労働安全衛生総合研究所

特別研究報告 SRR-No.20 の抄録

地震に対するクレーンの安全対策に関する特別研究

緒論

SRR-No20-01
前田豊,橘内良雄
 本特別研究は,1995年の兵庫県南部地震を契機として始められた。当地震によって多くの産業機械が被害を被ったが,クレーンもその例外ではなく,コンテナクレーンを初め多くのクレーンの倒壊が報告されている。兵庫県南部地震では地震動が異常に大きかったとの論もあるが,耐震基準を見直す時代の趨勢を受け,クレーンに関しても地震への対応を考えることとなり,一連の研究が実施された。
 本研究では,クレーンに関する耐震設計基準と兵庫県南部地震のクレーン被害状況との調査から,研究対象を建設用タワークレーンに絞ることとし,タワークレーンについて,実機の振動特性計測実験,模型実験,クレーンのマストを建物に固定する“ステー”の強度について,それぞれ検討を実施した。その概要は以下に述べるとおりである。
 第1章では,本研究の全体像を述べた。すなわち,兵庫県南部地震でのクレーン被害の概要から,天井クレーンや橋形クレーン・コンテナクレーンでは地盤や設置された建物の破壊など,クレーン以外の要因も大きいのに対し,タワークレーンではステーなど,これまで重視されていない構造による影響が大きいことが判明した。
 一方,我が国におけるクレーン設計上の強制規格であるクレーン構造規格では,自重の20%の水平荷重を考慮すると規定されており,地震に対する動的な解析は要求していない。これに対し任意規格の耐震設計指針では,地震による応答を算定できるよう震度法あるいは修正震度法による計算が記載されている。しかし,この指針は天井クレーンと橋形クレーンが対象であって,ジブクレーンの計算には通用できない。クレーンの地震に対する設計基準はこの2種類に尽き(このほか前者と等価であるJIS規格がある),ジブクレーン,タワークレーンに対し動的影響を考慮した設計規格は存在しない。
 これら諸事情を考慮し,本研究ではタワークレーンを対象に採り上げることとなった。

兵庫県南部地震におけるクレーンの被害調査

SRR-No20-02
橘内良雄,前田豊
 第2章では兵庫県南部地震におけるクレーンの被災状況を述べた。兵庫県南部地震では,非常に強い破壊力が短時間に起きたことが地震動の大きな特徴となっており,これまでに経験したことのない甚大な被害が発生した。
 クレーンの地震被害について主要因ごとに大別すると,(1)慣性力によるもの,(2)相対変位によるもの,(3)地盤液状化および流動によるもの等に分類できる。このうち(1)に属する場合は,ジブクレーンにおけるジブや旋回体の落下,並びにクレーンの座屈や倒壊,(2)によるものとしては,天井クレーンの落下,およびジブクレーンの壁つなぎ部材(ステー)の破断,(3)に代表されるものとしてはコンテナクレーンの脱輪や脚部の座屈,およびアンローダーの倒壊等があげられる。

実機建設用タワークレーンの振動特性

SRR-No20-03
高梨成次,坪田章,菊地公男
 第3章では,建設現場で使用されているタワークレーンの振動特性について調査,検討を行った結果を述べた。その概要は以下のとおりである。
  1. タワークレーンのマストを水平に置いてウエイトにより曲げ荷重を与える実験を行った結果,実験で得られたマストの剛性は計算値よりも6%〜10%小さめに評価されることが分かった。
  2. 低層の自立型タワークレーンの自由振動実験の結果,ジブの横方向に対する固有振動数が0.27Hz,マストのねじれに対する固有振動数が1.4Hzであり,1次モードに対する減衰定数は1.2%となった。
  3. ステーにより建物に支えを取った高層のタワークレーンの自由振動実験の結果,ステーの接合部の遊び(ガタ)の有無により結果が異なり,1次モードの固有振動数は,ステーが緊結されガタの無い状態で0.48Hz,ステーにガタがある状態では0.34Hzであった。
  4. 1次モードの減衰定数は,ステーが緊結されている時は自立型のタワークレーンと等しく1.2%であったが,ステーにガタがある状態では著しく増大して3.4%となった。
  5. ステーにガタがあることによってタワークレーンの見かけの減衰が増し,耐震性能の向上に寄与できる可能性がある事が分かった。が,ステーの設置のバランスによっては,入力された振動と異なる方向の振動が生起され,耐震性能の低下につながる可能性もあることが分かった。

タワークレーン模型の振動実験

SRR-No20-04
大幢勝利,鈴木芳美
 第4章では建設用タワークレーンの固有振動数および振動モード形を模型実験により調べ,それを簡易な剛体振り子モデルを用いて解析した結果について述べた。その概要は以下のとおりである。
  1. タワークレーンの固有振動数は実験結果と解析結果でほぼ一致しており,本研究で提案した簡易な計算方法で求められることが分かった。
  2. 振動モード形は実験結果の方が解析結果よりクレーン本体の回転角が大きくなった。これはジブの振動の影響が現れたものであり,解析はジブの振動を考慮して行う必要があることを示している。
  3. 実験および解析の結果,対象としたタワークレーンは兵庫県南部地震で問題となった1Hz(模型では振動数比より6Hzに相当する)前後の固有振動数を持つと推定された。
 当研究の結果,簡易な模型による実験で,ある程度までタワークレーンの特性を考察できることが明らかになった。

タワークレーンのステーの座屈強度

SRR-No20-05
大幢勝利,吉久悦二
 第5章ではタワークレーンのステーに対する座屈実験の結果について述べた。ここでのステーはH形鋼による支柱とジャッキを組み合わせて構成されている。ステーに対する座屈実験の結果,以下のことが明らかとなった。
  1. 必ずしも厳密な限界ではないが,H形鋼支柱の細長比λ=100を境に,λがそれより小さい場合はジャッキが破壊し,大きい場合はH形鋼支柱が座屈することがわかった。
  2. 設計時において,H形鋼支柱の細長比がλ=100付近より小さな領域では,ジャッキ単体の圧縮強度をタワークレーンのステーの座屈強度と考えてもよい。
  3. 一方,細長比がλ=100付近より大きな領域では,H形鋼支柱単体が両端ピンであるとして計算したオイラーの座屈荷重をステーの座屈強度としてもよい。
 ステーの設計基準は明確でないが,将来ステーについて何らかの基準を策定する際には,この実験の結果が一つの参考となる。


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