労働安全衛生総合研究所

寒冷環境下での作業に伴う健康リスクと予防方策

独立行政法人労働安全衛生総合研究所

 今回の震災の被災地には、東北、北関東など寒冷地が多く、零度前後の低温下での救援作業や復旧作業なども多く見受けられています。こうした作業には時間を争うものも多く、無理をしがちになる点、作業者への負担がたいへん心配されます。人体が寒冷環境におかれると、身体の表面や内部の温度の低下にともない末梢血管の収縮や血圧上昇、筋肉のこわばりなど様々な悪影響が現れます。またそれに伴って様々な疾病のリスクが高まることも懸念されます。そこで、寒冷環境下で防災ボランティア活動を行う前に、寒冷の人体影響や健康リスクについて事前に知っておくことは、事故を未然に防ぐためにも大変重要なことです。例えば次のような事項です。

1. 寒冷の人体への影響


 人体が寒冷環境におかれると、体温が低下しないように末梢血管の収縮や寒冷ふるえなどの体温調節反応が起こりますが、それに付随して様々な生理的・心理的負担も生じます。
  • 末梢血管が収縮し、血圧が上昇する。
  • 筋肉の動きが悪くなり、手作業がしにくくなる。
  • 排尿の回数が増えて気づかないうちに脱水が進行する。
  • 足の末梢部(指先)の血液循環が著しく阻害される。
  • 冷たい空気を大量に吸入することで気管支の炎症が起こりやすくなる。
  • 身体の内部の温度が低下すると、警戒心や論理的思考力が低下する。
 おまけに、間接的影響としては、防寒対策として着用する防寒服(具)のかさばりや重量増加によって余分な作業負担が生ずる場合もあります。


2. 寒冷環境で配慮すべき疾病、傷害


 寒冷環境下で作業を行う場合、配慮すべき疾病や傷害として下記のようなものがあります。
  • 低体温症
  • 凍傷
  • 脱水症
  • 低温やけど
  • ぜんそく、気管支炎
  • インフルエンザ
  • 一酸化炭素中毒
  • 脳卒中(脳梗塞、脳出血など)
  • 冠動脈疾患(狭心症、心筋梗塞など)
  • 薬の副作用
  • リウマチなど

3. 健康リスクに対する予防方策


 以上の健康リスクに対する予防方策としては、当たり前のことですが次のようなことを心がけてください。当たり前のことを怠ることで手遅れになることが多いのです。
  • 自分では大丈夫と思っていても気づかぬうちに深部体温が低下したり手指末梢部の冷却が進行し、凍傷や低体温症になる場合もあります。保温性の保証された防寒衣類(具)、暖房器具、温かい飲食物、いつでも避難できる暖かな場所の確保が必須です。
  • 寒冷環境に長時間さらされないように、活動の計画とスケジュールをたて、これを厳守する必要があります。
  • 作業を開始する前に必ず準備運動を行いゆっくりと作業を始めます。この事前ウオーミングアップを怠ると傷害のもとになります。

 筆者は、2007年2月に内閣府政策統括官(災害予防担当)からの依頼を受け、
「寒冷環境下における防災ボランティア活動の安全衛生に関する情報・ヒント集」
の監修協力を行いました。本稿で述べたことの詳細はこのホームページを参照してください。また、寒冷作業における健康障害のリスクマネジメントについては、下記の文献も参考になると思いますので関心ある方はご一読ください。

 まだまだ寒い北国の春、被災者の方々の生活の一日も早い復旧と、救援者の方々の作業の安全を、心からお祈りしつつ、本稿が少しでもお役に立つことを願っています。

(参考文献)
澤田晋一 (2009) 寒冷作業環境のリスクマネジメント.産業医学ジャーナル Vol 32 No4, 31-38.

(国際情報・研究振興センター長 澤田晋一)

刊行物・報告書等 研究成果一覧