独立行政法人産業安全研究所 と独立行政法人産業医学総合研究所は平成18年4月1日をもって統合し,独立行政法人労働安全衛生総合研究所となりました。
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独立行政法人 産業医学総合研究所
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National Institute of Industrial Health

平成17年度研究評価報告書要約

1. まえがき

 独立行政法人産業医学総合研究所(以下、研究所という)では、研究所役職員により構成される内部評価委員会と、外部有識者及び学識経験者により構成される外部評価委員会を設置し、研究課題ならびに研究所の運営について評価を実施してきた。評価の目的は、国の研究開発評価に関する大綱的指針に沿った厳正な評価を行うことにより、研究の質的向上と業務運営の効率化を図り、優れた研究成果を創出することにある。
  平成13年度には、従来の指針を見直した「国の研究開発に関する大綱的指針」が定められた(平成13年11月28日、内閣総理大臣決定)。この新たな指針に対応するため、研究所では平成14年度に評価規程類を全面的に改定した。平成17年度の内部評価及び外部評価は、これらに定めた新たな基準に基づき実施したものである。ここに、その結果を取りまとめ、「平成17年度研究評価報告書要約」としてインターネット上で公表することとした。

2. 評価対象

 研究所では、平成13〜17年度の5年間にわたる中期目標を達成するために中期計画を定めているが、本年度もこれに沿った研究評価を実施した。プロジェクト研究と基盤的研究の各々について、平成16年度に終了した課題及び平成17年度に実施した課題の成果、平成18年度に開始する課題の計画を評価対象とした。プロジェクト研究とは、研究期間・方向・到達目標を明確に定めて重点的に資金及び研究者を配する研究である。同研究には、労働現場のニーズ及び行政ニーズに直接的に対応する重点研究領域特別研究と、他省庁等の競争的資金を獲得した上で実施する研究がある。基盤的研究とは、各専門分野の研究者が単独または少人数で行う比較的長期間にわたり継続的に実施する研究であり、将来生じるであろう課題にも迅速且つ的確に対応できるようにするための研究である。基盤的研究のうち特に重点的に推進する必要のあるものを所内特別研究とし、資金及び研究者の配分を配慮して実施している。

3. 評価方法

 中期計画では、外部の第三者による評価とともに、内部進行管理を充実させ研究業務の効率的な推進を図るため内部評価システムを活用することとしている。重点研究領域特別研究については、平成16年度終了課題の成果評価(事後評価)、平成17年度実施課題の成果評価(中間評価)及び平成18年度開始課題の計画評価(事前評価)を、課題ごとに、内部評価委員会及び外部評価委員会において実施した。基盤的研究については、個別課題の評価を各部内において上記と同様に行い、内部評価委員会で結果の妥当性を検証した後、各部長による総括を外部評価委員会に報告した。所内特別研究については、内部評価委員会において評価を実施した。

 重点研究領域特別研究の評価に関わる成果報告書・計画書等の資料は、内部評価委員会での審議を経た後に外部評価委員会に付託され、外部評価委員による評価を受けた。同委員会は、下記学識経験者7名の委員およびオブザーバーである主務省担当官から構成される。

委員氏名(敬称略) 所属(平成17年12月現在)
   上野満雄 自治労安全衛生対策室 顧問医
   竹内康浩(委員長) 介護老人保健施設かいこう 施設長
   田中勇武 学校法人産業医科大学産業生態科学研究所 教授
   北條 稔 大森医師会 理事
   安井 至 国際連合大学 副学長
   柳澤信夫 関東労災病院 院長
   横山和仁 三重大学 教授

 外部評価委員による、重点研究領域特別研究の成果に対する中間評価と事後評価は、「目標達成度」、「学術的貢献度」、「社会的貢献度」、「行政的貢献度」、「費用対効果」の5評価軸に対して各々5段階の数値的評価を与える個別評価と総合評価点、および委員が自由形式で意見を記述する評価法により実施した。次年度に開始を予定している重点研究領域特別研究の計画に対しては、「学術的視点」、「社会的ニーズ」、「行政的ニーズ」、「新規性、独創性」、「実現性」の5評価軸と総合評価について、同様の数値的評価と自由記入形式により評価を実施した。評価委員が提出した評価点と意見は各課題担当者へ通知し、担当者は評価委員の指摘に対する措置・対応等を文書で回答することにより、更なる研究の質的向上に反映させるようにした。

4. 評価結果の概括

(1) プロジェクト研究

1) 重点研究領域特別研究

 平成16年度に終了した「有機溶剤等を取扱う非定常作業の作業環境管理に関する調査研究」と「労働環境における全身振動ばく露の計測と対策に関する研究」に対し、事後評価を実施した。また平成17年度に実施した6課題につき、中間評価を実施した。そのうち「作業関連疾患・生活習慣病における職業因子の寄与に関する疫学的研究」と「高年齢労働者の職業性ストレスに関する総合的研究」は、平成17年度で終了する課題である。また「職業病・作業関連疾患発生状況に関する全国サーベイランス」と「有害因子ばく露の低濃度化等の状況における生体影響指標の開発と健康管理」は平成17年度から新たに開始した課題である。平成18年度に開始する2課題「過重労働による蓄積疲労の予防に関する研究」と「労働衛生保護具着用時の作業負担と機能性・快適性に関する研究」については、事前評価を実施した。以下に重点研究領域特別研究の各々につき、事後評価、中間評価、事前評価の結果と、評価意見に対する対応等を略述する。

a) 事後評価

  • 有機溶剤等を取扱う非定常作業の作業環境管理に関する調査研究
    評価意見:個人ばく露評価は有機溶剤等のヒトに対する毒性評価や許容濃度設定には不可欠なデータである。特に非定常作業の作業環境管理はばく露評価が困難なため非常に重要な課題であり研究成果が期待された。非定常作業は全体の作業工程の一部であり測定現場を選定し協力してもらう苦労が多大であるにもかかわらず、研究目的に整合して研究が実行されたことは評価できる。しかし、期待が大きかっただけに主となる成果がパーソナルサンプラーの取り付け位置について新しい知見が得られたことだけだったのには物足りなさを感じる。また、社会的、行政的にニーズが高い研究であるので論文としてまとめるべきである。また、非定常作業ということで、類型化が困難なのかもしれないが、より簡便な指標、例えば、溶媒の総使用量、単位時間当たりの使用量、換気状況の定量的な評価などによって、ランク分けなどが行えなかったのだろうか。今後この研究を発展させ、非定常作業における個人ばく露量の予測値が、作業者、管理者に数値として提示できる作業環境管理システムの構築に期待したい。
    対応:得られた結果が個人ばく露の測定に2つサンプラが必要になるという結果であり、発表を躊躇していましたが結果は結果でありますので来年度中に論文として投稿いたします。また、本法は中災防が行っているHPVCのばく露調査に採用され、社会及び行政へ一定の貢献を果たすことができました。現在、厚生労働科学研究費で個人ばく露量の推定モデルの開発、シミュレーション、数値計算によるばく露推定法の比較検討を行っていますので、本研究での知見をも含めて個人ばく露管理、リスクアセスメント等に有用な情報が今後提供できると考えています。

  • 労働環境における全身振動ばく露の計測と対策に関する研究
    評価:筋骨格系への負担を軽減するための作業機械が数多く導入されている。作業機械の座席は耐久性の点で頑丈に作られているが防振性あるいは腰痛防止の観点からの配慮は少ないかもしれない。これらを含めた長時間車両運転による振動ばく露がどのように生体に影響を与えるかは産業医学上重要でかつ斬新な課題であり、これら要因が原因となる腰痛の防止対策に本研究の成果が期待された。多軸加振装置を作成し全身振動ばく露量評価システムを構築できたこと、またそれらの業績が学術誌へ掲載され社会へフィードバックされたこと等目標にほぼ見合った研究成果が出たと考えることができる。しかし、その装置を用いて得られた結果がどのように腰痛対策につながるのかまではまだ明確になっていない。この多軸振動ばく露評価システムを今後も活用して職業性腰痛症予防対策に生かされ研究成果がでることを期待する。
    対応:今後、今回構築することが出来た多軸振動ばく露システムと多軸振動ばく露評価システムを用いた座席等の評価方法の確立と、多軸振動ばく露に対する健康影響に関しての実験室実験での研究を継続したいと考えています。本装置を用いて得られた結果の一部は、国際学会などで発表していますが、今後は論文としてオーソライズしたいと考えています。

  • b) 中間評価

  • 作業関連疾患・生活習慣病における職業因子の寄与に関する疫学的研究
    評価:過重労働・長時間労働等による健康障害や過労死が問題となり安衛法の改正も行われたところである。過労死等の内容を検討すると殆どの事例で基礎疾患を有している。作業関連疾患や生活習慣病を過重労働・長時間労働が自然経過を超えて増悪させている状況があり、本研究は重要なものと考える。
      大きなコホート及び症例収集システムにおける協力者の確保は本研究にとって非常に重要である。しかし、現状はまだコホートの整備及び電子化の段階であり、計画に見合った研究成果に達してはいないように見受けられる。意欲的な課題であるがテーマが大きすぎたのではないか。研究の焦点をもっと絞った方が良いように思える。例えば疲労蓄積度チェックリストは、概念的には有用性が期待されるが、まだデータ的裏付けがない。先ずは現在までのデータを活用して、所定の成果を上げていただきたい。その上で、産業医学として社会に対してどのようなメッセージを出すことになるのか、何が新しい提言になるのか、現時点でもう少々先を考えておく必要がある。しかし、縦断的研究の重要性を考えれば、本研究に基づく統計的基盤システムの構築に期待したい。
    対応:本プロジェクトでの最大の目標は、職業性ばく露の健康影響評価を目的とした、大規模多目的コホートの構築でした。しかし、プロジェクト発足前後より、個人情報保護が非常に大きな問題となったために、たとえ小規模であっても氏名や住所、生年月日等の情報が必要となるコホート研究の実施が極めて困難となりました。さらに、既存の疫学データについても、市町村合併に伴って膨大な量の住所データ更新作業が必要となるなど、予定した速度でプロジェクトを進めることができなくなる要素が発生してしまいました。本来、プロジェクト研究に与えられた3年間という期間で大規模なコホート調査を完結することは不可能であり、計画当初から継続性を念頭に置いています。その最初の段階として、当研究所が保有する貴重な疫学データを活用できる準備体制を本年度までに整えることができました。今後、さらに追跡を継続して、健康リスクの評価に貢献できるデータを提供できるよう努力したいと考えます。

  • 高年齢労働者の職業性ストレスに関する総合的研究
    評価:特に小規模事業場、土木、建築現場で高齢者の増加が著しく危険もふえているので重要な研究課題である。本研究では多面的な研究が行われているが、研究対象が多様で、それぞれの対象により研究方法が異なるために、全体としてやや散漫な印象を受ける。
     高齢労働者の生理的指標は、加齢の効果と職業性ストレスの効果を分けて論ずる必要があり、それが充分になされていない。眼球運動、心拍などを指標とした根拠も充分に示されていない。また、加齢による人体機能の劣化も、ストレスの感じ方も個人差があるように思える。例えば、視力の低下、筋力の低下などは共通要因であると思えるが、平衡感覚の喪失や、瞬間的判断力の遅れなどは、個人差が大きいのではないか。個人差を適切に評価できる指標を開発し、その成果が作業条件の最適化に寄与できるよう発展させてほしい。産業現場において、高齢者の安全衛生管理は、ますます重要性を増してくるものと考えられ、体系的安全衛生管理システムの構築が期待される。また、英文原著の発表をもっと積極的にすることを期待する。
    対応:本研究では、高年齢労働者の職業性ストレスに関する総合的研究を推進してきましたが、まだ高齢労働者の生理的指標における加齢の効果と職業性ストレスの効果を分けて評価することができていません。したがってこの課題に関する研究を平成18年度も引き続き行うことにしています。本研究の成果は、現在、原著論文および報告書としてまとめていますが、ここでは人間の諸機能の個人差は加齢に伴い大きくなること、そしてこのことを踏まえた労働衛生対策の重要性について言及したいと考えています。

  • 作業環境中の有害因子に対する感受性を決定する遺伝的素因に関する研究
    評価:職場有害因子に対する感受性を遺伝的素因により差別してデータベース化することは、職場の国際化とともに人種差も考慮する必要が出てくることから大変有意義なことであり、特定有害金属による防御生体反応が一般の職場有害因子に対する反応と共通していることを是非示してほしい。ただし、感受性素因に関してはすでに薬物代謝等にかかわる遺伝子多型の研究がオーソドックスなものとして展開されているが本研究があえてそのような手法をとらない理由が理解しにくいので説明が必要であろう。また、重要な研究課題であるが、現在の日本では職業的高ばく露集団の存在も余り多くないだろうから、途上国における産業環境の改善に対する指針を与えることになるだろう。今後本研究成果を日本における有害物質使用職場の労働者の調査に生かすための研究へ発展させるためには感受性指標となる遺伝子マーカーについて提言できることが望ましい。
    対応:労働衛生分野では他分野と違って未だ遺伝的個人差に関する研究への投資は限られており、その制限の中で極力効率的かつ着実な成果創出を実現するためには慎重なpriority settingが必要になります。感受性素因となる生体防御機構は普遍的なものと組織特異的なものとに大別されますが、本研究では特に研究の必要な前者を標的とし、その効率良い検出のためのbaitとして重金属類を利用することにpriorityを与えることとしました。委員の皆様からは、具体的な指標の提案、職場調査への活用、国際的視野での展開等の貴重なご提言をいただきました。今後これらを十分に念頭に置きつつ研究を進めたいと考えます。

  • 筋骨格系障害予防のための疫学的及び労働生理学的研究
    評価:腰痛研究は古くて新しい実践的研究分野であり、現在においても、業種に係わらず最も多い愁訴であるので本研究は大変重要であり、早急に成果が望まれる。特に本研究は新しい職業分野である介護従事者の作業様態を明らかにして対策をたてる課題を含んでおり、2つの主目標である「筋骨格系負荷を減らす補助具・装置の開発」と「障害発生予防のマニュアル作成」はいずれも重要である。但し、現在の成果を見るとこれに見合うだけの研究が展開しているか心配なところがある。残された期間でぜひ所定の目標を達成し労働態様の時代的変化に対応した改善策をマニュアルとして公表すること、そして今までの基礎的な研究成果に基づいて、今後は介入研究の発展等で実効的な研究成果をだすことを期待する。また、欧米における抜本的な予防策と、日本における予防策は、基本的に同じ考え方になるのか、それとも全く別の要素を考慮すべきだという結論になるのか、そのあたりを判定できるデータを揃えることも必要なのではないか。
    対応:介護労働者の介護職場からの離職は増大し、厚労省は「20%を下回る」という数値目標を掲げ、平成18年度から腰痛に関する医師の相談を始める状態にあります。平成18年度は最終年度であり、第一に、介護労働において、(1)今年度実施した大規模調査の解析を休養との関連で行い、(2)腰痛予防のための介護器具の開発と、その導入・実施のための方策の検討、(3)シミュレーション実験、介入研究を外部機関との共同研究にて行い、最終的には介護労働における腰痛予防マニュアルを作成します。第二に、建設業における質問紙調査の分析を進め、リスク要因を詳しく解析し、これまで実施されてきた対策の成果を明らかにしつつ、対策の一層の充実の方途を明らかにします。

  • 職業病・作業関連疾患発生状況に関する全国サーベイランス
    評価:職業病・作業関連疾患発生状況は労働衛生に関する重要な情報である。すなわち、本研究のミッションは、科学的な政策判断に役立つ情報を提供できる新しいサーベイランスシステムの開発にある。また近年は各事業場でインターネットで検索することが普及しているので事業場でも安全衛生面で必要不可欠な情報として活用されるであろう。本研究で取り組んでいるサーベイランスシステムは基盤的なデータ整備のために継続性のある疫学研究として発展させることが重要であるが、その利用も大いに期待されるので是非研究を進めてほしい。また途上国へのデータの移転と適用が可能になるような収集が行われることを期待する。3年計画の初年度として順調に実施されているように見受けられるがまだ研究がスタートした段階なので成果は明確でない。社会的に意義の高い研究であるので、所定の目標を達成していただきたい。
    対応:サーベイランスのネットワークに参加する医師のメリットを明確に示すことができず、想定していたよりもかなりゆっくりとしたスタートになってしまったことは否めません。今後は、サーベイランスシステムを用いて、振動障害や針刺し事故など特定の課題について活発に活動をおこなっているグループの支援など、現場の専門家に対する直接のメリットを提供しながら、徐々にサーベイランスの対象を拡げていこうと考えています。ツール自体は一定のレベルで出来上がっていますので、2年目には実際に「数字」で成果を示せるように努力します。

  • 有害因子ばく露の低濃度化等の状況における生体影響指標の開発と健康管理
    評価:低濃度長期ばく露による生体影響は労働衛生上極めて重要な課題である。すなわち、低濃度化が進むことによって障害が出ても判別が困難となることが予想できる。しかも、環境ホルモン問題で明らかになったように、ヒトと他の生物が同じ反応を示すかどうか、低濃度になればなるほど、慎重な態度を取る必要がある。本領域における研究は困難が多く、多面的分野の研究協力によってはじめて地道な成果が得られる。特にヒトを対象とする疫学調査をとり入れるべきであろう。しかしながら本研究では副課題が広汎に分散しておりもう少し系統的な研究が必要かもしれない。
    対応:「ヒトを対象とする疫学調査をとりいれるべき」とのご意見がありましたが、本課題では疫学調査までは予定しておらず、予算・人員等からみてそこまでは踏み込めません。ただ症例の解析についてはまとめていきます。また本研究に於いては、わずかな兆候を見逃すことなく把握できることを目標に課題に取り組んでいます。

c) 事前評価

  • 過重労働による蓄積疲労の予防に関する研究
    評価:メンタルヘルス不調者、自殺者の労災認定数の増加、メンタルヘルス不調による休職者の増加等山積した問題があり、今、最も注目されている研究課題であり社会的にも行政的にもニーズの高い研究である。しかし、期待されるニーズに応える研究成果を挙げるには大きな困難も予想される。すなわち、この課題は視点を変えないと根本的な改善にはつながらないのではないか。経営者や中間管理職が労働者の過労というものをどのように考えているか、それが効率を上げていると考えているのか、それとも、効率を下げているがどうしようもないと考えているのか。また、主観的に過労状態だと判断することは、通常の人間であれば、簡単なことである。過労ストレスにどのように対処するのか、という立場ではなく、過労状況になったときに、休暇が取れるような社会を実現しないと、根本的な改善にはならないことを自覚すべきである。
     過労状態であることを客観的に証明する簡便な方法が開発することは、有用であろう。心理行動反応の評価も生理学的評価に加えるとよい。単純疲労と峻別できる指標の開発および早い段階での蓄積疲労と健康の関連についての研究成果、そして効果的予防対策が実証でき得るインターベンシヨン研究を期待する。
    対応:働き過ぎによる健康悪化は漠然と理解されていても、過重負荷と健康との関連の定量的な研究が少ないことが、対策に結びかない要因の1つになっています。また、過労の原因としては長時間労働が主要な要因ですが、ストレス・家庭的負担・持病の状況などの諸要因が大きく影響します。個人差の大きい現象と言えますが、この点への理解も不足しています。本研究では、働きすぎの健康影響を、疲労を核として総合的かつ定量的に検討し、予防対策の提言へつなげたいと考えています。

  • 労働衛生保護具着用時の作業負担と機能性・快適性に関する研究
    評価:本研究課題は労働現場に直結した重大な問題を対象としている。しかし現状では、労働衛生保護具の有効性に関する科学的な根拠は乏しいか、最新の研究成果の有効活用に欠けるものが少なくない。特に機能性が最優先され、快適性については、等閑視されてきた傾向がある。是非機能性と快適性を両立させ、さらに経済性についても検討して、新しい労働衛生保護具を具体的に提示してほしい。そのためには、多職種の職場を訪問し実態を把握していただきたい。また指摘されているように、ヒューマンエラーも重要である。保護具を装着することによって、ヒューマンエラーが加速するようなことは無いのか、そのクロスカットイシューを解明することが重要なのではないか。
    対応:労働衛生保護具の現場での使用実態と問題点を明らかにするために様々な職場でのフィールド調査も予定していますので、現場の実態に即した実験研究を実施したいと思っています。また、保護具着用によるヒューマンエラー発生のリスクを実験的に評価していきたいと思っています。

2) 競争的資金による研究

 研究所では、中期計画により、関係省庁等からの競争的資金獲得に向け積極的な応募を行うこととしている。平成17年度に研究所の研究員が代表者として競争的研究資金を獲得し実施した研究は、厚生労働科学研究費補助金、科学研究費補助金等による10課題であった。またこの他に、4件の受託研究資金を獲得し、研究を実施した。これら関係省庁等からの競争的資金は、研究費の交付決定と研究成果の評価を実施するための仕組みが当該省庁等にあり、平成17年度計画に定めている内部・外部評価の対象に該当しないため、ここでは省略することとした。

(2) 基盤的研究

 基盤的研究課題については、各部での評価結果を、内部評価委員会で審議の上研究計画変更や研究予算配分等へ反映させることにより、内部進行管理に積極的に活用している。以下に、所内特別研究及び各研究部で実施されている基盤的研究の概要を示す。

1)所内特別研究

 運営費交付金で実施するプロジェクト研究については、重点研究領域特別研究として実施されている。重点研究領域特別研究の課題名等は平成13年度の独立行政法人発足の際に中期計画5年間に実施するものとして定められている。しかし、現実には時期に応じて中期計画に無い課題にまとまった研究資金・人員を投じる必要がある。所内特別研究はこのような目的のために設定されている。
  「化学物質の低濃度ばく露状況における健康影響の指標と評価」は、化学物質へのばく露が低濃度化にむかうなかで、低濃度ばく露における健康影響の問題点を明らかにしようとしたもので、平成17年度開始の重点研究領域特別研究「有害因子ばく露の低濃度化等の状況における生体影響指標の開発と健康管理」に繋がったものである。「ダイオキシン類測定法の高度化に関する研究」は、ダイオキシン類の測定において、より少量の試料を用いた分析が可能となるように分析法の高感度化を目指し目的を達しつつあるもので、論文等による成果の公表が待たれている。

2) 作業条件適応研究部

  • 進捗、終了状況
    作業条件適応研究部が司る業務に沿って述べる。
      1)労働者の健康状態の評価技術及び健康管理の技術的方法に関する調査及び研究に関すること:「健康増進対策における禁煙指導のための指標開発」に基づき,禁煙指導に利用できる発がんリスク予測指標の候補として尿中酸化的DNA損傷物質の研究を行っている。
     2)労働時間、休憩時間その他の作業条件が労働者の健康に及ぼす影響に関する調査及び研究に関すること:過重労働に関しては「過重労働による健康障害の予防に関する研究」「過重労働・ストレスをモニタリングするための免疫学的指標の検討」で疲労度指標及び疲労蓄積度自己診断チェックリストの開発を進めている。長時間労働に関しては「長時間労働による循環器影響の評価と予防に関する研究」と「長時間労働による循環器影響の実験的研究」が動いている。また睡眠・リズムの観点から続けていた「労働スケジュールにともなう睡眠問題の緩和と睡眠健康の促進に関する研究」は前年度に終わりその成果は社会へ啓発するパンフレットにも利用された。本年度からは新たに「睡眠健康度の改善と評価法に関する研究」が始まった。その他「生理的ストレス評価指標と測定時刻に関する研究」も動いている。
     3)労働者の身体的諸条件に応じた作業条件の適正化に関する調査及び研究に関すること:高齢化と労働機能という観点から研究が進められており「高年齢労働者の健康と生活の質の評価システムの開発」が行われている。
     4)作業環境における諸条件が労働者に及ぼす生理的及び心理的な影響に関する調査及び研究に関すること:本分野の研究は現在行われていない。
     5)労働に伴う精神的負荷が労働者の健康に及ぼす影響に関する調査及び研究に関すること:「職業性ストレスに関する臨床心理学的検討」などでストレスの問題が活発に研究されており、ストレス管理法の開発も視野に入れている。また「海外日本人就労者のメンタルヘルス対策」において海外勤務者用マニュアル作成に寄与し、本年より「海外進出企業における危機管理としてのメンタルヘルス対策」を開始し危機管理対策研究へと発展している。
     6)前各号に掲げるもののほか、研究所の所掌に係る調査及び研究に関する業務で他の所掌に属しないものに関すること:視覚器官からみた労働衛生研究として「就労者の視覚機能検査系および眼毒性・薬理実験系の作製」が昨年度で終了し、本年度からは「職場ストレスによる勤労者の感覚器・運動器症状を改善する産業医学的、実験的研究」へと展開している。 本年度は以上の活発な研究活動により原著論文10、その他出版物26という業績を得ている。

  • 問題点、特記事項
     ここ3年間を時系列で見ると原著論文数は6、12、10と一定数確保しているが、数年間論文発表のない研究員も見受けられるので次年度はそのような研究員に対する対応を考える必要がある。特に、基盤研究が終了する研究に関してはその研究に関連する論文をかならず発表するよう指導する必要がある。

  • 今後の展望
     当部の研究活動は活発であるが、今後はストレス管理、疲労管理という面で健康管理技術開発に関する研究成果も出てくることが期待でき研究の幅は着実に広がっている。

3) 健康障害予防研究部

 当部は、独法化の過程において実験研究を担当する研究部として整理された。当部の主な研究内容は、(1)職場有害因子の毒性発現及び職場有害因子に対する生体防御の機構解明と健康障害防止対策への活用に関する研究、(2)職業性疾病の発症防止のための生物学的指標(毒性評価指標、生物学的モニタリング指標、感受性個人差指標)の開発である。
  平成17年度には、新たに開始した3研究課題を含む9研究課題を実施し各々成果を集積しつつある。このうち上記(1)としては、バイオ技術を活用した生体影響の解析 (F13-20)、化学物質の遺伝子影響メカニズムの研究 (F13-22)、低毒性粉じんの慢性影響の研究 (F17-04) があげられる。また上記(2)については社会的に関心の高い内分泌、生殖、遺伝子への影響評価に重点を置く内容としており、産業化学物質の各種ホルモンに対する影響評価 (F13-21) 、正確な遺伝子影響評価法の開発 (F13-24)、健康影響指標の修飾因子の研究 (F14-19) 、職場有害因子の雄性生殖毒性に関する調査・研究 (F16-03)、生物学的指標としての遺伝子発現変動の研究 (F17-03)、病理形態学的な毒性評価法の改良 (F17-05) を行っている。平成18年度からは、実施中の研究を発展させた5つの新規研究課題 (F18-01〜05) を開始する予定である。
【問題点・特記事項】
 研究員の高年齢化等による実験研究の脆弱化に配慮する必要があると思われる。
【今後の展望】
 他分野では既に実用面で活用されているバイオ研究の成果が労働衛生分野には殆ど導入されておらず、また21世紀の労働衛生研究戦略に優先課題として取り上げられている関連研究についても進展が極めて少ない。バイオ研究の膨大な技術・知識情報の中から何が労働衛生研究にとって活用できるのかを検討・提案していくことも、今後の当研究及び当研究所の重要な課題と思われる。

4) 有害性評価研究部

 当部では、今年度も大幅な人事異動があり、転出4名、転入2名、新規採用任期付研究員1名の結果、年度当初は前年度比1名減の8名であったが、中途退職者1名のため6月後半以降7名となった。
 当部の中心的な課題である、化学物質による健康影響については、1)メチルセロソルブばく露者における精子数と運動能への影響がアルデヒド代謝能力により異なることが明らかになり、メチルセロソルブばく露に脆弱な労働者の存在を示した、2)タバコ栽培従事者において、深部感覚−姿勢制御に係わる重心動揺が観察され、農薬によると考えられる神経系への影響が示された、3)ばく露を把握する生物学モニタリングに関し、金属ばく露作業者における尿中・血中の金属のICP-MSによる測定が安定的に可能になったので、今後の実際への適用の見通しが開けた、などの成果が得られた。
 職業性物理因子による健康影響について、手腕振動による振動障害患者らの自覚症状同様に、患者における指の感覚神経伝導速度の低下が顕著なことが明らかになった。
 医療労働の現場には、薬品や消毒用の化学物質のリスク、患者という重量がある運搬・取扱対象による腰痛や上肢障害等のリスク、さらには注射針やメスなどによる傷害と感染のリスクがある。過去の国内外の個別事業所の調査・データベースの解析により実態が明らかになった。今後は介入により改善を試みる。
 職業性疾病の発生に関する現代的な疫学的研究の基礎を築く目的で、昨年度の鉛ばく露事業場のデータを用いた職務−ばく露行列表(JEM)の作成に続き、今年度は有機溶剤ばく露事業場におけるJEMを作成し得た。
 問題点:現部員で物理的有害因子について取り組むことは相当に困難で、所内外の共同研究が必要である。原著論文を発表した研究員は2名で偏りが著しい。
  特記事項:より多くの研究員が研究成果を原著論文として発表し得る支援が必要である。月例部会における研究発表・進捗状況報告を基盤的研究に関する討論の場と情報の共有としてきたが、新規課題もあることから、これを継続・発展させる。

5) 作業環境計測研究部

 終了研究は1件、継続研究は13件、新規研究は3件である。研究対象は、粉じん・金属関連、有機溶剤・ガス関連であり、それぞれ測定方法の開発、物質のキャラクタリゼーション、粉じんの分離方法と発生方法の開発等を行っている。
  各研究課題の位置付けは、中期計画の基盤的研究「職場環境の評価と管理法に関する研究」、「職場の化学物質の発生、サンプリング、および測定法に関する研究」、「職場の化学物質の測定結果の評価と環境改善に関する研究」及び「労働衛生に関する国際基準、国内基準の制度改定等への科学技術的貢献に関する研究」である。
 作業環境計測研究部のひとつの柱としての粉じん及びガスに関しては、従来からのシリカや石綿粉じんと保護具、測定法、工学的対策に関する研究に取り組んできたが、今後、大きな問題となりうるナノ粒子についても計測技術の開発に着手している。また、昨年夏に社会問題化した石綿に関しては、種々の行政貢献を果たしてきた。
 溶接フュームに関しては現場で各種金属の状態別分析が実施できるよう、技術的検討及び実験的研究に取り組んでいる。
 化学物質の毒性評価に関しては、化学構造式を用いた有害性評価、有機溶剤のばく露評価のための基礎データの収集、これまでに我が国でまだ十分取り組んでいない臭素化ダイオキシンのバイオロジカルモニタリングに関する開発に取り組んでいる。

6) 人間工学特性研究部

 研究員の部間移動により、2名が転出し、3名が転入した。人間工学的評価分野と物理因子の測定・評価分野は補強されたが、工学的対策分野は残念ながら手薄となった。
  作業管理のための人間工学的評価と標準化に関する研究
オフィス外及び学校でのコンピューター利用状況を把握するための調査を実施し、一部は成果を公表し、更なる集計・解析を継続している。また、昨年度までに開発したe-learningによるVDT作業改善プログラムは意識改善に有用であり、特許申請中の洗浄作業姿勢補助具は負担軽減に有効であることが実証された。e-learningプログラムおよび補助具の普及を図り、更なる介入研究を進める。
  職場の物理因子の測定、評価及び労働衛生対策に関する研究
引き続き全身・手腕振動現場でのばく露実態を明らかにしてきた。また、6軸全身振動加振システムに加え3軸手腕振動加振システムを設置し、これらの加振器を用いた心理・生理実験と防振手袋の評価を行った。振動や防振効果の研究成果をISOやJISの委員会に提言している。さらに米国やEUと共同研究を推進し、ISO規格の充実を図る。振動の脊椎伝達を頚、胸、腰部位での特性を検討し解析を進めている。低周波音による不快感には体表面に生じる振動の効果を考慮すべきことを示すことができた。騒音の聴力閾値に左右差の有無を検討したが差は認められなかった。騒音の到来方向による影響について更に研究を続行する。溶接作業における紫外放射を測定しその有害性を評価した。また、遮光保護具の能力を評価し、遮光保護具のJIS委員会に提言した。加えて、水晶体由来細胞を用いた紫外線有害性評価系を確立した。今後は障害の発生状況調査や動物実験も実施する。電磁場による内因性疾患発症促進作用を動物実験で検討したが、現在までは促進作用は認められていない。引き続き実験を継続する。加重力動物実験系を確立したので、筋肉への影響を中心に実験を実施する。
作業環境管理のための労働衛生技術の開発と工学的対策に関する研究
これまでに開発した「汚染物質の拡散及び除去に関するシミュレーション」の予測精度を損なわず高速化させることに成功し、局所排気装置の設計・運用システムプロトタイプを構築できた。更に改善し公表できるようにする。安価かつ安全な原料から鋳型炭素化法により高吸着能を有する試料が得られた。保護具に応用できるより実用的な材料作製に発展させる 。
 平成17年度の研究は順調に進捗し、成果を学会や論文に公表した。ISOやJIS委員会へ提言し規格の改正に貢献できた。次期中期計画期も、現在以上の成果を挙げるべく継続的に努力する。

7) 企画調整部

  企画調整部に所属する部員は元来は5研究部のいずれかに所属していたが、所内事情により数年間企画調整部に仮の宿として所属し、研究と並行して企画調整業務に従事している。従って、研究成果について部ごとに評価するにあたっては、本来はそれぞれの原研究部に所属するものとして評価すべきものであろう。しかし当面は、研究内容に部としてのまとまりは無いが企画調整部として総括する。
 企画調整部の担う業務は、所内予算執行計画・独立行政法人評価委員会の評価への対応・運営費交付金としての予算要求・競争的資金獲得の事務・内部外部評価の実施・厚生労働省への対応・国際交流など多岐にわたっている。加えて最近2年間は、産医研同様厚生労働省所管の産業安全研究所との統合に対応する作業が膨大であり、業務量は数年前の企画調整部に比しても倍加している。このような状況で研究成果を問うのは酷なようであるが、上記の数字に見る研究成果は所内比較でみると悪くはない。原著論文34報は6部の中で3番目、業績合計347件は6部の中で最多となっている。
 「職業がんの疫学的研究」は平成16年で終了し、平成18年からの課題「職業がんの疫学的研究 フェーズII」に引き継がれる予定である。「長時間・深夜労働の健康影響評価」は平成16年で終了したが、この研究内容はプロジェクト研究で引き続き行う。「ディーゼル粉じん量を把握するための指標成分の検討」は平成16年で終了し、平成17年から「環気中粉じんに含まれる有機化合物の迅速分析」に継続している。「職業性ストレスと健康職場に関する研究」は平成17年度で終了し、平成18年度から「職業性ストレスの予防と産業精神保健に関する基盤的研究」に継続する。「暑熱・寒冷作業の国際基準策定に関する国際共同研究」・「異常温度条件による業務上の疾病の発生要因の検討」・「寒冷作業負担の労働生理学的分析」は平成17年度で終了し、平成18年度から「作業温熱ストレスの労働生理学的評価と予防対策」にまとめて継続する。「建設労働者における石綿ばく露の実態と疾病に関する研究」は平成17年度で終了し「建設労働者における石綿等有害物質ばく露の実態と疾病に関する調査研究」に継続する。「建築業従事者におけるじん肺および石綿関連疾患のリスク評価II」および「清掃工場労働者におけるがん死亡リスクの職業関連性に関する疫学的研究」はこのまま継続する。


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