労働安全衛生総合研究所

特別研究報告 SRR-No.38 の抄録

液体噴霧時の静電気による爆発・火災の防止

序論

SRR-No38-01
山隈瑞樹
 本研究の背景(災害事例分析及び産業界のニーズ)および各サブテーマの概要について説明している。災害事例分析の結果,静電気による爆発・火災のうち,約35%が噴霧帯電によるものであった。原因として噴霧装置と故障(配管,バルブ等)がほぼ半々であり,噴霧装置はスプレー缶と塗装機が大半を占めていた。産業界のニーズとしては高圧洗浄におけるリスク評価法があった。これらをもとに,次の三つのサブテーマを設定し,実施した。
  1. 噴霧装置における帯電と爆発性雰囲気の性質噴霧装置(スプレー缶,エアレス塗装機)の帯電特性,災害防止等について実験的検討を実施した。また,噴霧物中に含まれる可燃性物質による爆発性雰囲気の着火特性を新開発の試験装置を用いて系統的に調査した。
  2. 噴霧プロセスの安全性評価技術の開発噴霧プロセスを模擬した超高圧水ジェット噴射装置を閉空間で噴射し,空間電荷・電位・電界分布の測定及び放電の観察を行い,水の導電性,ノズルの孔径等の影響について調べた。また,空間電荷と噴霧空間の幾何学的形状を与えたときの数値電界解析を行い,噴霧プロセスに対する一般的なリスク評価方法を提案している。
  3. 漏洩噴出時の着火危険性の評価
 高加圧液体が開放空間等に噴出したときのミスト着火特性,特に放電火花最小着火エネルギーを測定するとともに,漏洩時の静電気発生量測定及び着火防止手段を検討した。また,窒素ガスによる不活性効果および噴射圧力の影響等について述べている。
(図4,表4,参考文献3)

帯電雲による放電着火のリスク評価

SRR-No38-02
大澤敦
 本論文は,接地円筒タンク(<1.5×105m3)内に形成される帯電雲による着火性放電を防止する空間電荷密度と側壁電界の条件を示している。この防止則を求めるため,タンク内突起物と一様帯電雲の間で放電が生成するための帯電雲の電荷密度を数値的に計算し,このときの放電の着火性を調査するために放電電荷と放電エネルギーをストリーマの持続条件から見積もっている。この計算を広範囲のタンクと突起物サイズに対して実施し,帯電雲によって生成する放電の着火性を包括的に調査することにより着火性放電の防止則を算出している。この結果,0.2 mJ以上の可燃性雰囲気では,ρ<2.3×10-6R-1(ρ:電荷密度,R:タンク半径)および1.1×105 V/mの側壁電界で,着火性放電が防止できることが示された。また,実験的にも確証されているように半径2 mmの突起物では,着火性放電が生成しないことが本モデル計算においても示された。
(図7,参考文献28)

高圧水噴霧中の空間電荷密度の測定

SRR-No38-03
大澤敦
 過去に測定例がない84 MPaという超高圧水ジェットによって形成される帯電雲の空間電荷密度を測定し,水道水のように導電率の高い水を使用すればタンク洗浄の静電気着火リスクを広範囲のタンク径に対して低減できることが示された。また,空間電荷密度はノズル径に強く依存するので,ノズル径を大きくすることによっても着火リスクを低減できることが示された。
(図5,参考文献4)

静電気放電による噴霧液体の着火特性(その1)

SRR-No38-04
崔光石,山隈瑞樹,大澤敦
 近年,生産現場では,塗装,冷却,洗浄など可燃性液体の噴霧工程が多く行なわれており,さらに,予期しない液体の漏洩,放出に伴う突発的な噴出が発生している。それらに伴って起こる噴霧液体の静電気放電による着火危険性に関して,その防止対策の確立が求められている。本報では噴霧液体の着火試験装置を試作し,様々な条件において液体漏洩噴出時の静電気放電による着火危険性を調べた。
 試料として,灯油,デカン,キシレン,スチレンの低引火性液体を用いて最小着火エネルギー(MIEs)を測定した結果,噴霧状の液体は,引火点が室温より高くても,室温において4〜10mJで着火することが明らかになった。ただし,MIEsは噴霧空間内における着火源の位置に大きく依存し,最も着火し易い領域が存在することがわかった。
(図5,表7,参考文献11)

静電気放電による噴霧液体の着火特性(その2)

SRR-No38-05
崔光石,山隈瑞樹,大澤敦
 化学プラント等において,可燃性の高圧液体が漏洩・噴出(噴霧)した時に静電気放電によって,多くの爆発・火災が発生している。本報では静電気放電による災害を防止するためのデータを得ることを目的とし、高圧空気に不活性ガスを添加することによる噴霧液体(灯油)の着火性の変化や,噴霧液体(0.5wt%のNaCl希釈水道水)とノズル間で発生する噴霧電流の測定を行った。不活性ガスの窒素を利用することで,噴霧液体の着火危険性が大幅に軽減した。最小着火エネルギーは,噴霧圧力が大きくなるほど増加した。高圧空気に含まれる窒素の割合を90%以上とし、噴霧圧力を0.3MPa以上で使用すると効果的である。噴霧電流は噴霧圧力への依存性が顕著であり,噴霧圧力が増加するに伴って,大きな値を示した。それらのレベルは安全上の注意を要するものであった。
(図6,表5,参考文献9)

噴霧工程における爆発性雰囲気−可燃性蒸気の静電スパークによる着火性

SRR-No38-06
山隈瑞樹
  噴霧工程での爆発性雰囲気は,内容物に含まれる揮発性有機溶剤が空気中に拡散することによって形成される。そこで,噴霧工程でよく使用される有機溶剤15種類について,様々な使用環境があることを考慮し,温度を25℃〜100℃または50℃〜150℃に変化させて,空気との可燃性混合気の着火エネルギー(MIE),爆発範囲,その他の測定を行った。その結果,(1)MIE は温度上昇に対して指数関数的な低下を示し,爆発範囲も拡大する。(2)溶剤の種類によって温度特性が異なるが,なかでもアセトンは温度依存性が高く,100ºCにおけるMIEは25ºC のときの1/3 以下となる,(3)交流スパークによる爆発限界から静電スパークによる爆発限界を推定する実験式を得た,(4)アセトンを対象にした水蒸気添加による不活性化実験において,水蒸気濃度の増加にともない顕著なMIEの増大および爆発範囲の縮小が認められ,たとえば,水蒸気濃度30vol%とするとMIE>20mJ ,かつ,爆発範囲が4〜7vol%となり,通常の産業工程での静電スパークでは着火しない程度となった等を明らかとした。
(図9,表2,参考文献12)

噴霧装置の帯電特性−スプレー缶およびエアレス塗装機

SRR-No38-07
山隈瑞樹
  噴霧工程での爆発・火災の主要な着火源であるスプレー缶(浸透探傷検査(PT)用)とエアレス塗装機(最大圧力225 ㎏ / ㎠ )について,帯電特性を調べた。まず,スプレー缶では,(1)使用する温度によって静電気の発生量は大きく変化し,一部の缶では噴霧中50nA以上の電流を発生する,(2)DME,エタノール等の極性物質は,炭化水素等の非極性物質よりも静電気の発生量が大きい,(3)固体微粒子,または昇華により固形物を発生するものは極めて大きな発生量を示す,(4)液温が上昇すると内圧が上昇し,静電気の発生量も増加する,(5)ノズル径を若干大きくすることにより,発生量を大幅に減少させることが可能である等の点を明らかとした。また,エアレス塗装機では,(1)塗料にガラスフレークが含まれると200nA以上の発生量がある,(2)ノズル径によって発生量および極性が変化する,(3)希釈剤の種類および濃度によって帯電量が変化する等を明らかとした。
(図15,表3,参考文献10)

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