労働安全衛生総合研究所

大型建設機械転倒防止に関する研究 -敷鉄板による地盤養生の重要性-

1.はじめに


 くい打機は建築構造物や道路、鉄道、橋梁などの大型構造物を支える基礎杭を地中に施工する建設機械です。工事の特性上、軟弱な地盤上での作業を余儀なくされるため、この機械による転倒災害が度々発生しています。このような大型の建設機械が転倒した場合、付近の民家等を損壊し、第三者をも巻きこむ災害となる危険性があります。転倒事故には種々の原因がありますが、機械の支持地盤の強度(支持力)が弱いことに起因していることが多いことがわかってきました。
 私たちの研究グループでは、大型建設機械の転倒災害を防止する研究を継続的に行っております。本コラムではその一部について、ご紹介させていただきます。


2.模型を使用した走行実験


 機械を設置する際には、事前に地盤の支持力を把握し、機械の接地圧(地盤に作用する圧力)との関係から安全性の検討をします。一般的には、転倒防止のために建設現場には鉄の板(敷鉄板)が敷設されますが、敷鉄板の敷設に関する科学的な知見は非常に少なく、適切な敷設方法や、敷鉄板を敷設した際の地盤に作用する圧力の算出方法などが未だ解明されていません。
 そこで、敷鉄板の敷設方法の違いが、機械走行時の機体の揺れに与える影響について実験的に調査いたしました。図1に実験に使用した模型を示します。小型模型は実機の1/25スケールで作製しました。この模型は実機の重心位置を正確に模擬しており、遠心重力25G場(通常の重力の25倍)で、実機の挙動を再現することができます。
 遠心場走行実験では、軟弱な地盤を模擬した模型地盤(発泡ポリエチレン)の上に、敷鉄板の模型を設置しました。敷鉄板の敷設方法を図2に示します。敷設方法は1枚敷き、2枚の敷鉄板を完全に重複させた「完全重複」、下部の敷鉄板の半面が重複するように設置した「半面交互」です。敷鉄板を敷設しないと模型が転倒する軟弱な地盤を想定しました。


図1 くい打機模型 図2 敷鉄板の敷設方法


動画1は、「1枚敷き」の結果を示しています。走行開始と共に、機械は多少の揺れを伴って走行していることがわかります。比較的大きな揺れが生じていますが、模型は転倒することなく走行しています。また、敷鉄板の中央部から端部にかけて走行した際に履帯の前方が沈下して模型が傾斜していることがわかります。これは、機械の接地圧が作用する面積(有効面積)が減少することによって地盤に作用する圧力が大きくなるためです。
 動画2は、「完全重複」の結果を示しています。「1枚敷き」の結果と同様に、走行に伴って模型は揺れていることがわかります。揺れの大きさも一枚敷きに比べやや大きくなっているように見受けられます。
 これに対して、動画3の「半面交互」の結果を見ると、前述した2つの実験条件に比べ、揺れが著しく小さくなっています。敷鉄板を2枚重ねて敷設する場合、その敷設方法を工夫することで、安全性が大きく向上することがわかります。


動画1:1枚敷き 動画2:2枚敷き(完全重複) 動画3:2枚敷き(半面交互)
動画1 1枚敷き 動画2 2枚敷き(完全重複) 動画3 2枚敷き(半面交互)

 図3は実験動画の解析結果を示しています。この実験条件では、模型の限界傾斜角は6.2度です。結果をみると、「1枚敷き」に比べ、「完全重複」の機体傾斜角θ はかえって大きく転倒の可能性が高いことがわかります。これは、「完全重複」では、敷鉄板の中央部の剛性(変形に抵抗する性質)が「1枚敷き」に比べ高く、発生する沈下量が小さくなります。それに対して、敷鉄板の端部では、完全重複と1枚敷きで発生する沈下量はほぼ等しいことがわかっています。完全重複では敷鉄板の中央部と端部で相対的に発生する沈下量の差が大きくなり、一枚敷きに比べ機体傾斜角θ が大きくなったと考えられます。
 一方、「半面交互」では、走行に伴って発生する機体傾斜角は概ね1度以下でした。半面交互では、敷鉄板の中央部と端部で発生する沈下量の差が小さいためであると考えられます。これらの結果から、敷鉄板の敷設方法を工夫することによって、安全性が大きく向上することが実験的に明らかになりました。



図3 機体傾斜角θ と経過時間の関係

3.おわりに


 建設業では今後10年間で技能労働者約340万人のうち、約110万人が高齢化により離職する可能性があり、労働力不足の深刻化が危惧されています。国土交通省は労働力不足を解消するために、「i-Construction」という取り組みを始めました。具体的には、ICT(情報通信技術)やロボット技術を積極的に導入し、調査・測量から設計、施工、検査、維持管理・更新までのあらゆる建設プロセスにおいて抜本的な見直しをして生産性を向上させるものです1) 。施工プロセスの見直しでは、部材の規格の標準化等による、構造物のプレキャスト化(事前にある程度作製したものを現場で組み立てる)やプレハブ化などの工場製作化を進めて生産性を向上させようとしています。その結果として、建設機械やクレーンなどの荷役機械が大型化することが想定されます。今後10年で想像を超えるイノベーション起き、超大型建設機械の転倒災害など、これまでになかった災害が発生する可能性もあります。そのような災害を防止するためには、地盤調査の高度化や機械設置時の安全性の検討手法の確立が不可欠となります。これらの問題に対応すべく、継続して研究を行っていきたいと思っています。


参考文献

  1. 国土交通省、i-Construciton、http://www.mlit.go.jp/tec/tec_tk_000028.html (国土交通省のサイトへ)



  2. (建設安全研究グループ 主任研究員 堀智仁)

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