労働安全衛生総合研究所

睡眠時間を大切に

独立行政法人労働安全衛生総合研究所

 睡眠時間はどのくらいが理想的でしょうか? 睡眠について話をするとき,この質問は必ず出てきます。働く世代にとって,睡眠は労働の次に長く費やす活動になります。皆さんはどのようにお考えでしょうか。

 睡眠は8時間という意見はやはり多いかもしれません。スポーツ選手の多くは,優れた成績を得るために,睡眠を充分にとるようにしていると聞きます。近年,いくつも発表されている睡眠時間と健康に関する疫学調査では,睡眠7時間群の健康が最も良いという結果が示されています。よって,7時間睡眠がベストという考えもあるでしょう。これはある意味,エビデンスにもとづいているとも言えます。逆に,睡眠は4〜5時間がよいという主張もあります。起きている時間は当然増えますし,その質も充実するらしいですが,真偽のほどは定かではありません。

 睡眠の量と質は,いろいろな要因によって左右されます。年齢,性別,体質など体の中の要因だけでなく,労働条件や生活習慣など体の外にある要因からも大きな影響を受けます。結果として,必要な睡眠時間は個人ごとに変わってきます。労働者であれば,睡眠を削らざるをえないこともしばしばあります。さらに,“深く眠れば睡眠は短くてよい”などの一見正しそうな説もあいまって,睡眠時間はとかく短くなりがちです。あるいは,短くても特に問題はないだろうとみなされてしまいます。

 ここまでのお話を整理しましょう。たしかに睡眠4時間ほどでバリバリ活躍されている人はいます。ただし,全体からみればわずか数%です。仕事が忙しくてゆっくり眠っている暇はないとはいえ,しっかり眠らないとミスは増えますし,創造的なアイデアが浮かばないことは確かめられています。徹夜のときはもちろんそうですが,2時間ほどの睡眠不足が連日にわたって続くときでも,同じような影響が生じます。

 また,睡眠時間と健康に関する調査からは,6時間に満たないような短い睡眠を続けると,心臓病,高血圧,糖尿病など生活習慣病になりやすくなることがわかっています。深いノンレム睡眠は,寝付いてから最初の3時間くらいまでに現れ,それ以降は浅いノンレム睡眠とレム睡眠がほとんどになります。睡眠時間を短くすると,実はこれらの睡眠が削られるわけです。にもかかわらず,健康や作業能力に望ましくない影響が生じるわけですから,“深く眠れば睡眠は短くてよい”とは必ずしも言えません。

 そもそも,深いノンレム睡眠を増やすなど睡眠の質をコントロールする術はありません。私たちが意図的に調節できるのは,何時に寝て,何時に起きるかという睡眠のタイミングだけです。睡眠不足による心身への「ツケ」は相当なものになることをみれば,睡眠時間を確保することが第一と言えます。それが可能となるような働き方を労使で考えるのはとても大事でしょう。

 米国では今,「Healthy People 2020」という健康政策が改訂されています。そのなかには,“充分な睡眠時間をとる子供と大人の割合を増やす”という目標が含まれつつあります。わが国では,睡眠が6時間に達していない労働者は40%にも達しています。健康でイキイキと働くために,睡眠時間にもっと注目したいものです。

(作業条件適応研究グループ 上席研究員 高橋正也)

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