労働安全衛生総合研究所

英国の建設安全に関する実態調査(その1)—準備から出国まで—

独立行政法人労働安全衛生総合研究所

1.はじめに


 今年の2月に建設安全に関する調査のために英国に行く機会を得た。
 日本の建設現場(特にゼネコンの現場)は世界一きれいに整理・整頓され、安全衛生に配慮されていることは、世界の誰もが認めるところである。にもかかわらず、日本における建設業における死亡労働災害の発生割合(建設労働者10万人当たり)は英国と比べて約3倍となっている。国際的に見ても日本は労働災害の少ないトップクラスの国であるが、図1に示すように、日本より成績の良い国がいくつかあるようである1)


図1
図1 世界の建設労働者10万人当たりの死亡者数(2005年)
(参考文献に数カ国を追加)


 また、建設業における労働災害件数は、建設投資額に大きく影響を受けることはよく知られている。これら「建設業死亡者数」と「建設投資額」関連性を見るため、経年推移を図2に示す。この図から、1972年(昭和47年)の労働安全衛生法の成立・施行が災害の減少に大きく寄与していることがわかる。更に、1980年(昭和55年)の労働安全衛生法一部改正による①計画の安全性に関する事前審査制度、②元方安全衛生管理者(統括管理)の新設等が災害減少に効果があったことがわかる。最近の20年では、死亡者数が半減以下になるなど、減少傾向が続いている。しかしながら、建設投資額の減少に伴って災害が一定の割合で減少し続けているものの、それ以上の大きな減少は見られていない(傾きが変わっていない。)。この図から判断する限り、2006年(平成18年)の「リスクアセスメントの努力義務化」の効果が明瞭には見られていないようである。


図2
図2 建設投資額と建設業死亡者数の推移

・なぜ英国に比べて日本の建設業における労働災害が多いのか?
・なぜリスクアセスメントの効果が顕著に見られないのか?
 (努力義務化ではなく、英国のようにリスクアセスメントの義務化が必要か?)
・日本と英国の安全衛生の違いは何か?
 このような疑問に基づく国内外の現地調査を主体とした研究課題「建設工事におけるリスクアセスメントの高度化」で、科研費(日本学術振興会の科学研究費補助金(基盤研究B))を得て、今回の英国調査が実現した。

2.準備と出国


 調査スケジュールを組むため、現地の建設業者に直接メール等で視察の受け入れを依頼した。しかし、答えは全て「NO」だった。日本からの怪しい者(特に怪しくはないと思うが・・・)の視察のために時間を割くのは、出来れば断りたい、と思うのは当然であろう。そのため、作戦を変更して、英国の日本商工会議所、英国における研究機関、行政等の人脈、大学時代の友人などありとあらゆるツテを使って交渉をやり直した。その結果、やっと現地の大手建設業者の現場視察などを組み込んだ調査スケジュールを組むことが出来た。

 ところが、英国への出発日(2月9日)の前夜から関東地方は大雪に見舞われ、成田空港までの全ての交通機関が止まってしまった(8日の夜から成田空港が陸の孤島となり8,000人以上が空港で夜を明かした。)。当日の朝、大混乱の日暮里駅で5時間ほど列に並び、再開した最初の電車で成田に向かったが、予定していた飛行機の出発時間にタッチの差で間に合わなかった。息せき切って、やっとたどり着いたカウンターで、
「お客様の航空券の種類(つまり格安エコノミー)では、航空券自体が無効になります。」
と言われ、呆然となった。気を取り直して交渉した結果、2日遅れの便への変更を余儀なくされたが、2日遅れでも振替えてもらえたことは幸運だったのかもしれない。

 こうしたことから、アポイントを取った数箇所の調査を直前にキャンセルせざるを得ないという計画変更はあったものの、英国労働安全衛生研究所(HSL)の企画担当の研究者、安全衛生庁(HSE)で実際に建設関係の規則等を立案している主任監督官との面談、建設現場(英国の大手建設業者)、住宅建設現場等を視察することができた。
 彼らへのインタビューなどを通じて、1)法、規則、ガイドラインの体系、2)リスクアセスメントの考え方、3)発注者・労働者の義務と罰則、4)労働者への福利厚生、5)教育制度、6)足場などの仮設構造物など、日英の違いを知ることができた。

 今回は、調査の準備から出国までのいきさつまでとし、具体的な日英の建設安全に関する違いについては、次回以降に個人的な感想を含めてご紹介したいと思います。

参考文献

(理事 前・建設安全研究グループ部長 豊澤康男)

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