労働安全衛生総合研究所

フォークリフトや車両系建設機械の作業シミュレーション施設

独立行政法人労働安全衛生総合研究所

1.はじめに


 読者の皆様は、シミュレータと聞くと何を想像するでしょうか? 航空機のフライトシミュレータでしょうか? あるいは自動車の運転シミュレータを思いだす人も多いかもしれません。シミュレータとは、実際に実施しようとした場合に、大きな危険を伴う、あるいはコストが著しく高い場合に、コンピュータや模型を使ってその事象を擬似的に再現するもので、教育訓練目的等で種々の分野で利用されています。
 当研究所にも掘削機械用シミュレータがあり、安全研究の一環として作業中の労働者の危険回避能力や安全装置の有効性評価についての研究が行われていましたが、このたび操作装置を交換することにより、車両系建設機械全般のみならず、荷役機械の代表であるフォークリフトのシミュレータにもなる新しい施設として生まれ変わりました。今回のコラムでは、この新しいシミュレーション施設を紹介いたします。
 フォークリフトや車両系建設機械では、車両の移動範囲内の地面が平坦で堅固とは限らないことや障害物が多いこと、また機械の可動範囲と作業者の存在領域が近接している等の理由から、機械の転倒・転落災害(以下「転倒等による災害」といいます。)、あるいは、機械が作業者に激突する災害や作業者が機械に挟まれる災害(以下「接触等による災害」といいます。)が多発しています。
 例えば、厚生労働省から発表されている「労働者死傷病報告」による死傷災害発生状況の平成23年確定値(参考資料参照)を見ると、車両系建設機械である掘削用機械(ドラグ・ショベル等)を起因物とする休業4日以上の全671件の死傷災害のうち、「接触等による災害」は400件(60%)、「転倒等による災害」は計136件(20%)であり、両者の合計で全体の8割を占めています(図1)。同様にフォークリフトを起因物とする休業4日以上の全2,054件の死傷災害を調べると、「接触等による災害」は計1,348件(66%),「転倒等による災害」は計355件(17%)と、ここでは全体の8割以上を占めています。(図2)。


図1 掘削用機械を起因物とする「接触等による災害」と「転倒等による災害」の死傷災害に占める割合(平成23年)  


図2 フォークリフトを起因物とする「接触等による災害」と「転倒等による災害」の死傷災害に占める割合(平成23年)

 なお、掘削用機械の一例としてのドラグ・ショベルの災害に関しては、以前の安衛研ニュースコラムでわかりやすく紹介しておりますので、そちらもぜひ御覧下さい。(http://www.jniosh.go.jp/mail-mag/2012/46-column.html)
 このようなフォークリフトや車両系建設機械による災害を防止するためには、機械が路肩等の危険場所や作業者に接近した場合に警報を発する、あるいは、機械の運転を停止させるなどの機能が有効と考えられ、このために路肩異常接近検知装置や周辺監視装置等の安全装置が有効と考えられます。しかし、これらの有効性を検証するには機械が作業者に近接した状態で評価を行う必要がありますが、実際の機械を用いた検証では作業者に危険を及ぼす可能性があるために、これら安全装置の有効性評価は困難でした。
 今回改修された新しいシミュレーション施設では、荷役機械や車両系建設機械を使ったいくつかの作業をシミュレータで再現できますので、作業者に危険を及ぼすことなく安全装置の有効性評価が可能となります。

2.シミュレータの全体構成


 本シミュレータ(写真1)は、メインコンピュータのほか、映像が立体視できるスクリーン、二軸モーションベース上の座席及び操作装置によって構成されています。操作装置にはフォークリフト用操作装置と建設機械用操作装置があり、簡単に交換できるようになっています。

写真1 シミュレータの外観

3.シミュレーションの内容


 機械での作業中に接触や転倒等の災害が起きる場面として、このシミュレータではいくつかの代表的な作業場面が表現できるようになっています。以下に、想定される危険事象とともに、シミュレータ内で表現される作業場面をいくつか示します。
  1. 倉庫内外でのフォークリフトを用いた作業(写真2)
    危険事象の例:走行中のフォークリフトが作業者と接触

    写真2 倉庫での作業シミュレーション

  2. 水道工事での振動ローラーを用いた作業(写真3)
    危険事象の例:振動ローラーの後退中に、周辺作業者がローラーにひかれる

    写真3 水道工事での作業シミュレーション(振動ローラー)

  3. ガレキ上でのつかみ機(解体用機械)を用いた作業(写真4)
    危険事象の例:つかみ機(解体用機械)がガレキから転落

    写真4 ガレキ上での作業シミュレーション(つかみ機)

  4. 水道工事でのドラグ・ショベルを用いた作業(写真5)
    危険事象の例:ドラグ・ショベルでの掘削作業中、バケットが周辺作業者に接触

    写真5 水道工事での作業シミュレーション(ドラグ・ショベル)

  5. ドラグ・ショベルの路肩走行(写真6)
    危険事象の例: ドラグ・ショベルが路肩から転落

    写真6 路肩走行のシミュレーション

 このように、シミュレータ上ではいくつかの作業シミュレーションと、それぞれの環境においての接触防止や転倒防止のための安全装置の効果の検証が可能です。今後は開発したシミュレータを有効に活用し、労働災害の減少に役立てていきたいと考えています。

(人間工学・リスク管理研究グループ 主任研究員 呂  健)

(参考資料)
厚生労働省、「労働者死傷病報告」による死傷災害発生状況(平成23年確定値):
http://anzeninfo.mhlw.go.jp/user/anzen/tok/h23_sisyou(kakutei).xls

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