾患予防対策の費用対効果、労働現場へのフィードバックの必要性等、今後の成果活用や研究の発展に対する有益な助言等も頂いている。
- b) 中間評価:「フロン代替品に係る労働衛生対策確立のための研究(平成11〜14年度)」
- 平成12年度の成果報告に関しては、各評価項目について多数の評価委員から「高い」または「やや高い」の判定を受けており、おおむね肯定的な評価を得られたと考える。企業における実態調査は複数の委員から評価されており、また中枢神経系やDNAへの障害評価法の研究も意義あるものと判定された。一方、対象とする化学物質の選択について疑問を呈する意見が多く、研究すべき化学物質を熟慮し、的を絞って研究を進めるべきである、という提言を得た。平成13年度の研究計画に関しても同様の評価であったが、特に労働衛生ニーズにおける整合性・重要性・緊急性の各項目において高い評価を受けた。研究内容としては、各種健康影響評価法の研究に対する期待感が高かった。しかし具体的対策との関連やインフォームドコンセント等、認識を新たにすべき点についての指摘もあった。
- c) 事前評価:「情報化職場の快適化に関わる労働衛生上の要件に関する研究(平成13〜15年度)」
- 本研究は、急速に発展しつつある情報機器を使用する多くの労働者の健康問題を人間工学的アプローチで解明する研究で、実践的マニュアルの提案等を含む学術的成果の積極的活用策をも検討している。本研究課題の評価点法による総合評価は、5段階評価の中で最も高い「高い」を与えた委員が最も多く(6名)、かつ評価項目「労働衛生ニーズとの整合性と重要性及び緊急性」や「方法論の妥当性」等の評価項目に高い評価点を与える評価委員が多数を占めた。これらの評価結果は本特別研究課題が社会・行政ニーズに適合した課題であることを示唆している。一方、研究の独創性・発展性・基盤としての有用性等の評価項目については、「中間」評価を与える委員も多かった。また自由形式の論述的評価では、本研究課題の成果が労働者の疲労やストレスの軽減に貢献することを期待しつつも計画の具体性や新規性を求める意見もあった。学術的な独創性や問題点の絞り込み法に関しての更なるブレークスルーに大きな期待が寄せられていることが認められた。
- d) 事前評価:「職業関連疾病監視記録システムによる衛生管理特別指導事業場における労働衛生管理実施状況に関する調査研究(平成13―15年度)」
- 本調査研究は、当研究所が長年にわたって実施してきた衛生管理特別指導事業場における労働衛生管理状況のアンケート調査結果の集計・解析および同事業場における労働衛生管理の実態の把握を目的とし、成果を同事業場指定制度に関する労働衛生行政に還元することを意図する研究である。本調査研究計画は、8評価項目の中で「労働衛生ニーズの整合性と重要性」項目には高い評価を受けたが、独創性・発展性・基盤技術の有用性については「中間」の評価を受けた。総合評価として「やや高い」評価を与えた委員が最も多かった。
ロ) 経常研究課題評価の結果
- a) 作業条件適応研究部:
研究成果:平成12年度に実施した研究課題は16件である。テーマは、労働負担の生理学・心理学・生化学的評価に係る実験的研究とともに、工場やオフィス等を対象とした作業条件に係る現場調査を並行して行っている。原著論文等による文献発表や学会等における口頭発表の総件数は、平成12年度は274件であった。所外活動としてみた行政や学会の委員等として対外的に寄与した件数は、平成12年度は142件と著明に増加している。外部評価委員による評価は概ね高いが、評価点は、研究目標の達成度、労働衛生ニーズ満足度、基盤技術としての有用性、成果の学術的意義の順で、「高い」から「中間」へ分布している。委員の意見としては、労働者の健康対策への視点、研究部としての方向性、産業現場との日常的な接点の少なさ等が指摘されている。
研究計画:作業条件適応研究部における継続課題は9件、新規課題は8件である。外部評価委員の当研究部に対する総合評価としては、全委員が「高い」または「やや高い」と評価を与えている。頂いた意見としては、60〜70歳代の高年齢労働者を対象とした研究、労働現場のニーズに適合した調査研究等に多くの期待が寄せられている。また、作業関連疾患等を労災病院と連携して実施する提案や、行政資料の活用等に関する意見が述べられた。
- b) 健康障害予防研究部:
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研究成果:当研究部では化学物質の神経系・生殖系・体内代謝系・呼吸器系・生体防御系等への生体影響や分子機構に関する実験的な研究課題が多いが、突然死や健康障害事例についても研究している。外部評価委員により、平成12年度の研究成果につき、[研究目標の達成度]等の4項目について、[高い]から[低い]までの5段階評価を受けた。4項目それぞれについての評価結果は、[高い]から「中間」にかけて分布した。全体としてはおおむね高い評価を受けた。各委員のコメントをみると、産業中毒事例の研究や前年に比べた研究成果の増加などが肯定的に受け止められた。一方で研究成果発表の少ない研究員についてはより一層の成果発表努力が求められた。従って、研究成果の着実な増加が評価されている一方で、成果発表の更なる増加が求められている。
研究計画:平成13年度の研究計画については、項目別の[高い、中間、低い]の3段階評価を受けたところ、労働衛生ニーズとの整合性・重要性・発展性・有用性の4項目で[高い]とする評価が最も多く、全項目を通じて[低い]とする評価は無かった。総合評価[高い・・・低い]の5段階評価で、すべての委員の評価が[高い]から[中間]までに分布した。委員個別のコメントをみると、おおむね計画に肯定的であり今後の研究の発展への期待が寄せられた。神経系・生殖系等への生体影響に関する成果が期待される一方で、研究成果の社会的還元の努力も求められた。
- c) 有害性評価研究部:
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研究成果:継続研究課題が13課題,昨年終了研究課題が1課題である。全体としては,標準以上の評価を得られた。研究の内容としては,職業性曝露の実態調査と疫学的研究,化学物質等の有害性把握のための実験中毒学的研究,種々の健康影響の評価技術開発などが含まれるが,いずれの分野においても一定の成果が上げられているとする意見が多く聞かれた。しかし一部に成果公表の遅滞等の問題があり,指導や共同研究の体制整備が必要との指摘があった。また,特別研究テーマと重複する部分が多く,経常研究ではより基盤的取組みが必要なのではないか,という提言もあった。
研究計画:継続研究課題9課題,新規研究課題4課題である。新規課題には,今日的問題を反映した,生殖や遺伝子への影響評価技術への取組みが含まれている。総合評価は成果と同様,「やや高い」の評価が最も多かった。現在部内に共存している異分野研究者による有機的研究の促進や,所外研究機関との共同研究の発展に期待が寄せられた。個別の研究課題については,部の経常研究課題としては再考を要するものがあるとの指摘があった。
- d) 作業環境計測研究部:
研究成果:平成12年度当研究部では、い草染土じん肺の原因物質の研究、繊維状物質の計測と物性の研究、化学構造から変異原性を予測する手法の開発研究、有機溶剤の拡散サンプラーによる短時間計測と捕集媒体の研究、有害光線の測定評価の問題などに取り組んだ。外部評価委員からは、[研究目標の達成度]等の4項目について、ほとんど[高い]と「高いに近い中間」の評価を受け、「中間」が少しあったが、全体としてはおおむね高い評価を受けた。各委員からは、希土類元素の計測と生体影響の研究をスタートさせたことへの評価、小人数で多くの研究課題に取り組み一定の成果を上げていることへの評価、作業環境計測研究部の研究課題は労働衛生ニーズに適合するが学術的には評価されにくいものが多く、それだけに労働衛生管理を進める上で極めて重要だが、他の研究機関ではあまりやりたがらない課題がほとんどである、などのコメントを受けた。一方、研究支援体制の一環として外部関連機関との協力と共同研究の実施を積極的に行うようにとのコメントも受けた。
研究計画:平成13年度の研究計画については、項目別の[高い、中間、低い]の3段階評価で、労働衛生ニーズとの整合性・重要性・緊急性・妥当性の4項目で[高い]とする評価が最も多く、全項目を通じて[低い]とする評価は無かった。研究の独創性について「中間」が多かった。[高い〜低い]の5段階評価の総合評価では、「やや高い」の評価を受けた。各委員からは、粉じん・金属からガス・有害光線に至る広い範囲をカバーしている、独法化中期研究計画に沿って研究対象と方法が整理されている、少人数で多くの課題に取り組んでいるが内外の研究者との共同研究ももっと進めるべき、ダイオキシン計測を突破口に他にない高度な「微量化学物質分析施設」を構築することは産医研を作業環境測定研究のナショナルセンターにすることであり、将来高度の学術的成果を生み出す可能性を秘めている、などの評価を受けた。おおむね計画に肯定的であり今後の研究の発展への期待が寄せられた。
- e) 人間工学特性研究部:
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研究成果:工学の技術的研究の必要性、成果の現場への応用配慮は評価する、産医研の特長である特許出願に対して特に評価する、またマンパワー不足に対して研修生の受け入れと他の機関との共同研究で対応していることも評価する、などの評価があった。しかし口演発表のみで論文がない研究員がいること、特に、局排等の工学的対策は行政・産業界の期待が大きいので、成果の公表に努めてほしい、との指摘があった。これに対しては、研究所として成果が少ない研究員に対して支援作業班をつくり、対応して体制を整えている。
研究計画:課題設定の適切さ、課題の大部分が一新したこと等、概ね好評を得ているが、局排等の関係のマンパワー不足に対する人材の確保の要望があった。これに対しては、研究所として来年度から局排の人材を一人採用する予定である。また課題のうち、「プッシュプル…」と「有機ガス用吸収缶…・」は、計画性に具体性が欠けている点が指摘されている。
- f) 企画調整部:
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研究成果:平成12年度の研究課題は、行政統計関連調査研究が1課題、産業疫学的研究が1課題、現場調査研究が1課題、実験的研究が3課題となった。企画調整部員は、21世紀の労働衛生研究戦略協議会、独立行政法人化準備等の諸々の研究管理業務を実施し、各部員の経常研究を推進する充分な時間的余裕がなかったが、11名中5名の評価委員が「1(高い)に近い中間」評価点を与え、企画調整部員の研究業務を高く評価した。また企画調整部の部員には筆頭論文の数が少ないという指摘もあった。多くの外部評価委員が、山積する研究管理業務を推進する企画調整部における経常研究の成果を他研究部の成果を同列に評価することについて疑問を提出した。
研究計画:平成13年度の経常研究計画は、実験系が2課題、疫学・現場調査系が2課題である。計画の総合評価では、「やや高い」評価点を与えた外部評価委員が最も多く、経常研究の計画は一定の評価を得たと解釈される。しかし、独法産医研において企画調整部の研究管理業務が質・量ともますます増大すると予想される中で、部員の経常研究展開に要する時間をどのように確保するのか、また得られる学術的成果を他の研究員と同列に評価すべきかどうかについて真剣に検討する必要がある。
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