労働安全衛生総合研究所

扇風機を用いた簡便な身体冷却方法

独立行政法人労働安全衛生総合研究所

1.はじめに


 近年、職場における熱中症の問題は深刻さを増しています。一般生活においても危険性が注目されている中、屋外での作業や衣服の制限がある労働現場は、さらに熱中症の危険性が高まります。我々は、特に熱中症となる危険性が高い防護服着用での作業について、多くの作業者が簡便に実施できる身体冷却として、扇風機を用いた方法に着目して研究を進めています。

2.いつ身体を冷やすのか?


 防護服の着用は、防じんマスクや防毒マスクなどの装備も伴うため、それ自体が身体の作業性に負担となります。したがって、作業中にさらに冷却装備を加えることは困難です。また、作業が始まると、筋活動による発熱を抑えることは難しく、体温は上がる一方です。
スポーツ現場の研究では、「プレクーリング(Pre-cooling)」という方法があります。運動を行う前に、身体冷却で体温を下げておくことで、体温上昇が遅れて起こり、有酸素系のスポーツではパフォーマンスの向上が報告されています1)。このプレクーリングが、労働現場でも有効なのではないかと我々は考えました。

3.なぜ扇風機を使うのか?


 スポーツ活動の研究におけるプレクーリングは、20℃前後の水のバスタブに首から下を浸けるという方法が主に使われています。労働現場でこれを用意することは大変なばかりではなく、平常時の体温ではとても冷たく不快です。そこで、経済的かつ実用的で、さらに不快感を伴わない身体冷却方法として、扇風機に着目しました。

4.扇風機でどのように、どこを冷やすのか?


 扇風機の風を身体に当てることで「対流」による熱放散が促されます。身体の露出部分を広くするために短パンのみの着衣で実施し、さらに「蒸散」による熱放散を加えるために、スプレーで身体を濡らしながら行います(図1)。
 体温は深部と表面で異なります。たとえば、冬に凍えるような寒さで手足が冷たくなっても、身体の深部の体温は通常37℃前後に保たれています。扇風機による身体冷却でも、送風中に深部体温はほとんど下がりません。しかし、送風が終わった後に深部体温は下がり始めます。したがって、扇風機で身体の表面だけを冷やしているようで、結果的には深部を冷やすことになります。


図1.扇風機による身体冷却

5.プレクーリングによる作業中の効果


 扇風機によるプレクーリングを行った後に、防護服を着用し、暑熱下で作業を行うテストを行いました2)。深部体温は作業開始時に0.4℃低下し、約1時間の作業中も、プレクーリングを行わない条件と比較して低いことがわかりました(図2)。さらに、作業前後の体重減少率を調べると、プレクーリングを行った方が脱水レベルは小さくなっていました。防護服着用中は水分補給が困難な状況のため、好ましい効果と言えます。


図2.防護服を着用しての歩行時におけるコントロールとプレクーリングの深部体温の変化

6.より効果を大きくするには?


 扇風機による身体冷却は、水に浸かる方法より深部体温を下げる効果は弱かったため、様々な条件で再検討を行いました3)。まず、扇風機の風速を上げる方法を試みましたが、2m/s、4m/s、そして8m/sの間で効果の違いは見られませんでした。続いて、冷却時間を15分、30分、そして45分で調べたところ、時間に比例して深部体温の低下度は大きくなりました。したがって、事前準備に余裕がある場合は、なるべく長い時間行うとより効果は大きくなります。

7.休憩中にも効果的


 プレクーリングについて述べてきましたが、作業を繰り返して行うようなときには、休憩中に上がった体温を速やかに低下させることも重要です。その際にも扇風機の有効性が報告されています4)。熱中症の救急処置法などには、首や腋の下など動脈が比較的浅い部分に氷を当てる手法が紹介されていますが、熱中症を発症していない高体温時には、その方法よりもスプレーで身体を濡らしながら送風する方法が体温低下率は大きいのです。

5.おわりに


 扇風機は比較的安価な装置で、暑さをしのぐ目的で日常的に使われています。しかし上記のように使い方次第で身体の芯から冷やして、作業中の暑熱負担を軽減させることもできます。工場扇のような強力な風は必要なく、家庭用扇風機の「弱」程度で十分に効果があります。今のところの研究では、防護服を着用するような休憩室での実施を想定した身体の露出部分が多い方法ですが、露出する面積が小さくても効果的に身体を冷却できる方法がないか検討中です。
 実験的には深部体温を正確に計ることが可能ですが、労働現場では難しく、プレクーリングの持続的な身体冷却効果を把握することは困難です。したがって、深部体温が下がったことを意識することなく、あくまで自身の暑さ感覚や不快感などに気を配る必要があります。作業現場の環境計測で危険性を知ることも重要です。そして、水分・塩分摂取をこまめに行い、睡眠などの体調管理も基本的な熱中症対策として続ける必要があります。

参考文献
  1. Ross et al. (2013) Precooling methods and their effects on athletic performance: a systematic review and practical applications. Sports Med, 43:207225.
  2. Tokizawa et al. (2014) Fan-precooling effect on heat strain while wearing protective clothing. Int J Biometeorol, 印刷中.
  3. 時澤ら(2014)暑熱下作業前の風冷による最適な身体冷却方法の検討.第87回日本産業衛生学会,抄録集p.346.
  4. Sinclair et al. (2009) Efficacy of field treatments to reduce body core temperature in hyperthermic subjects. Med Sci Sports Exerc, 41:1987-1990.

(人間工学・リスク管理研究グループ 任期付研究員 時澤 健)

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