労働安全衛生総合研究所

英国の建設安全に関する実態調査(その2)—日英の足場比較—

独立行政法人労働安全衛生総合研究所

1.はじめに

 前回は、英国の建設安全衛生に関する調査のための準備から出国までのいきさつをご紹介した。今回は、日本と比べて、特に印象深かった英国の足場に関して、ご紹介したい。

2.ロンドンの足場

 空き時間を利用して市街地、郊外の足場を見て歩いた。「犬も歩けば棒に当たる」で、「足場、足場」と念じて歩きまわると、意外とたくさんの足場を見つけることが出来た。今回の調査を通じて、延べにして100現場ほどの足場を、外からではあるが観察することが出来た。
 英国で特徴的なのは、ほとんどの足場が単管足場(単管(鉄パイプ)を組み合わせて組み上げる足場のこと。単管同士は緊結クランプ(金具)で結合する。)であることだった。英国では歴史的な建物が多く、外形が複雑なため、既製の直線状の足場では、足場と建物の間に大きな隙間ができてしまうため、自由に形を変えられる単管足場が有利であるということであった。日本では、枠組足場、くさび緊結式足場がメインであり、単管足場の割合が少ないのと対照的である。
2.1 ロンドン中心部の集合住宅補修工事用の足場
 写真1と2は、ロンドン中心部にある住宅地(集合住宅)の補修工事における足場である。単管を使って器用に組み立てられており、必要な箇所に手すり、中さん(手すりの下からの墜落を防止するために設けるさん(横棒))等が設置されており、ほぼ墜落の危険性がない足場となっている。


写真1 ロンドン中心部の集合住宅の補修工事における足場



写真2 ロンドン中心部の集合住宅の補修工事における足場

2.2 ロンドン中心部繁華街の工事用の足場
 写真3〜写真5は、ロンドン中心部における繁華街で見かけた足場である。
 日本と比べて違和感を覚えたのは、歩道の上を、歩道を跨いで設置された足場が多いということである。歩道にある足場の脚部は、きれいに周りを囲うなどで、ショッピング街に溶け込むような工夫が施され、その足場の下を、大勢の観光客や買い物客が、当たり前のように行き来していた(写真3〜5参照)。
 見上げると、歩道の上の足場の作業床の幅(奥行き)は1メートルを超えるものも多かった。また、歩道の上に設けられた現場事務所(プレハブの建物)やコンクリート重量物(写真5参照)も散見された。道路に面した工事において、歩道等の道路上を活用することにより、足場の作業床の幅が大きく取れるなど、工事のための仮設構造物を余裕を持って設置できるというメリットが大きいものと思われる。
 後にHSE(英国安全衛生庁)の主任監督官らに聞くと、工事のために歩道や道路の使用許可を取得するのは、必要な手続きさえ行えば、それほど難しいものではないとのことであった。


写真3 ロンドン繁華街における改修工事の足場
(足場シートにはデザインがされ、景観になじむような工夫がされている。)



写真4 ロンドン繁華街における改修工事の足場
(足場を内側(歩道)から見たところ。天井には照明の装飾がされていた。)



写真5 ロンドン繁華街におけるビル工事の足場・仮設構造物
(歩道上の仮設構造物に大きなコンクリート構造物が仮置きされていた。)

2.3 住宅地(ロンドン郊外)の足場
 土曜の午前中に出国便までの時間を利用して、戸建て住宅の足場を見るため、ロンドン郊外にまで足を伸ばした。以下の写真3枚(写真6,7,8)がロンドン郊外で見かけた典型的な戸建て住宅の補修工事用の足場である。
 いずれも、必要な箇所に手すり、中さん等が設置されており、ほぼ墜落の危険性がない足場となっている。
 日本と比べて特徴的な事項として、すべての足場に設置した業者の看板があった(例えば写真8参照)。設置した足場について責任の所在を明確にするものと思われるが、安全な足場を設置していることを誇っているようにも感じられた。


写真6 ロンドン郊外の戸建て住宅の補修工事における足場



写真7 ロンドン郊外の戸建て住宅の補修工事における足場



写真8 ロンドン郊外の戸建て住宅の補修工事における足場
(足場を設置した業者名の看板が見える。)


3.日本の足場との比較

 前回にも述べたように、「日本の建設現場(特にゼネコンの現場)は世界一きれいで安全」というのは、私が知る限り、世界の安全衛生専門家の間で定説になっている。
 また、低層住宅建築工事における労働災害防止を図るために建方作業に先行して足場を設置する「足場先行工法」は、世界的にも注目される優れた工法との評判が高い。 http://www.mhlw.go.jp/new-info/kobetu/roudou/gyousei/anzen/040330-4.html

 しかし、その一方で、日本の一部の現場では、写真9のように墜落の危険性が非常に高いと思われる足場を見かけることもある。日本で墜落災害が多い一因として、この写真のように適切に墜落防止措置が行われていない現場が少なからずあることが挙げられるのかもしれない。


写真9 東京郊外の戸建て住宅の補修工事における足場

 参考までに、ドイツのミュヘン郊外で見かけた戸建て住宅新築工事における足場の写真を写真10に示す。くさび緊結式の足場で2段手すり等の設置があり、作業床もほぼすき間なく敷き詰められており、墜落危険性の少ない足場といえる。

 なお、日本で行われている「手すり先行工法」(足場の組立時に作業床に乗る前に当該作業床の端となる箇所に適切な手すりを先行して設置し、かつ、解体時にも作業床を取外すまで必ず手すりが残置されている工法 
http://www.mhlw.go.jp/new-info/kobetu/roudou/gyousei/anzen/dl/040330-6.pdf ) に関して、英国での足場の組立て・解体時の安全対策について、HSEの監督官に聞いた。
 日本の「手すり先行工法」と同じような考え方(手すりを先行して設置)があり、単管足場でも出来るような様々な方法が推奨されているとのことであった。ただ、英国の場合、日本のような手すり先行工法専用足場があまり使用されておらず、ほとんどが単管足場であるため、手すりを設けるまでの間は、適宜安全帯をつけるなど、それぞれの施工状況に応じた方法で対処しているとのことであった。


写真10 ミュヘン郊外の戸建て住宅の新築工事における足場


4.足場に関する日本の労働安全衛生規則

 日本では、足場に関する労働安全衛生規則改正が行われ平成21年に施行された。
(改正の概要等については厚労省のホームページに詳しく掲載されている。
http://http://www.mhlw.go.jp/bunya/roudoukijun/anzeneisei26/index.html
 改正前の労働安全衛生規則では、手すりの高さが「75cm以上とすること」と定められていたが、主要な先進国では、足場の手すりの高さはほぼ90cm以上と定められており、さらに、中さん等の設置が必要であった。
 このような状況に鑑み、更なる墜落防止対策の強化を図るため、足場からの墜落災害及び足場の墜落防止措置の現状、手すり先行工法の普及状況及び問題点等について調査し、実態の分析と対策策定のための検討を行うため、厚生労働省からの要請により、平成19年5月、当研究所に「足場からの墜落防止措置に関する調査研究会」を設置した。本調査研究会では、①国際的に遜色のない基準とすること、②国内の災害の発生状況を踏まえた対策を採ることなどを主な論点として報告書がまとめられた。
 本報告書に基づき行われた上述の規則改正により、足場に関する日本の労働安全衛生規則は、世界的に見ても遜色のないものとなった(表1参照)。

表1 足場の安全対策の主要先進国との比較


 なお、「足場からの墜落防止措置に関する調査研究会報告書」は当研究所のホームページの https://www.jniosh.go.jp/results/2008/1016/index.html に掲載してあるので興味のある方はご覧いただきたい。

5.おわりに

 厚生労働省の検討会の分析では、足場からの墜落災害は、約9割が労働安全衛生規則に基づく適切な墜落防止措置が行われていない現場で発生しているとされている。
http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r98520000035cmr.html ) 
 このことからも、足場からの墜落防止については、平成21年に改正された労働安全衛生規則の遵守を徹底することが最優先事項であろう。

 紙面等の都合で書ききれなかったが、英国における足場関連のガイド(TG20:13(Guide to Good Practice for Tube and Fitting Scaffolding)やSG4 (Preventing Falls in Scaffolding))、足場の教育、資格制度の4段階のBASE, Scaffolder, Advance, Supervisorなどは、足場の安全性の更なる向上のために参考となるものと思われる。

 日本、英国それぞれの歴史的背景もあり、一概にどちらが優れているとは言い切れないが、歴史的背景や制度、風土などに鑑みて、それぞれの良いところについては、互いに取り入れていくことが、ひいては両国における労働災害の減少に繋がるものと期待したい。 
 なお、本稿は数日間の英国での調査等に基づくものであるが、本科研費による実態調査は今年度も継続して実施する予定であり、日本の安全水準の更なる向上に資するように調査研究を進めてまいりたい。

(理事 前・建設安全研究グループ部長 豊澤康男)

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