労働安全衛生総合研究所

フォークリフトにおける接触類労働災害を対象とした安全装置及び安全補助装置の開発

独立行政法人労働安全衛生総合研究所

1.はじめに


 フォークリフトは手軽に使える荷役運搬機械として多数の業種に使われており、労働災害も多発しています。表1は厚生労働省が公表した労働災害(死傷)データベース [1]から抽出した、平成18年から平成22年までの5年間に発生したフォークリフトに起因する死傷者数の推移です。このデータベースは1/4抽出ですので、実際の死傷者数に換算すると、平成22年は約2000人にも及んでいます。フォークリフトが起因物の労働災害は、フォークリフトの走行や昇降機構がマニュアル操作の機械であるため、人的要因に関連する災害が多く、従来は安全教育と安全管理などの対策が講じられてきましたが、その多くは人の注意力に依存したもので、十分な効果が見受けられません。そこで、フォークリフトに起因する労働災害を減少させるため、当研究所では人の注意力に依存しない安全装置、及び人の危険認知能力を支援する安全補助装置の開発を行ってきました。


表1 フォークリフトに起因する死傷者数の推移(H18年〜H22年)
全死傷者数(人)フォークリフトに起因する死傷者数(人)割合(%)
H1834,1676211.82
H1933,3185981.79
H2029,2105291.81
H2130,0315101.69
H2232,0124941.54

注)データベースが1/4抽出のため、全死傷者数、フォークリフトに起因する死傷者数とも実際の1/4の人数です

2.フォークリフトにおける接触類労働災害


表2 フォークリフトに起因する労働災害の事故の型別集計
はさまれ・巻き込まれ激突され墜落・転落激突飛来落下転倒その他合計
死傷者数(人)391271115954844401,004
割合(%)39.027.011.49.44.84.44.0100.0

 前記のデータベースのうち、平成21年〜平成22年の2年間に発生したフォークリフトを起因物とする1,004件の災害を事故の型別に見ると(表2)、上位2つの事故の型は、「はさまれ・巻き込まれ」と「激突され」で、合計すると66.0%を占めています。これに、「激突」の9.4%を加えると75.4%となり実に4分の3にも及びます。これらの災害は、フォークリフトと人間の接触によって発生することから、ここでは接触類災害と呼ぶことにします。以下に接触類災害の防止に有効な安全装置及び安全補助装置を紹介します。


3.これまでのフォークリフトの安全装置例


 運転者がフォークリフトにはさまれ・巻き込まれる災害のうち、典型的な事例は、図1のように運転者が運転席で立ち上がり、ヘッドガードの前面から顔を出して、荷のトラブル処理を行っている際に、マストのレバーに身体や服が触れてしまい、マストとヘッドガードの間に顔や首をはさまれるというものです。このようなはさまれ災害の安全装置としてあげられるのが、運転者在席検出による運転許可装置です。これは、運転者が正しい運転位置にいる時のみ、走行と荷役の許可を与える安全装置です。この装置は2009年に改定された米国国家規格ANSI/ ITSDF B56.1 [2]で推奨されています。日本では、国内メーカがオプションとして装備し始めています。



図1 はさまれ事故の典型事例

4.当研究所で開発中の安全装置及び安全補助装置例


(1)運転者の身体はみ出し検出(安全装置)
   図2のように運転者が走行中に運転席から顔や手を横へ出し、建物の壁とフォークリフトのキャビンの支柱にはさまれる災害も多く見られます。このような災害の対策としてあげられるのは、キャビンからの身体はみ出し検出です。キャビンの支柱に光線式センサーなどを取り付け、運転者の身体部位がキャビンからはみ出た際に危険を検出して、警報や走行停止の制御を実行します。

 このような身体はみ出し検出装置は、まだ実用化されていません。当研究所では透過形の光線式センサーを用いて身体はみ出し検出装置を開発し、フォークリフトの制動を行う制御システムの検証実験をしました[3]。実験では、身体のはみ出しがある時に自動制御装置が働き、自動減速または自動停止ができることを確認しました。

 しかし、実際に使用する場合のことを考えると、突然身体がはみ出しても安易に急減速させることはできません。フォークリフトが転倒したり、荷が落ちってしまったりするなどの恐れがあるからです。また、キャビンの外に壁などがなく、あるいは遠方にあるときなど、はさまれる恐れがない時でも、身体がはみ出すだけで無用に停止させてしまう問題もあります。そこで、壁などの周囲の障害物の存在を検出する障害物センサーを、自動減速・自動の制御回路に組み込むことにしました。また、自動減速・自動停止をうまく制御するため、障害物検出領域の大きさと車体の停止距離の関係をまとめ、運転者の安全を確保しつつ、機械の不要な停止を減らしました。今後はメーカと連携し、異なるブレーキ性能のフォークリフト車種への適用など、実用化を目指します。



図2 運転者の身体はみ出し

(2)危険認知支援(安全補助装置)
   フォークリフト周辺にいる作業者が激突されたり、巻き込まれたりする災害の多くは、図3のような運転者の前方視界不良が原因となっています。そのため、運転者の危険認知を支援する対策が必要です。例えば、ヘッドガードやキャビンにカメラや電波式センサーを取り付けることによる、フォークリフト周辺環境情報の運転席でのモニター表示、衝突などの危険時の警報発出装置があげられます。


図3 積荷による運転者の視界不良

 当研究所では、このような危険認知支援技術として、カメラによる前方視野補助装置の開発を目指しています[4]。この装置の開発にあたっては、下記のような課題があります。

  1. 形状の異なる積荷によって遮蔽された死角を最小化する技術の開発(どの位置にどのような仕様(例えば視角)のカメラの設置が必要かなど)
  2. 複数台のカメラが必要な場合に、如何に正確に、かつ、高速に映像・情報を合成する技術についてフォークリフトの特性に応じた実用化
  3. 直進と左右折の時、あるいは、荷取りと荷積卸しの時とでは、必要な視野領域が異なるので、運転者に適切なタイミングで必要な領域の映像情報を提供する技術の開発

 現在は、高さ2mの積荷を前提に、その前方の映像を運転席モニターに提供できる試作機(図4)を製作中です。試作後は、現場実証実験による性能評価を行うとともに実務に携わっている方々のご意見を聴き、これらを基に改善を加えていくことなどにより、上記課題を中心として研究開発を進めていきます。


図4 試作中の前方視野補助装置のイメージ

5.おわりに


 本コラムでは、主にフォークリフトに起因する接触類労働災害を防止するための安全装置及び安全補助装置の開発について紹介しました。すでに運転者在席検出装置は普及し始めていますが、当研究所で開発している装置についても実用化させていくことで、フォークリフトに起因する労働災害の大幅な減少に貢献したいと考えています。


6.参考文献


[1] 厚生労働省, 労働災害(死傷)データベース, http://anzeninfo.mhlw.go.jp

[2] 米国国家規格協会, Safety standard for low lift and high lift trucks. 2009; ANSI/ITSDF B56.1.

[3] 岡部康平, 呂健, 斉藤剛,芳司俊郎,池田博康,”昇降・搬送用機械を対象とした基本安全技術の検討”,労働安全衛生総研特別研究報告, SRR-No43-02, pp.87-100,Nov.2013.

[4] 呂健,”フォークリフト運転者のための走行前方視覚情報の提供について”, 電子情報通信学会WIT研究会予稿集, WIT2013-85, pp.105-106,Mar.2014.



(人間工学・リスク管理研究グループ 主任研究員 呂 健)

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