労働安全衛生総合研究所

特別研究報告 SRR-No.25 の抄録

土石流等による労働災害の防止対策に関する総合的研究

序論

SRR-No25-01
堀井宣幸
 土石流災害がいったん発生した場合には多数の労働者が被災する確率は極めて高く,さらに作業現場ばかりではなく近隣住民を巻き込んで広範囲に被害が拡大する場合も多く,社会的影響も甚大である。また,我が国の地形的特性から,砂防・治山工事等は継続して実施されることが予想され,今後も,土石流による工事関係者等の労働災害の発生が懸念されるため,土石流等による労働災害の防止対策の確立は緊急な課題となっている。本特別研究では,土石流等による労働災害の防止に資するため,土石流発生の危険性の高い工事現場における土石流対策の実態の把握,遠心力載荷装置を用いた土石流発生現象のシミュレーション実験の実施,最適な土石流の早期検知システムのあり方に関する検討,および効果的な避難・警報システムの開発に関する研究を実施した。(写真1)

土石流による労働災害防止対策に関するアンケート調査

SRR-No25-02
豊澤康男,堀井宣幸
 本研究においては,土石流災害防止工事における現場の安全対策についての現状を把握することを目的として,土石流発生危険河川でのエ事現場を対象に調査票を配布し,現場で実施している災害防止のための措置や,警報避難設備等について,その現状や現場が抱えている問題点などについて調査した。
 土石流検知・警報システムに関してまとめると次のようである。1)土石流の危険性が高い現場のうち土石流検知警報システム等による土石流災害防止対策を施していない現場は約40%であった。2)土石流検知警報システムの点検頻度が少ない場合は故障に気づかない可能性がある。3)土石流検知警報システムは「低コスト・メンテナンスが容易・誤動作が少なく信頼性が高い」ことを考慮して開発することによって現場での普及率が上がるものと考えられる。(図23,表2,参考文献5)

土石流の硫化特性に関する実験的研究 −模擬土石流の粒径および構造物の剛性が衝撃応力に与える影響−

SRR-No25-03
堀井宣幸,豊澤康男,玉手聡,橋爪秀夫
 本研究は,土石流が構造物に作用した時に発生するの衝撃応力について検討したものである。ここでは,模擬土石流に含まれる粒径と構造物の剛性が衝撃応力に与える影響について調べるため,遠心模型実験を行った。その結果,以下のことが分かった。(1)土石流の速度は,混入物の径が大きくなるほど遅くなる。(2)土石流の衝撃応力は,含まれる混入物の径が大きくなるほど大きなものとなる。(3)混入物に礫が含まれる場合,衝撃応力は構造物の剛性が大きいほど大きくなる傾向がある。(図15,表3,参考文献3)

現場避難実験による土石流発生時の避難時間の検討

SRR-No25-04
豊澤康男,堀井宣幸
 土石流災害防止において避難時間を事前予測するための基礎的データを取得することを目的とした現場避難実験を行った。その結果,避難人数1人,幅1mのとき避難速度は,平坦部においては1.5m/s,表面が礫の場合1.3m/s,斜面部では斜面角度30°のとき登:0.7m/s・斜面角度10°のとき登:1.1m/s,はしご部においては昇り:0.4m/s・降り:0.35m/sをおおよその避難速度の基準とすることが妥当であると考えられた。ただし,避難速度は避難人数,道幅等によって変化するため,次のような要因によって避難速度を変化させる必要があり,これらを考慮した避難時間算定基準式を提案した。1)平坦部において,避難人数を増加させると避難速度は減少し,道幅・距離を増加させると避難速度が増加する。2)斜面部において,斜面角度・避難人数を増加させると避難速度は減少し,道幅を増加させると避難速度は増加する。(図27,写真4,表9,参考文献1)

画像情報を用いた土石流検知手法の検討

SRR-No25-05
濱島京子,堀井宣幸,豊澤康男,玉手聡
 安全な作業現場を実現するためには,「作業現場の安全状態が確認されている時だけ作業の実行が許可される」という仕組みを,現場内に構築することが必要である。この仕組みは,安全確認型システムとよばれる動作原理を持つ土石流検知センサを使用して土石流検知・警報システムを構成することにより実現可能である。一方,安全確認型システムと反対の動作原理を持つものに危険検出型システムがあるが,危険検出型システムは安全上,大きな問題が存在する。既存の土石流画像検知センサの多くは,安全確認型システムではなく危険検出型システムの動作原理が採用されている。これらのことから,安全確認型システムの動作原理を用いた画像検知センサについて検討を行った。特に,検知された異常な動きを全て危険状態として識別すべき理由や,画面異常や濃霧等の天候変化に対処するためのリファレンスパターンの必要性等について述べた。さらに,PC上で動作する検知プログラムを作り,土石流映像および一般屋外の移動体を土石流と仮定した検知実験を行い,リファレンスパターンの有効性等について検討を行った。(図11,表2,参考文献11)

土石流検知・警報システムの検討及び開発

SRR-No25-06
豊澤康男,梅崎重夫,堀井宣幸
 土石流による災害の防止のため,予知・予測から避難まで多岐に渡った様々な対策が実施されている。これらの対策のなかで,土石流災害を防止するために最小限必要な事項は,(1)発生した土石流を検知すること,(2)避難を行うように警報すること,及び(3)作業者が安全な場所に避難することに絞られる。本研究では,上記(1)及び(2)を確実に実施するための土石流検知警報システムの必要な要件について検討した。その結果,(1)危険を検出して警報する危険検出型システムより,危険がないことを常に確認する安全確認型システムであること。(2)システムが故障した場合でも,これを起因として災害が発生することがないようなフェールセーフ型であることが要件として必要であり,これらを満たすようなフェールセーフ型土石流検知警報システムを試作した。(図14,表2,参考文献8)

土石流検知センサー最適配置支援システムの構築

SRR-No25-07
堀井宣幸,豊澤康男,玉手聡,濱島京子
 「土石流検知センサー最適配置支援システム」は,土石流検知センサーの配置計画を支援するための解析ツールとして構築したものである。従来,土石流検知センサーの設置場所については定性的かつ経験的に判断されてきており,経験のある技術者が過去の土石流発生状況や地形的特性を考慮して決定しているのが現状である。土石流を確実に検知するためには,検知センサーを最適な位置に配置する必要がある。このためには,想定される土石流の発生場所,規模,到達時間,到達範囲等について的確な解析を行い,定量的に土石流を予測することが不可欠と考えられる。本研究では,複雑な数値計算と膨大なデータ管理を効率的に処理するためにGIS(地理情報システム)を応用した土石流検知センサー最適配置支援システムを開発した。本システムを用いることにより,土石流の発生から流下,堆積までを定量的に追跡することができ,その解析情報をもとに画面上で土石流検知センサーの配置検討を行い,設置場所から工事サイトまでの土石流到達時間を算出することができる。(図10,表1,参考文献3)


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