独立行政法人産業安全研究所 と独立行政法人産業医学総合研究所は平成18年4月1日をもって統合し,独立行政法人労働安全衛生総合研究所となりました。
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独立行政法人 産業医学総合研究所
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National Institute of Industrial Health

平成14年度研究評価報告書要約

1. まえがき

 独立行政法人産業医学総合研究所(以下、研究所という)では、外部有識者及び学識経験者から構成される外部研究評価委員会を設置し、研究課題ならびに研究所の運営について評価を実施してきた。評価の目的は、国の研究開発評価に関する大綱的指針に沿った厳正な評価を行うことにより、研究の質的向上と業務運営の効率化を図り、優れた研究成果を創出することにある。
 平成13年度には、従来の指針を見直した「国の研究開発に関する大綱的指針」が定められた(平成13年11月28日、内閣総理大臣決定)。この新たな国の指針に対応するため、研究所では、平成14年度に評価規程類を全面的に改定した。従って、平成14年度の内部評価及び外部評価は、新規程類により実施したものである。ここに、外部評価委員による評価結果を取りまとめ、平成14年度研究評価報告書要約としてインターネット上で公表することにした。

2. 評価対象

 研究所では、平成13〜17年度の5年間にわたる中期目標を達成するため、中期計画を定めホームページ等で公表している。中期計画では、外部の第三者による評価とともに、内部進行管理を充実させ研究業務の効率的な推進を図るため内部評価システムを活用することとしている。
 研究所では中期計画に沿った評価を本年度も実施し、プロジェクト研究と基盤的研究の各々について、平成13年度に終了した課題及び平成14年度に実施した課題の成果、平成15年度に開始する課題の計画を評価対象とした。プロジェクト研究とは、研究期間・方向・到達目標を明確に定めて重点的に資金及び研究者を配する研究である。同研究には、労働現場のニーズ及び行政ニーズに直接的に対応する重点研究領域特別研究と、他省庁等の競争的資金を獲得した上で実施する研究がある。基盤的研究とは、各専門分野の研究者が単独または少人数で行う比較的長期間にわたり継続的に実施する研究であり、将来生じるであろう課題にも迅速且つ的確に対応できるようにするための研究である。基盤的研究のうち特に重点的に推進する必要のあるものを所内特別研究とし、資金及び研究者の配分を配慮して実施している。

3. 評価方法

 重点研究領域特別研究については、平成13年度終了課題の成果評価(事後評価)、平成14年度実施課題の成果評価(中間評価)及び平成15年度開始課題の計画評価(事前評価)を、課題ごとに、内部評価委員会及び外部評価委員会において実施した。基盤的研究については、個別課題の評価を各部内において上記と同様に実施し、内部評価委員会の承認後、各部長による総括を外部評価委員会に報告した。所内特別研究については、内部評価委員会において評価を実施した。

 重点研究領域特別研究の評価に関わる成果報告書・計画書等の資料は、内部評価委員会での審議を経た後に外部評価委員会に付託され、外部評価委員による評価を受けた。同委員会は、下記の学識経験者6名の委員および厚生労働省安全衛生部担当官2名のオブザーバーから構成される。

委員氏名(敬称略) 所属(平成15年3月現在)
   岸 玲子 北海道大学大学院医学研究科 教授
   北條 稔 大森医師会 理事
   安井 至 東京大学生産技術研究所 教授
   荘司榮徳(委員長) 日本労働安全衛生コンサルタント会 会長
   竹内康浩 独立行政法人放射線医学総合研究所 緊急被ばく医療センター長
   田中勇武 産業医科大学産業生態科学研究所 教授
オブザーバー
   浅田和哉 厚生労働省労働基準局安全衛生部労働衛生課 主任中央労働衛生専門官
   田中正晴 厚生労働省労働基準局安全衛生部計画課 調査官

 外部評価委員による、重点研究領域特別研究の成果に対する中間評価と事後評価は、「目標達成度」、「学術的貢献度」、「社会的貢献度」、「行政的貢献度」、「費用対効果」の5評価軸に対して各々5段階の数値的評価を与える個別評価と総合評価点、および委員が自由形式で意見を記述する評価法により実施した。次年度に開始を予定している重点研究領域特別研究の計画に対しては、「学術的視点」、「社会的ニーズ」、「行政的ニーズ」、「新規性、独創性」、「実現性」の5評価軸と総合評価について、同様の数値的評価と自由記入形式により評価を実施した。評価委員が提出した評価点と意見は各課題担当者へ通知し、担当者は評価委員の指摘に対する措置・対応等を文書で回答することにより、更なる研究の質的向上に反映させるようにした。

4. 評価結果の概括

(1) プロジェクト研究

1) 重点研究領域特別研究

 平成13年度に終了した「労働環境中における内分泌かく乱物質(いわゆる環境ホルモン)等の遺伝子レベルの健康影響評価法等に関する研究」に対し、事後評価を実施した。また平成14年度に実施した6課題につき、中間評価を実施した。そのうち「フロン代替品に係る労働衛生対策確立のための研究」と「労働者の心身の健康度指標の開発」は、平成14年度で終了する課題である。また「労働環境における全身振動ばく露の計測と対策に関する研究」は、社会的・行政的要請に適合した課題として平成14年度から新たに開始した課題である。平成15年度に開始する2課題「作業関連疾患・生活習慣病における職業因子の寄与に関する疫学的研究」、「高年齢労働者の職業性ストレスに関する総合的研究」については、事前評価を実施した。以下に重点研究領域特別研究の各々につき、事後評価、中間評価、事前評価の結果と対応等を略述する。

a) 事後評価

  • 労働環境中における内分泌かく乱物質(いわゆる環境ホルモン)等の遺伝子レベルの健康影響評価法等に関する研究
     産業化学物質が影響を及ぼす標的遺伝子を明らかにし、生体影響評価の指標としての利用技術に関する研究である。外部評価結果を全体的に見ると、個別項目の学術的貢献度の軸でやや高い評価をいただいたが、その他の個別項目および総合評価は平均的な結果であった。これまでの中間評価も含め、本研究に対する批評の多くは、現場での活用・施策への反映との距離感であるように思われる。本研究は、従来の帰納的毒性学研究とは異なり、先端技術を活用した演繹的毒性学の考え方に基づくものであり、頂いた意見等を有効活用し、今後の研究課題設定へ向け更なる目標とすることにしたい。

b) 中間評価

  • フロン代替品に係る労働衛生対策確立のための研究
     フロン等オゾン層破壊物質の代替品に関する健康影響情報を解析し、また有害性等に係る実験により、フロン代替品の生体影響評価法を開発する研究である。社会的ニーズに応える課題設定であるが、実験的研究と産業現場における調査結果の統合等に更なる期待が寄せられている。現在、論文化作業を進めており、期待に応えるべく実験研究と現場調査の成果を統合した現場に役立つ成果物をまとめる方向で準備している。

  • 労働者の心身の健康度指標の開発
     産業ストレスの軽減を目的とし、労働負荷の適切な管理手段として利用可能な精神的および身体的健康度指標を開発する研究である。目標達成度は高く評価されたが、有用な指摘事項も多い。CD56陽性細胞等の免疫指標については、学術誌以外に、講演、解説記事等でも成果を発表し、健康度指標としての普及を図っていきたい。精神的健康度や過重労働自己診断の質問紙については、フィードバックのためのツール等を作成することにより、労働負担の改善に効果的に結びつくものとなるよう工夫したい。メンタルヘルスや過重労働による健康障害の問題は重要な問題であり、今後も系統的、多角的な取り組みを続けたい。

  • 作業環境におけるダイオキシン類ばく露の生体影響に関する研究
     清掃工場等、非意図的に発生するダイオキシン類ばく露の生体影響を評価するため、疫学調査と健康影響調査を実施し生体影響モニタリング法の開発を目指す研究である。社会的貢献度および総合評価で高く評価された課題である。しかしその中で、一層のデータ解析と研究成果を論文等で更に公表すべきであるとの指摘は真摯に受け止めている。次年度は最終年度であり、研究成果をまとめ論文として活発に公表して行くよう早急に研究体制を構築し直す予定である。例えば、研究結果に関する討論会を頻繁に開催し、論文として投稿する方向へ導くことを考えている。

  • 情報化職場の快適化に関わる労働衛生上の要件に関する研究
     働く人々のストレスが増大している情報化職場の快適化を目指し、情報機器利用の人間工学上の実践的マニュアルを提案するための研究である。研究成果に対し、社会的貢献度と行政的貢献度に関して2名の評価委員から非常に高いという評価頂き、また一方では、学術的貢献度は普通であるという評価を3名の委員から頂いた。費用対効果では、4名が高く評価した反面、1名の委員が低いと評価を与えていることは真摯に受け止め今後の計画立案に活用したい。ご指摘頂いた実践的マニュアルは、本研究のゴールとして目指しているものである。また委員のコメントにある「慣れ」の問題は、職場適応とも考えられると同時に、不適応者における心身の負担増加という産業ストレスの本質でもあると考えている。今後の研究に参考とさせて頂きたい。

  • 有機溶剤等を取扱う非定常作業の作業環境管理に関する調査研究
     保守点検やタンク洗浄作業など適切な環境管理に課題がある非定常作業を対象とし、作業環境管理に資する対策の提言を目指した研究である。社会的・行政的貢献度は高いものの、目標達成度の項目で、半数の委員が低いと評価している課題である。初年度のシミュレ−ションチャンバー建設の遅れが影響し、また非定常作業の特定や現場の協力を得られるまでに時間と労力を費やしている等の現状があるが、データ集積とシミュレーション実験へ更なる努力をして行きたい。

  • 労働環境における全身振動ばく露の計測と対策に関する研究
     腰痛予防のための全身振動ばく露に関するガイドライン策定を目指し、振動ばく露の実態を明らかにするとともに、国際規格を提案することを目標としている研究である。平成14年度に、産業現場における振動ばく露の実態調査と実験室における全身振動環境再現装置の導入を行い、平成15年度は、我が国の産業現場での振動ばく露実態及びアンケート結果と関連国際規格との関係を調べることにより、全身振動ばく露の急性影響や慢性影響を明らかに出来ると考えている。また、平成14年度に導入た全身振動環境再現装置により、産業現場で測定した全身振動を再現し、座席特性の急性影響や慢性影響への影響を明らかにする予定である。


c) 事前評価

 新規課題として平成15年度から開始を予定している下記研究課題の計画につき事前評価を受けた。評価委員からは、学術的視点、社会的ニーズ、行政的ニーズ、新規性・独創性、実現性の軸、および総合評価において概ね高い評価を頂いた。新たな方向性や成果への期待等、有益で建設的な多くの意見を頂き、今後とも研究所内部で各課題の実施に関する詳細を検討したいと考えている。

  • 作業関連疾患・生活習慣病における職業因子の寄与に関する疫学的研究
  • 高年齢労働者の職業性ストレスに関する総合的研究

2) 競争的資金による研究

 研究所では、中期計画により、関係省庁等からの競争的資金獲得に向け積極的な応募を行うこととしている。平成14年度に研究所の研究員が代表者として競争的研究資金を獲得して実施した研究は、17課題である。地球環境保全等試験研究費、厚生労働科学研究費補助金、科学研究費補助金等がそれである。またこの他に、4件の受託研究資金を獲得し、研究を実施した。これら関係省庁等からの競争的資金は、研究費の交付決定と研究成果の評価を実施するための仕組みが当該省庁等にある。そのため、平成14年度計画に定めている、研究所が実施する評価の対象に該当しないため、ここでは省略することとした。

(2) 基盤的研究

 基盤的研究課題については、各部での評価結果を内部評価委員会で審議した上で、研究計画変更や研究予算配分等へ反映させる等、内部進行管理に評価結果を積極的に活用している。以下に、各研究部で実施されている基盤的研究及び所内特別研究の概要を示す。

1) 作業条件適応研究部

 作業条件適応研究部は、労働者の健康状態の評価法および健康管理法を調査・研究することを主な目的としている。
 睡眠研究に関しては「睡眠・仮眠対策による労働スケジュールの改善に関する研究」が具体的提案を伴う着実な成果を上げて、「ストレス・疲労および睡眠の疫学・免疫学的研究」と連動しながら次期研究「労働スケジュールにともなう睡眠問題の緩和と睡眠健康の促進に関する研究」へと進めている。長時間・深夜労働研究に関しては3つの研究「長時間・深夜労働の健康影響の修飾要因」「長時間・深夜労働の生活習慣・生活の質への影響」「長時間・深夜労働の健康影響評価」が連動して進められており一定の成果を上げていたが、本年度で一段落したと考えられる。次年度からは新たな視点が追加された研究へと発展させる必要がある。新規提案課題「過重労働による健康障害の予防に関する研究」はその意味でも重要である。職場ストレス研究では、「職業性ストレスと健康職場に関する研究」が基盤研究として長年着実に研究を進めているが、今後は基盤研究で進める部分とプロジェクト研究としてより予算規模を大きくして達成すべき部分を整理することにより、研究が更に発展するよう進められてゆくものと思われる。健康増進対策研究に関する課題「健康増進対策における飲酒の位置付け」では研究範囲を限定しており基盤研究としては適切と考える。予定年度内に確実に成果を上げることが重要となる。疫学研究では「建築業従事者におけるじん肺および石綿関連疾患のリスク評価」「職業がんの疫学的研究」の2題が継続しており、さらに「建築業従事者におけるじん肺および石綿関連疾患のリスク評価II」が新規で提案されている。疫学的調査は長期追跡、大量データ処理が必要であり、ある規模の予算を長期間継続して獲得する必要があるが、成果が出るまでに時間がかかるという性格上かなり苦労することになる。そのため本研究部においては段階的に研究基盤整備を進めている。しかし、疫学研究の重要性を認知されるべく研究を進めることも必要であり、如何に成果を提示するかという点でさらなる発展が必要であろう。神経行動研究に関しては「中高年齢労働者の運動・動作特性に関する神経科学的研究」が継続で、また新規が「運動調節機能の発達と加齢にともなう変化」「高年齢労働者の健康と生活の質の評価システムの開発」の2課題提案されている。基盤研究の規模を考慮して着実に成果を上げるよう研究を進めることが重要である。筋肉に関する研究は「種々の環境下での筋肉の性質」として着実に進められている。今後も相互に関連する限定した明確なテーマを設定し着実に進めることが重要である。

2) 健康障害予防研究部

 健康障害予防研究部は、職業性疾病を効果的に予防するために、さまざまな化学物質による中毒や職業性疾病の発生メカニズム等に関する実験的研究を行っている。
 健康障害予防研究部における基盤的研究では、職業性疾病のメカニズム解明やばく露・生体影響の指標の開発、健康影響の個体差の研究等を通じて労働衛生に寄与することを目指しているため、比較的に基礎的・基盤的な研究を遂行している。従来多くの化学物質が労働衛生上の重要課題となってきたことから、部内の多くの研究者が化学物質による健康障害に関する研究を手がけている。しかし、昨今長時間労働や過労による健康障害が問題となってきている現状から、このような健康障害に関する実験的研究にも着手している。また、労働衛生上の問題点を見直すという観点から、労働現場の化学物質に起因する健康障害事例の解析も行なっている。
 化学物質の神経系への影響評価にかかわる課題においては、ラットで使える比較的簡素な行動試験バッテリーを組み、有機溶剤の神経毒性評価に応用できることを明らかにした。この成果はプロジェクト研究における「フロン代替品」に応用され、未知の中枢興奮作用をあきらかにする事ができた。脳内生理活性物質の測定から中枢作用を評価する手法を開発したが、この手法は、競争的研究資金による「内分泌かく乱化学物質(EDC)の次世代影響評価」に応用された。化学物質の生殖毒性評価に関しては、雌動物の性周期や排卵を指標とする方法を開発し現在EDCに応用している。一方、トルエンやフロン代替品のばく露と体内分布、体内濃度の経時変化などを明らかにした。先端科学技術も導入し、EDC・有機溶剤などへのばく露に関してP-450などの酵素を生殖毒性の指標として、グリコール誘導体を扱う作業者の血液・精子などの分析も行なっている。また、カドミウム等の重金属のばく露による遺伝子発現の変化をヒトの細胞を使ってスクリ−ニングし、毒性にかかわる転写因子の細胞内可視化もめざしている。鉱物繊維や希土類金属の生体影響指標の探索においては、主として呼吸器系への影響を検討している。
 基盤的研究は比較的長期の視野で行なわれるべき課題が多いので、評価にあたっても長期的視点を考慮した。成果の公表においては、学会等における発表は活発であり、論文公表も近年著しく伸長している。原著論文の重要性は日頃から部員によびかけているがかなり浸透してきており、今後論文公表の更なる活性化を図りたい。
 労働環境はおおむね改善されているが、それだけに化学物質の健康影響はあらわれにくくなっている。今後は「環境ホルモン」問題に顕著なように低濃度ばく露などによる健康影響が懸念され、ヒトでは困難な影響評価を動物実験などにより明らかにしたい。

3) 有害性評価研究部

 有害性評価研究部は、職場環境に存在する有害性の確定していない化学物質や物理的因子の有害性の評価と予測、および有害因子の人体に対する許容度に関する調査・研究を行っている。
 全体を俯瞰すると、昨年の大幅な人事異動と独立行政法人化に伴う混乱から、徐々にではあるが落ち着きを取り戻しつつあるように感じられる。研究業績についても、平成13年度の落ち込みからやや回復しているようである。研究内容は、実験的な有害性の機構解析、有害性の評価法開発、現場調査によるリスク評価等、多方面にわたる。(1)実験研究による有害性の機構解析としては、産業化学物質の遺伝子発現影響や繊維状物質の発癌性の解明を目的とした研究が引き続き行われた。なお後者の研究については、研究の進捗状況とニーズを考慮し、当初の4年計画を1年延長して、5年計画に変更することとした。(2)また有害性評価の方法論的研究として、職場有害因子による種々の健康影響(遺伝子影響、眼毒性、免疫・生殖影響等)についての研究・開発が昨年に続いて行われた。加えて近年注目度が高まっている生殖影響の病理学的評価に関する研究が新たに開始された。(3)一方、主に労働現場での調査に基づいた職場有害因子のリスク評価に関する研究が、神経系への影響、ストレス及び疲労度、職業癌、溶接作業者の重金属曝露等のテーマについて引き続き実施された。更に平成15年度からは、アジアにおける職場有害因子のリスク評価、広範囲の職場を対象とした金属曝露のモニタリングに関する研究を新たに開始する予定である。
 当研究部では、毎月各部員の研究報告会を実施しており、広範囲の研究に携わっている部員間の相互理解をはかると共に、より充実した研究体制の実現のために議論し、協力しあうよう努力している。また、研究の促進をはかることはもちろんであるが、研究の進捗に見合った成果の公表についても遅滞が起こらないよう努めている。問題点として最も重大なことは、依然種々の管理業務負担が研究者に重く課せられていることであり、研究の推進を阻む原因となっていることであろう。
 当研究部の現状としては、社会的・行政的ニーズに基づいた種々の健康障害対策への実効的対応という観点において、研究課題が適切に選択され、実施されていると考えている。できるだけ研究に集中できるような環境を整え、進行中の研究効率を高めることが、今後の重要な課題であると思われる。

4) 作業環境計測研究部

 作業環境計測研究部は、労働者の健康障害防止を目的とした作業環境管理を適切に行うため、化学物質や物理的因子の測定方法や評価方法、あるいは発生予測に関する研究を行っている。
 終了研究は2件、継続研究は12件、新規研究は2件である。各研究課題の位置付けは、中期計画の基盤的研究「有害化学物質の環境濃度・ばく露レベルの計測と評価に関する研究」「化学物質等の健康影響機序の解明および有害性評価法の確立に関する研究」、及び「労働衛生に関する国際基準、国内基準の制度改定等への科学技術的貢献に関する研究」等である。研究対象は、粉じん・金属関連、有機溶剤・ガス関連、有害光線関連であり、それぞれ測定方法の開発、物質のキャラクタリゼーション、粉じんの分離方法と発生方法の開発等を行って順調な進展を見せている。各研究員は特別研究も担っている。
 昨年度終了した「リアルタイム計測器の応答特性」は、測定器固有の応答遅れのため現実の濃度変化に忠実に追随できず急激な濃度変化を把握できないという問題を、パソコンでデコンボリューション計算を行わせることにより、測定の誤差を取り除くことができることを示した。「ディーゼル粉じん含有成分の簡易評価法」は、ディーゼル排ガス中の粉じんをフィルターで捕集し、そのフィルターの一部を直接加熱して粉じん含有ガスを脱着させGC-MSにより分析するという独創的な簡易迅速分析法を開発した。その方法で多環芳香族炭化水素など多くの化合物を分析可能にした。
 本年度の研究課題として、各研究員は労働者の健康障害防止に直結する作業環境測定法とばく露評価法に関する基盤研究を進めているが、順調に進んでいる研究となかなか成果が収束しないものとがあり、部会やテクニカルミーティング等で問題点を討論している。問題点としては、1)作業現場の改善のために今何が問題か、行政ニーズにどの様に答えていくかなど、大多数の研究員は現実のニーズと自分の能力向上とをうまくバランスさせるように努力している。一方、1人で自立した研究ができにくい研究員もいて、グループでひっぱって行くなどの方法も今後必要かと考えている。2)独立行政法人化で各研究員の研究以外の業務が非常に多くなった。このことが、各研究員の本来の研究業務に支障をきたしている様子も見られ、今後、早急に何らかの対策が必要である。3)新開発の測定技術は、できるだけマニュアル化して行くことが必要で、いくつかその成果も出ているが、より一層の努力が必要と考えている。
 今後の展望として各研究員は、特別研究との掛け持ちで研究を進めているため、限られた時間で思うように基盤研究と特別研究を区別して仕事を進められないのが現状のようである。今後は、基盤研究をよく整理して、共同研究的にしたり、特別研究を担当している場合は基盤研究を休止してもよいとか、制度の面からも見直しが必要と考える。

5) 人間工学特性研究部

 人間工学特性研究部は、労働者が使用する機械・器具その他の設備の人間工学的見地からの評価や標準化に関する調査・研究、作業環境中の有害物質の工学的除去技術に関する研究および保護具を労働者の特性に適合させる研究を行っている。
 粉じん関連では溶接粉じんの個人暴露量及び環境濃度測定法に関する諸実験を行い、適切な作業環境管理に資すべき知見が得られた。また、溶接作業の特殊性に対応したフードを試作した。粉じん拡散状況のシムレーション構築に成功し実際の使用状態を考慮した局排装置のモデルを開発して従来の境界条件の与え方による計算予測値よりもかなり精度の高い予測をすることが可能となった。ディーゼルエンジン排ガス中の粒子状物質の多環芳香族炭化水素の微量定量分析に成功し学会でも注目されている。呼吸用保護具(防じんマスク、防毒マスク)の密着性試験を中心に研究を行い息苦しさ、不快感解消の手法がマスクとしての本来の呼吸保護の機能を満たしているかを評価した。呼吸用保護具面体の漏れ率試験方法の再検討のための基礎資料提供、呼吸用保護具原案委員会への情報発信などに利用できる成果を上げつつある。防毒マスクの除毒能力を種々の条件で検討し、乾燥状態が重要であることを確認した。新規吸着材料として人工多孔性無機化合物や天然粘土試料を鋳型として炭素材料の合成を試み、活性炭とは異なった特徴ある細孔分布を持った炭素材料が得られた。振動・騒音関連では乗物での定常振動下で作業している場合の全身振動と人の振動感覚に対する弁別閾値を明らかにした。全身振動暴露と手腕振動暴露が複合暴露を受けた場合の手腕振動感覚閾値へ全身振動暴露の影響に関して検討し、複合暴露の指先振動感覚閾値の一時的閾値移動への影響を明らかにした。また、国内外の各種防振手袋の振動軽減効果を比較検討した。作業環境中に存在する低周波音による空気振動に対して、人体がほぼ線型な機械的応答をすることが示唆された。手持ち工具等を使用した作業時の騒音曝露量の左右非対称性を調査する際にタイピンマイクロホンを利用した騒音測定方法が通常の騒音計よりも有効な手段となり得た。腰痛対策として前屈姿勢を支持する補助具を開発・改良し、肉体的にも精神的にも負担を軽減することに成功した。微量重金属に持続的に暴露されることにより産生される抗核抗体の病理学的意義を検索したが明らかにできなかった。また、磁場の発ガン促進作用の有無を実験的に検索したところ、促進作用はないことが示唆された。
 総合的に各基盤研究課題は順調に進捗しており、本年度は多くの成果を原著論文として公表できた。また、積極的に内外の学会において成果を発表した。今後も本年度と同等な成果を上げられるように持続的に努力する。

6) 企画調整部

 企画調整部は、研究所全体の調査・研究に係る企画・立案・調整、産業医学に関する情報の収集・分析、および広報・出版に関する業務を担当するとともに、各部員は自らの研究を実施している。
 企画調整部業務は、研究の企画・立案・調整、産業医学全般に係る情報の収集・分析・国際的研究交流・国際学術雑誌の編集発行・広報等、多岐に渡る内容であり、他の研究部業務を横断的に支援すると言う性格を持つ。更に、独立行政法人化にともない新たに生じた諸業務に対応すべく、企画調整部に所属する各研究員は企画調整業務を主とし、研究活動を従として広く研究所の全般的業務に従事している。例えば、所内諸規程類の起案・調整・決定に至る手続き業務等である。また、独立行政法人化にともない新たに企画された研究所の一般公開や講演会の開催等には、企画調整部員が全面的に業務として携わっている。研究所内部評価委員会、外部評価委員会、厚生労働省評価委員会等への提出資料作成等の対応業務は、企画調整部員の積極的な参加を得て実施している事項である。従来から担当している研究予算管理や研究評価に係る事務作業は、当然のことながら継続している。
 上述したように、企画調整部業務は他の研究部とは異なる内容である。研究業務は、一般的に継続性が必要である。企画調整部が所掌としている断続的かつ不定形業務は、研究実施と両立することに格別の配慮が必要である。例えば、外部の方々に来所頂いて実施する被験者実験等や、長時間にわたりサンプルを収集し、解析に多大な時間や労力を必要とする生化学的実験を困難にすることになる。企画調整部に所属している研究員の成果は、研究活動とともに、企画調整部本来の業務に貢献した内容で評価すべきであると考えている。
 企画調整部の業務内容に基づき、他の研究部とは異なる視点からの総括であるが、平成14年度の企画調整部諸業務は、若干の課題で研究活動の停滞はあるものの、所属部員の協力の下に概ね高い実績を残せたものと考えている。さらに、JICA労働安全衛生プロジェクトの長期専門家として2年間マレーシアに派遣されていた研究者が平成14年11月に企画調整部員として戻り、国際研究交流活動を今後とも更に充実させることができると考えている。

7) 所内特別研究

 所内特別研究は、中期計画に記載された重点研究領域特別研究課題の他に、研究所がその時々の労働衛生ニーズ等を勘案し、特に重点的に推進する必要があると判断した課題に、資金及び研究者の配分を配慮して実施するものである。
 平成14年度には、平成13年度から継続の「職業関連疾病監視記録システムによる衛生管理特別指導事業場における労働衛生管理実施状況に関する調査研究」と「ダイオキシン類測定法の高度化に関する研究」の2課題に加えて、新たに「職場有害因子の遺伝子影響評価法に関する研究」と「労働者死傷病報告に基づく業務上疾病の発生状況の分析」の2課題が実施され、合計4課題の研究成果について内部評価委員会による中間評価を受けた。
 また、平成15年度から開始予定の新規課題「化学物質の低濃度ばく露状況における健康影響の指標と評価」の研究計画について、内部評価委員会により事前評価を実施した。

 

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