労働安全衛生総合研究所

特別研究報告 SRR-No.22 の抄録

高所作業における墜落危険性に関する人間科学的な研究

墜落災害の背景にあるヒューマンファクターに関する調査

SRR-No22-02
鈴木芳美,臼井伸之介,江川義之,庄司卓郎
 建設工事における墜落災害に対して,これまでのハード的対策に人的要因を加味した新たな防止対策の展開が求められている。災害事例分析を通して明らかになった、安全帯不使用・開口部放置・不十分な情報伝達の3つの問題点に焦点を絞った質問紙調査を,建設現場で働く作業員を対象に実施した。得られた817回答に対して,回答の集計・分類ならびに多変量統計解析を適用した分析を行い,背景にある人的要因へのアプローチを試みた。その結果,安全帯不使用の背景には,日常的不使用因子・作業能率;因子・急ぎ疲れ因子が存在すること,回答内容に職種や年齢の差異に基づく特徴や違いがあること,などが明らかになった。(図19,表2,参考文献4)

高所作業における生理・心理的負担要因

SRR-No22-03
江川義之,臼井伸之介
 仮設足場上の歩行および作業特性について,熟練者群と未熟練者群を対象にして実験した。未熟練者群は高い足場あるいは狭い足場を歩く時,歩行速度が低下したが,熟練者群は歩行速度が変化しなかった。歩行時の精神的余裕度について副次課題法を用いて調べた結果,未熟練者群は精神的余裕度の少ないことが認められた。筋電図を用いて安定した歩行をするための足場板の幅を調べた結果,少なくとも40cm以上の幅が必要であることが明らかになった。足場板上の歩行において,熟練者のうち数名に,歩行角30度以上の足の着地がみられ,横からの衝撃に強い歩行が観察された。足場歩行時において,身長1.75m以上の者は30からで45度の前傾姿勢で歩行していた。物の垂直受渡作業において,上層にいる作業者は臀部が頭部より高い墜落危険性をともなう姿勢が観察された。アンケートの結果,熟練者の好む手摺の形状は交差筋交であった。(図14,表4,写真7,参考文献7)

高層構造物の建設時における風による揺れと作業限界

SRR-No22-04
大幢勝利,永田久雄
 橋梁主塔架設時やゴンドラ作業時において発生する,風による揺れに対する建設作業の限界および墜落に対する安全性の限界について実験的に検討した。このため,正弦波加速刺激下での,立位姿勢保持と直線描き作業および溶接作業の限界を調べるための実験を行った。その結果,0.5〜2.0Hzの範囲では,立位姿勢保持の限界加速度は周波数に比例して増加する傾向が見られた。また,直線描き作業および溶接作業の限界加速度と周波数の関係を対数表示すると,0.5Hz以下では周波数と限界加速度は反比例しているが,0.5〜2.0Hzの範囲では比例していた。これは,海洋構造物上での作業限界を示した国際規格ISO6897とは異なる傾向であった。これらの実験結果より,建設作業および墜落に対する安全性が限界となる加速度を,限界曲線として0.1〜2.0Hzの範囲で周波数毎に示した。(図23,写真5,表2,参考文献14)

傾斜屋根面からの滑落特性

SRR-No22-05
永田久雄,高梨成次,河尻義正
 建築工事の中でも木造建築工事中の墜落災害が38%を占めている。「梁,母屋から」が39%を,次いで,「屋根などから」が27%を占めている。本報では,住宅で使用される屋根面上の滑落特性を扱った。実験では,晴天時・雨天時を想定したダミーの滑落実験を行うだけでなく,履物,工具,建築材料などについての滑落特性も明らかにした。ダミーの滑落実験では乾き,濡れ共にトタン葺屋根が最も低い滑り抵抗係数となった。濡れることによる滑り抵抗係数の低減率は,トタン葺屋根では,59〜79%の範囲であり,合板下地屋根では,56〜64%の範囲となっている。特に,靴底のトレッドの模様が波状となっている地下足袋はトタン葺屋根上では濡れによる滑り抵抗係数が0.161に下がり、その低減率が79%と非常に大きい。(図13,表3,写真6,参考文献8)


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