独立行政法人産業安全研究所 と独立行政法人産業医学総合研究所は平成18年4月1日をもって統合し,独立行政法人労働安全衛生総合研究所となりました。
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独立行政法人 産業医学総合研究所
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National Institute of Industrial Health

平成15年度研究評価報告書要約

1. まえがき

 独立行政法人産業医学総合研究所(以下、研究所という)では、研究所役職員により構成される内部評価委員会と、外部有識者及び学識経験者により構成される外部評価委員会を設置し、研究課題ならびに研究所の運営について評価を実施してきた。評価の目的は、国の研究開発評価に関する大綱的指針に沿った厳正な評価を行うことにより、研究の質的向上と業務運営の効率化を図り、優れた研究成果を創出することにある。
平成13年度には、従来の指針を見直した「国の研究開発に関する大綱的指針」が定められた(平成13年11月28日、内閣総理大臣決定)。この新たな指針に対応するため、研究所では平成14年度に評価規程類を全面的に改定した。平成15年度の内部評価及び外部評価は、これらに定めた新たな基準に基づき実施したものである。ここに、その結果を取りまとめ、「平成15年度研究評価報告書要約」としてインターネット上で公表することとした。

2. 評価対象

 研究所では、平成13〜17年度の5年間にわたる中期目標を達成するために中期計画を定めているが、本年度もこれに沿った研究評価を実施した。プロジェクト研究と基盤的研究の各々について、平成14年度に終了した課題及び平成15年度に実施した課題の成果、平成16年度に開始する課題の計画を評価対象とした。プロジェクト研究とは、研究期間・方向・到達目標を明確に定めて重点的に資金及び研究者を配する研究である。同研究には、労働現場のニーズ及び行政ニーズに直接的に対応する重点研究領域特別研究と、他省庁等の競争的資金を獲得した上で実施する研究がある。基盤的研究とは、各専門分野の研究者が単独または少人数で行う比較的長期間にわたり継続的に実施する研究であり、将来生じるであろう課題にも迅速且つ的確に対応できるようにするための研究である。基盤的研究のうち特に重点的に推進する必要のあるものを所内特別研究とし、資金及び研究者の配分を配慮して実施している。

3. 評価方法

 中期計画では、外部の第三者による評価とともに、内部進行管理を充実させ研究業務の効率的な推進を図るため内部評価システムを活用することとしている。重点研究領域特別研究については、平成14年度終了課題の成果評価(事後評価)、平成15年度実施課題の成果評価(中間評価)及び平成16年度開始課題の計画評価(事前評価)を、課題ごとに、内部評価委員会及び外部評価委員会において実施した。基盤的研究については、個別課題の評価を各部内において上記と同様に行い、内部評価委員会で結果の妥当性を検証した後、各部長による総括を外部評価委員会に報告した。所内特別研究については、内部評価委員会において評価を実施した。

 重点研究領域特別研究の評価に関わる成果報告書・計画書等の資料は、内部評価委員会での審議を経た後に外部評価委員会に付託され、外部評価委員による評価を受けた。同委員会は、下記の学識経験者6名の委員および厚生労働省安全衛生部担当官2名のオブザーバーから構成される。

委員氏名(敬称略) 所属(平成16年3月現在)
   岸 玲子 北海道大学大学院医学研究科 教授
   荘司榮徳(委員長) 日本労働安全衛生コンサルタント会 会長
   竹内康浩 介護老人保健施設かいこう 施設長
   田中勇武 産業医科大学産業生態科学研究所 教授
   北條 稔 大森医師会 理事
   安井 至 国際連合大学 副学長
オブザーバー
   山崎勝彦 厚生労働省労働基準局安全衛生部労働衛生課 主任中央じん肺診査医
   田中正晴 厚生労働省労働基準局安全衛生部計画課 調査官

 外部評価委員による、重点研究領域特別研究の成果に対する中間評価と事後評価は、「目標達成度」、「学術的貢献度」、「社会的貢献度」、「行政的貢献度」、「費用対効果」の5評価軸に対して各々5段階の数値的評価を与える個別評価と総合評価点、および委員が自由形式で意見を記述する評価法により実施した。次年度に開始を予定している重点研究領域特別研究の計画に対しては、「学術的視点」、「社会的ニーズ」、「行政的ニーズ」、「新規性、独創性」、「実現性」の5評価軸と総合評価について、同様の数値的評価と自由記入形式により評価を実施した。外部評価委員のうち5名の委員から評価結果の送付を受けた。評価委員が提出した評価点と意見は各課題担当者へ通知し、担当者は評価委員の指摘に対する措置・対応等を文書で回答することにより、更なる研究の質的向上に反映させるようにした。

4. 評価結果の概括

(1) プロジェクト研究

1) 重点研究領域特別研究

 平成14年度に終了した「フロン代替品に係る労働衛生対策確立のための研究」と「労働者の心身の健康度指標の開発」に対し、事後評価を実施した。また平成15年度に実施した6課題につき、中間評価を実施した。そのうち「作業環境におけるダイオキシン類ばく露の生体影響に関する研究」と「情報化職場の快適化に関わる労働衛生上の要件に関する研究」は、平成15年度で終了する課題である。また「作業関連疾患・生活習慣病における職業因子の寄与に関する疫学的研究」と「高年齢労働者の職業性ストレスに関する総合的研究」は平成15年度から新たに開始した課題である。平成16年度に開始する2課題「作業環境中の有害因子に対する感受性を決定する遺伝的素因に関する研究」と「筋骨格系障害予防のための疫学的及び労働生理学的研究」については、事前評価を実施した。以下に重点研究領域特別研究の各々につき、事後評価、中間評価、事前評価の結果と、評価意見に対する対応等を略述する。

a) 事後評価

  • フロン代替品に係る労働衛生対策確立のための研究
     フロン等オゾン層破壊物質の代替品に関する健康影響情報を解析し、また有害性等に係る実験により、フロン代替品の生体影響評価法を開発する研究である。「現場に役立つ成果物を出してほしい。」との評価委員のご意見を受けて、今後は今回の成果を生かす形で現場に役立つ成果物をまとめたい。「中小企業現場へのさらなるアプロ−チを希望する。」との評価委員のご意見があったが、中小企業では化学物質全般の取り扱いについて、まだまだ多くの問題があると認識している。また、「フロン代替品について、回帰的に使用されている従来品に関しては低濃度ばく露による生体影響を明らかにし、新たな代替品に関しては生殖毒性以外のさまざまな毒性も明らかにするなど、フロン代替品による健康障害の予防についての基礎的資料を整えた。この点が高く評価されると思う。」との評価をいただいたが、現場に新たな化学物質を導入する際の対処についても中毒予防の観点から新たな提案の余地もあると考えている。「このような調査研究実施を将来、確実にするための研究所全体でシステム的な取り組み(厚生労働省や中災防と協力するなど)が必要ではないだろうか。」とのご提言を頂いた。調査研究実施を確実にするための研究所全体でのシステム的な取り組みというご提案は貴重であるので、今後の研究に生かしたい。

  • 労働者の心身の健康度指標の開発
     産業ストレスの軽減を目的とし、労働負荷の適切な管理手段として利用可能な精神的および身体的健康度指標を開発する研究である。「産業界においては、高度情報化とグローバル化の激動に伴う構造改革により、過重労働の健康影響対策は緊急性の高い課題であった。その中で、精神的健康度を調べる調査票を作成、疫学調査を実施したこと、自己診断チェックリスト開発を主導したことなどは、産業現場への貢献として高く評価されよう。身体的健康度指標に関しては、有用性が高いとみられるデータを集め、成果を挙げているが、実用に結びつけることが望まれる。」との評価およびご意見を頂いた。今後、本研究で検討してきた蓄積疲労及び精神的健康度の評価法、CD56陽性細胞などによる負担評価法などを用いて、産業現場の心身の負担を検出し、負担を軽減させる実践的活動を行い、検討してきた健康度評価法の有用性を検討していきたい。「自己診断チェックリストや、産業保健職のチェックリストを用いて、現場で活用した結果、どのような改善が見られたかを明らかにすることが望まれる。それがさらに実用性の高い次のツール開発に結実するのではないか。」とのご意見を頂いたが、このような実践的活動の中で、さらに過重労働による心身の負担軽減に不足している考え方や視点について検討し、より実用的な過重労働対策の開発につながるよう研究を継続していきたい。

  • b) 中間評価

  • 作業環境におけるダイオキシン類ばく露の生体影響に関する研究
     清掃工場等、非意図的に発生するダイオキシン類ばく露の生体影響を評価するため、疫学調査と健康影響調査を実施し生体影響モニタリング法の開発を目指す研究である。評価委員から「私の見る限り自治体職員はコンピューターによる監視作業や室内で操作するクレーン作業が多いように見受けた。構内下請労働者については問題ないか?」とのご指摘があったが、研究対象者は正職員、下請け職員を問わず焼却炉設備の運転及び整備に携わっている者を対象としている。「ダイオキシン類の健康影響の科学的解明は社会的ニーズの高い研究課題である。その解明のために主として疫学的研究を進め、成果を挙げてこられた。世界的に取り組まれている基礎的な研究成果を活用して、研究を着実に発展されることを期待する。」との評価を頂いた。世界的に行われている研究の成果を活用して行く所存である。「貴重なコホートについては、韓国との関連もあり、何らかの形で継続することが望まれる。」とのご意見をいただいたが、コホートの追跡調査は別の研究費に基づくプロジェクトへと引き継いで進めている。今後も、得られた結果を労働環境におけるダイオキシン類許容基準及び特殊健康診断に関する基礎資料として社会へ提供する方向で努力する所存である。

  • 情報化職場の快適化に関わる労働衛生上の要件に関する研究
     働く人々のストレスが増大している情報化職場の快適化を目指し、情報機器利用の人間工学上の実践的マニュアルを提案するための研究である。評価委員から、「初期に設定した研究計画に従って的確に実態調査、課題抽出、シミュレーション実験、摘要と評価、と段階を追って推進し、自立支援型マニュアルを完成し、産業現場に提供した。社会的貢献、行政的貢献は大きく、高く評価されよう。」との評価や、「研究結果を作業者だけでなく、製造者にもわかりやすく示して、役立ててほしい。」とのご意見を頂いた。今後は、成果を生かし費用対効果を上げるべく、マニュアルを普及させ、活用し、さらに充実させるべくバージョンアップをしていく予定である。その際は、SOHOやモバイルワーク等の種々の作業態様も視野に入れていく必要があると考えている。

  • 有機溶剤等を取扱う非定常作業の作業環境管理に関する調査研究
     保守点検やタンク洗浄作業など適切な環境管理に課題がある非定常作業を対象とし、作業環境管理に資する対策の提言を目指した研究である。この研究では、濃度の変動、分布の広がりがある環境でのばく露濃度測定であるため、模擬実験においても濃度の規定が難しく、実験の繰り返しにより正当性を検証する必要があることが困難な点である。評価委員からは、「有機溶剤等を取り扱う非定常作業は多く、その実態の把握とばく露評価はきわめて重要であるが、困難な課題である。実態調査と評価法の開発では一定の成果を挙げているが、その実用化に向けて一層の研究成果が期待される。」との評価や、「作業環境条件の把握が難しい非定常作業の環境分析法、ばく露の評価に取り組み、3年で新しい分析手法を開発し、作業現場での試用に漕ぎつけたことは評価に値する。開発した分析手法について十分に検証し、マニュアル化にも繋げて欲しい。」との要望があった。最終年度は、残されている問題である捕集速度による誤差の問題を検証し、シミュレーション計算も援用して提案した測定方法を検証し、論文発表、インターネットでの成果の紹介等で成果を公表していく予定である。

  • 労働環境における全身振動ばく露の計測と対策に関する研究
     腰痛予防のための全身振動ばく露に関するガイドライン策定を目指し、振動ばく露の実態を明らかにするとともに、国際規格を提案することを目標としている研究である。評価委員から、「建設機械等は傾斜した状態での作業も多い。コンテナヤードの作業は上向きの作業も多く背掛も関与するのでは?」のご指摘があった。全身振動ばく露に姿勢が影響すると疫学調査では言われているが、実際の振動伝達などへの姿勢の影響に関しての実験室での検討は行われていないので、今年度は全身振動ばく露への各種姿勢影響に関しても実験を実施する予定である。「全身振動の健康影響の指標として腰痛は重要であるが、同時に他の健康指標の検討も重要と考えられる。」とのご指摘があった。腰痛以外の健康指標として何を考慮するかについては文献調査を実施する。また、「研究計画では腰痛問題調査のアンケートも実施し、全身振動ばく露ガイドラインに結びつけることが述べられている。難しいこととは思うが、出来れば次年度計画に織り込むことが望ましい。」とのご意見があった。アンケートによる腰痛問題調査結果と全身振動ばく露量との量−反応関係を明らかにする調査を実施する予定である。さらに、「国際貢献および運輸労働者に資する研究成果を期待する。」との記述もあった。今回の研究結果を我が国から国際規格改定作業へ提案するとともに、運輸労働者の腰痛予防に資することが出来るように努力する。また、「地味な研究であるが我が国の「全身振動曝露対策指針」が出されること、それが腰痛の予防につながることを希望する。」とのご意見があったが、今回の結果から腰痛予防のための振動ばく露限界値などの設定やばく露対策指針へデータとして貢献出来るように努力する。

  • 作業関連疾患・生活習慣病における職業因子の寄与に関する疫学的研究
     作業関連疾患や生活習慣病の発症データを収集・解析し、それらの発生に寄与する制御すべき職業性因子を疫学的に明らかにするとともに、予防対策に資することを目指した研究である。評価委員からは「非常に大きな研究課題であり、多数のコホート作成には成果を挙げているが、解析方法も容易ではないと考えられる。実効のある研究成果をあげることが期待される。」あるいは、「疫学研究の基礎づくりが予定どおりに達成されたことは喜ばしい。症例登録システムにより更に充実され、職業性危険因子の関与の解析が順調に進むことを期待している。」などの評価が寄せられた。本プロジェクトは運輸労働者と溶接労働者の集団で大規模コホート調査を実施し、職業性の危険因子(前者、長時間労働と疲労;後者、粉じんと化学物質)が各々の循環器疾患と肺がんのリスクを高めることを主眼に置いたが、コホートを構築できなかったため、プロジェクトの全体像がやや不明確になった。しかし、既存のコホートデータの電子化と解析、人口動態統計などリファレンスデータのデータベース化、新たな疫学研究基盤としての疾患登録システムの開発などの予定のサブプロジェクトは順調に進んでいる。また、小規模ではあるが中小企業の労働者の集団を対象とした作業関連疾患のサーベイランスや、大規模事業場労働者を対象とした疲労と健康障害に関する追跡調査も始まった。また、「倫理、プライバシーに十分配慮した研究遂行を望む。」とのご意見があった。今年度は労働組合・業界団体等との緊密な対話を土台に、当初目的とした二つの集団で、小さくとも労働者の積極的な参加に依拠するコホートの構築をおこなう。労働と健康障害の関連を疫学的に検討するには、国のプロジェクトとしてやる以外の方法はなく、これはまた倫理・プライバシーに関する問題を解決する上でも有効な手段になると考えている。

  • 高年齢労働者の職業性ストレスに関する総合的研究
     作業態様の変貌や作業温熱環境がもたらす職業性ストレスを予防して、高年齢労働者が健康かつ快適に働ける労働環境の構築を目指した研究である。評価委員からは、「定年制の延長にも伴って重要な研究テーマと考える。働く必要の濃厚な高齢者が益々増えることは目に見えている。高齢者就業マニュアルまで進展してほしい。」あるいは、「他の年齢層と比較して、高齢者の特徴を明らかにし、対策を提起されることを期待する。」そして、「急速に高齢化社会に移行しつつあるだけに、重要な研究と考えるが、研究を始めて1年の段階で、高年齢労働者の業務上疾病についての新たな知見を得、機器操作に伴うストレス反応を引き起こす条件についても有効な指標を見いだすことができ、温熱ストレスの影響評価についても着々と準備が進んでいる模様で、社会的・行政的貢献の高い成果が期待される。」などの評価意見を頂いた。「機器操作に伴うストレス反応」と「温熱ストレスの影響評価」に関しては、ともにストレス反応の測定と評価に必要なシステム開発を伴うが、開発は比較的順調に進んでいる。今年度中には実験室実験で使えるようにし、高年齢労働者の職業性ストレス反応に関わる因子について検討したい。


c) 事前評価

 新規課題として平成16年度から開始を予定している下記研究課題の計画につき事前評価を受けた。評価委員からは、学術的視点、社会的ニーズ、行政的ニーズ、新規性・独創性、実現性の軸、および総合評価において概ね高い評価を頂いた。新たな方向性や成果への期待等、有益で建設的な多くの意見を頂き、今後とも研究所内部で各課題の実施に関する詳細を検討したいと考えている。

  • 作業環境中の有害因子に対する感受性を決定する遺伝的素因に関する研究
  • 筋骨格系障害予防のための疫学的及び労働生理学的研究

2) 競争的資金による研究

 研究所では、中期計画により、関係省庁等からの競争的資金獲得に向け積極的な応募を行うこととしている。平成15年度に研究所の研究員が代表者として競争的研究資金を獲得し実施した研究は、地球環境保全等試験研究費、厚生労働科学研究費補助金、科学研究費補助金等による12課題であった。またこの他に、2件の受託研究資金を獲得し、研究を実施した。これら関係省庁等からの競争的資金は、研究費の交付決定と研究成果の評価を実施するための仕組みが当該省庁等にあり、平成15年度計画に定めている内部・外部評価の対象に該当しないため、ここでは省略することとした。

(2) 基盤的研究

 基盤的研究課題については、各部での評価結果を、内部評価委員会で審議の上研究計画変更や研究予算配分等へ反映させることにより、内部進行管理に積極的に活用している。以下に、各研究部で実施されている基盤的研究及び所内特別研究の概要を示す。

1) 作業条件適応研究部

 作業条件適応研究部は、労働者の健康状態の評価法および健康管理法を調査・研究することを主な目的としている。
作業条件適応研究部がつかさどる業務を次に掲げる。1)労働者の健康状態の評価技術及び健康管理の技術的方法に関する調査及び研究に関すること。2)労働時間、休憩時間その他の作業条件が労働者の健康に及ぼす影響に関する調査及び研究に関すること。3)労働者の身体的諸条件に応じた作業条件の適正化に関する調査及び研究に関すること。4)作業環境における諸条件が労働者に及ぼす生理的及び心理的な影響に関する調査及び研究に関すること。 5)労働に伴う精神的負荷が労働者の健康に及ぼす影響に関する調査及び研究に関すること。6)前各号に掲げるもののほか、研究所の所掌に係る調査及び研究に関する業務で他の所掌に属しないものに関すること。
分野1)では評価技術の研究が行われており本年度で3年間の「健康増進対策における飲酒の位置付け」が終わる。尿中酸化的DNA損傷物質が飲酒量との関係で疫学的研究結果と同様の傾向を認めた。次年度からは「健康増進対策における喫煙指導のための指標開発」へと研究を発展させることとなった。
分野2)では昨年度で「長時間・深夜労働の健康影響の修飾要因」「長時間・深夜労働の生活習慣・生活の質への影響」の研究が終了した。長時間労働に対する有効な健康度指標を見つけると共に、仕事満足度などの修飾要因の存在を明らかにした。本年度はそれらの成果に基づき「過重労働による健康障害の予防に関する研究」の研究で疲労蓄積度自己診断チェックリストの開発を進めている。また睡眠・リズムの観点から「労働スケジュールにともなう睡眠問題の緩和と睡眠健康の促進に関する研究」と「生理的ストレス評価指標と測定時刻に関する研究」も動いており睡眠問題の重要性を社会へ啓発する活動も活発である。
分野3)では高齢化と労働機能という観点から研究が進められており昨年度終了した「中高年齢労働者の運動・動作特性に関する神経科学的研究」が本年度開始の「運動調節機能の発達と加齢にともなう変化」「高年齢労働者の健康と生活の質の評価システムの開発」へと引き継がれている。
分野4)では実験研究として「種々の環境下での筋肉の性質」が行われており、遠心力負荷を加えて長時間立位作業をシミュレートする方法を研究している。
分野5)では「職業性ストレスと健康職場に関する研究」「ストレス・疲労および睡眠の疫学・免疫学的研究」などでストレスの問題が活発に研究されており、また「海外日本人就労者のメンタルヘルス対策」において海外勤務における精神的健康の問題が研究されている。
分野6)では「建築業従事者におけるじん肺および石綿関連疾患のリスク評価」が前年度で終了し、本年度から「建築業従事者におけるじん肺および石綿関連疾患のリスク評価II」へ引き継がれている。また「職業がんの疫学的研究」は着実に続けられている。

2) 健康障害予防研究部

 健康障害予防研究部は、職業性疾病を効果的に予防するために、さまざまな化学物質による中毒や職業性疾病の発生メカニズム等に関する実験的研究を行っている。
平成14年度で終了した化学物質の神経系・生殖系への影響に関する課題においては、比較的簡素な影響指標をまとめた。この成果はプロジェクト研究における「フロン代替品」に応用され、フロン代替品の未知の中枢興奮作用をあきらかにするなどの成果につながった。また、薬物代謝酵素に関する終了課題では、白血球におけるp450アイソザイムの応用などの成果をあげた。この成果は、競争的研究資金による「内分泌かく乱化学物質の次世代影響評価」に応用された。継続課題のうち、鉱物繊維や希土類金属の生体影響に関しては希土類金属酸化物の気管内投与の影響などを調べ、肺の病理的変化における粒子サイズの寄与などを明らかにした。生体防御系に関する課題では、Cd・Znなどの重金属をヒト由来培養細胞にばく露したときの遺伝子発現の変動を明らかにしつつある。化学物質の変異原性と試験基準に関する研究では、GLP試験基準の世界的調和などに貢献している。化学物質にかかわる健康障害事例研究では、事例から中毒対策上重要と考えられる化学物質を抽出している。化学物質ばく露のバイオマーカーと生体影響修飾因子に関する課題では、マーカーの開発とともに性・年齢等の修飾因子について検討し、体内脂肪量が内部ばく露に大きく影響することを示した。職場有害因子が細胞機能に及ぼす影響に関する課題では、転写因子とよばれるたんぱく質が遺伝情報の発現を制御していることに着目し、転写因子の可視化等の基本条件を検討している。産業化学物質の内分泌系への影響に関する研究では、内分泌・生殖系への影響をはかる指標としての甲状腺ホルモン代謝や生殖器の形態などを検討している。長時間労働による循環器影響に関する実験的研究においては、ラットを使って長時間の運動負荷の循環器への影響を検討している。また、ヒトの心電図等の検討も行なっている。
化学物質に関連する日本の労働環境はおおむね改善されてきており、それだけに化学物質の健康影響は潜在化し表にあらわれにくくなっている。環境ホルモンの例などがあるが低濃度ばく露による健康影響が懸念され、また複合ばく露の影響も現段階では適当な評価がなされていない。ヒトでは出来ない影響評価を動物実験などにより今後遂行する。

3) 有害性評価研究部

 有害性評価研究部は、職場環境に存在する有害性の確定していない化学物質や物理的因子の有害性の評価と予測、および有害因子の人体に対する許容度に関する調査・研究を行っている。
平成15年度に実施した研究課題は、前年度より継続の研究10課題であった。研究内容は実験的な有害性の機構解析、健康影響の評価法開発、現場調査に基づくリスク評価等である。各々の詳細は以下のとおりである。
(1)実験研究による有害性の機構解析としては、産業化学物質の遺伝子発現影響や繊維状物質の発がん性の解明を目的とした研究を引き続き実施し、知見を集積した。
(2) 職場有害因子の健康影響評価を目的とした方法論的研究を以下のように行った。近年社会的関心の高い生殖影響に着目し、遺伝子影響評価、生殖影響の組織病理学的評価、免疫・生殖影響評価に関する研究・開発を進めた。また労働衛生上の新たな分野である視機能・眼毒性の評価に関する研究を引き続き実施した。本研究の成果は特許出願に至っている。
(3) 現場調査に基づく種々の職場有害因子のリスク評価に関する研究を以下のように行った。ストレス・疲労度、職業がんの研究については前年度に引き続き実施した。また前年度終了課題を発展させ、より広範囲の職場を対象とした金属ばく露評価の研究を今年度から開始した。国際的視野に立つ研究として、アジアにおける職場有害因子のリスク評価を開始した。
 平成16年度からは3件の研究を新たに開始する予定である。このうち2件は平成15年度までの研究を発展させるものである(職場因子の生殖影響、過重労働の免疫学的指標)。また有害物ばく露状況・健康影響データベースの構築を新たに開始する。
現状では、各々の研究課題が社会的・行政的ニーズに沿った健康障害防止策推進という視点に基づき適切に選択・実施されていると考えている。

4) 作業環境計測研究部

 作業環境計測研究部は、労働者の健康障害防止を目的とした作業環境管理を適切に行うため、化学物質や物理的因子の測定方法や評価方法、あるいは発生予測に関する研究を行っている。
昨年度終了研究は4件、本年度継続研究と新規研究は各々10件と3件である。各研究は、中期計画の基盤的研究「有害化学物質の環境濃度・ばく露レベルの計測と評価に関する研究」「化学物質等の健康影響機序の解明および有害性評価法の確立に関する研究」、及び「労働衛生に関する国際基準、国内基準の制度改定等への科学技術的貢献に関する研究」等に該当する。対象は、粉じん・金属、有機溶剤・ガス、有害光線であり、それぞれ測定方法の開発、物質のキャラクタリゼーション、粉じんの分離方法と発生方法の開発等である。
昨年度終了した4課題は、それぞれ初期の目的をほぼ達成して終了している。活性炭を中心とした吸着剤の工場での再使用を念頭に置いた研究「有機ガス用再生型吸着剤に要求される性能と吸着剤の性質に関する研究」は、現実的な問題(再生コストと廉価な活性炭のバランス問題)から、有効性に疑問が生じた研究である。
継続課題の「構造式から化学物質の有害性を予測するシステムの開発」は、ニューラルネットワーク法を用いてきたが限界が分かり、今年、線型学習機械法に変えて予測モデルの作成を試みている。「ディーゼル粉じん量を把握するための指標成分の検討」は、今年はディーゼル粉じん中の無機炭素量と有害有機成分との相関を求める研究を行っている。「呼吸保護具と有害ガスに関する研究」は、湿度の影響が対象ガスによって様々である点を定量的に示すもので、今後、防毒マスクの適切な管理に生かせる成果といえる。そのために実際の防毒マスクの実態把握も含めて具体的な調査が必要である。
現行課題はいずれも労働衛生の現実対応型の研究を行っている。基盤研究は、各研究者の自由な発想で現在及び将来労働衛生上役立つ研究を行うことが重要で、今重要な課題は比較的設定しやすいが、将来役立つ研究テーマを設定するのは至難であり、また評価も難しい。しかし、将来を見通した研究もやっておかないと各研究員の技能・知識および研究所もジリ貧となる。また、特別研究と異なり、各自の考え・ペースで研究を進められるので、必ずしも計画的に順調に進む場合だけでなく、停滞してしまう場合もある。
新規課題の「原材料及び石綿製品中の石綿含有率定量法とそのマニュアル化」は、平成16年の石綿製品使用禁止に伴って必要になる石綿製品の判定方法(特化則では1%以上石綿を含むものを石綿製品としている)を示すもので、緊急を要する課題である。「炭酸ガスアーク溶接時に発生する粉じんと有害ガスの測定」は、COガスの発生に焦点を当てて閉鎖空間での溶接などの危険性を評価するもので、平成15年度から始まった第6次粉じん障害防止総合対策に関係したテーマである。

5) 人間工学特性研究部

 人間工学特性研究部は、労働者が使用する機械・器具その他の設備の人間工学的見地からの評価や標準化に関する調査・研究、作業環境中の有害物質の工学的除去技術に関する研究および保護具を労働者の特性に適合させる研究を行っている。
粉じん関連では電界中で微小粒子を大きさ別に分級捕集する装置(DMA)を設計・開発したところ、国立環境研のグループも同様形態の機種を使用し始めるなど一定の評価を受け、現在改良を続行している。磁気を利用した集じん機能付き排気フードの試作を試みたが原理的に実現不可能である事が判明した。新たに個々の現場の作業形態における換気装置の有害物質拡散モデルの開発に着手した。呼吸保護具関連では多種類の防じんマスクについて日米の漏れ試験装置で比較検討したところ漏れの指示値がかなり異なる事が判明した。防毒マスクの除毒能力劣化の主因は吸湿であることから、吸湿が及ぼす各種有機溶剤への除毒能力(破過時間)変動を実験的に推定した。人工多孔性無機化合物及び天然粘土試料を鋳型として新規炭素材料の合成を試みたところ,特徴ある細孔分布を持ち、活性炭と同等もしくは更に高い吸着量・吸着速度を示す炭素材料が得られた。振動・騒音関連では、現在快適職場の全身・手腕振動環境を評価するISO2631-1とISO5349-2が日本人に適用可能か否かを検討したところ、全身振動では周波数補正法に、手腕振動では身体的特性やハンドル加速度と把持力の強さのアンバランス等の問題があることを明らかに出来た。また、振動の生体影響を考察する上で振動に対する脊椎の振動伝達率を計算すると周囲の筋肉などの影響により位相が逆転する事が示唆された。複合低周波音および低周波域のホワイト・ノイズの何れにおいても人体が低周波音による空気振動に対して、ほぼ線型な機械的応答をするということが示唆された。騒音の到来方向が作業者に与える影響を検索したが、方向による影響の差異は明らかでは無かった。この他、作業姿勢に由来する腰痛防止のために開発した姿勢補助器具は主観的な疲労感および筋負担を軽減するが、下肢や腰部の疲労軽減を目的に使用されているマットの疲労軽減効果は認められなかった。また、短期間の電磁場ばく露は雄性生殖器にほとんど影響を及ぼさないことが明らかになったので、世代に渡る影響の検索を続行している。平成15年度をもって3課題が終了したが、それらの成果を踏まえ新規2課題を計画した。また、日米での防じんマスク評価方法の差異や振動関連ISOの問題点を指摘できたので、JIS やISO の委員会へ基礎資料として発信する予定である。今後も今年度以上の成果を目指し持続的に努力する。

6) 企画調整部

 企画調整部は、研究所全体の調査・研究に係る企画・立案・調整、産業医学に関する情報の収集・分析、および広報・出版に関する業務を担当するとともに、各部員は自らの研究を実施している。
平成15年度の企画調整部業務のなかで特筆すべき最も重要な事項は、図書情報室を改組し、国際研究交流情報センターを4月1日付けで新設したことである。同センターでは、3名の専従研究員及び各部から兼務する適任者を得て順調に業務を開始している。同センターの所掌業務は、国内外の労働衛生関連情報の収集や提供、国際研究交流及び国際学術誌発行等である。今年度の実績として、スウェーデン国立労働生活研究所等から研究者を迎え、平成15年11月に産医研国際セミナーを公開により開催したことや、産医研がアジア地域の労働衛生研究の中核拠点としての役割を明確に果たすべく、具体的交流業務の検討を進めていることを挙げることができる。
企画調整部業務は、研究の企画・立案・調整、産業医学一般に係る情報の収集・分析・広報等、多岐に渡る内容であり、他の研究部業務を横断的に支援すると言う性格を持つ。更に、独立行政法人化にともなう諸業務に対応すべく、企画調整部に所属する研究員は企画調整業務を主とし、研究活動を従として広く所内業務に従事している。例えば、研究予算管理や所内諸規程類の起案・調整・決定に至る手続き業務等である。内部評価委員会、外部評価委員会、厚生労働省独法評価委員会等への提出資料作成等は、企画調整部員の積極的な参加を得て実施している事項である。
研究業務は、一般的に継続性が必要である。企画調整部が所掌としている断続的かつ非定形業務は、研究実施と両立させることには格別の配慮が必要である。例えば、事前に綿密な日程調整が不可欠な被験者実験や、長時間にわたりデータを収集し、解析に多大な時間や労力を必要とする生理的実験を困難にすることになる。この意味で、今年度に試行した一部定型業務の外注化等の成果を今後に活用したいと考えている。また、企画調整部所属の研究員の成果は、研究活動とともに、企画調整部業務に貢献した内容で評価すべきであると考えている。
以上に述べた企画調整部の業務内容に基づき、他の研究部とは異なる視点からの総括であるが、平成15年度の企画調整部諸業務は、所属部員の協力の下に概ね高い実績を残せたものと考えている。

7) 所内特別研究

 所内特別研究は、重点研究領域特別研究課題が平成17年度まで中期目標で既に定められているため、時々に直面する労働衛生上のテーマに機動的に対応することを目的とし、所内で適宜予算上の配慮をした上で実行しているものである。所内特別研究は、中期目標に記載されてはいないが時期を逃さず社会的行政的要請に的確に対応するため、研究所が必要と定めた課題を実施するための仕組みである。
「職業関連疾病監視記録システムによる衛生管理特別指導事業場における労働衛生管理実施状況に関する調査研究」及び「労働者死傷病報告に基づく業務上疾病の発生状況の分析」は、行政データの詳細な分析やデータベース化を行い、これまで一定の成果を行政に報告し、また産医研研究課題設定等に活用してきた実績がある。
「ダイオキシン類測定法の高度化に関する研究」は、当研究所に設置されているダイオキシン類分析施設を活用し、分析技術の高度化を図ることにより、ばく露による健康影響評価に関して測定技術面から貢献しようとするものであり、今後、学術論文等による成果の公表が期待される。
「職場有害因子の遺伝子影響評価法に関する研究」は、平成16年度開始の重点研究領域特別課題の予備的研究と位置付けることができる。感受性等の個人差に係る遺伝子解析は、労働衛生研究において近未来に重要な意味をもつと予想される。国の倫理指針との整合性を保ちながら、本研究が先駆的役割を果たすことが期待される。
「化学物質の低濃度ばく露状況における健康影響の指標と評価」は、平成17年度開始予定の重点研究領域特別研究課題「有害因子ばく露の低濃度化等の状況における生体影響指標の開発と健康管理」に成果を活用し、内容的に継続されると考えられる。その意味で、平成16年度に向けた本課題の内容整理と発展が期待される。

 

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