労働安全衛生総合研究所

特別研究報告 SRR-No.41 の抄録

  1. 災害多発分野におけるリスクマネジメント技術の高度化と実用化に関する研究
  2. アーク溶接作業における有害因子に関する調査研究
  3. 生体内繊維状物質の高感度・多元的検出とばく露レベルに関する研究
  4. 職業性ばく露と作業関連疾患のアクティブ・サーベイランス
  5. 中小企業における労働安全衛生マネジメントシステムの確立

No.1 災害多発分野におけるリスクマネジメント技術の高度化と実用化に関する研究

序論

SRR-No41-1-0
高木元也, 梅崎重夫, 島田行恭, 清水尚憲, 濱島京子
 本研究では,労働災害の更なる減少を図るため,災害多発分野である建設,機械,化学を対象に,事業場のリスクマネジメント手法の高度化,実用化を目的とした研究を行った.産業界との連携等により各分野の産業特性を踏まえた効果的なリスク低減手法を構築した.具体的には,労務集約型産業である建設業では設備面のリスク低減措置とそれを補完する作業者教育を取り上げ,装置型産業の主役となる機械分野では取扱う機械のリスク定量化と保護方策の適用を重視した.一方,化学プロセス分野では労働安全衛生マネジメントシステムの構築と運用の参考になる安全管理業務の見える化と具体的な業務の事例の整理を行った.このような多様な産業特性を踏まえ,リスク低減手法の構築・普及を行い,さらにはこれら3分野の産業横断的研究により,労働災害防止の新しい視点を導き出した.

中小建設業者を対象としたリスクマネジメント推進のためのアクションプログラムの策定・普及-

SRR-No41-1-1
高木元也
 わが国の基幹産業である建設業は労働災害が多く,特に中小建設業者の労働災害発生率は高い状況にある.わが国の建設業者の99%以上は中小建設業者であり,中小建設業者を対象に自主的な安全活動を推進させることが重要な課題である.効果的な推進を図るためには,中小建設業者の半分近くが建設産業団体に所属し,建設産業団体は会員企業の安全活動支援に熱心なところが多いことから,建設産業団体との連携が有効である.そこで,主たる会員が中小総合工事業者の(社)全国建設業協会,町場の工務店等低層住宅建築(概ね高さ10m以下の住宅)工事業者を傘下の団体の会員にもつ(社)住宅生産団体連合会と連携を図り,建設産業界の実態・意向等を踏まえつつ,リスクマネジメント推進のための行動目標,具体的方策を盛り込んだアクションプログラムを策定した.そして,具体的方策推進のため,リスク低減対策等に関する研究を行い,その研究成果を書籍,小冊子,DVD等にまとめ,その普及に努めた.

機械作業を対象とした安全設計支援システムの開発 −統合生産システム(IMS)のリスクマネジメント戦略を例として−

SRR-No41-1-2
梅崎重夫, 濱島京子, 清水尚憲
 機械による労働災害は,安全装置などの設備的な保護方策が困難な機械で数多く発生している。このような機械では、人の注意力に依存して安全を確保せざるを得ない.しかし,最近の技術進歩によって,このような機械に対しても、機械安全の観点からの保護方策が可能となるケースが多くなってきた.このため,機械安全と安全管理の連携を考慮した新たなリスクマネジメント戦略の確立が強く要望されている.そこで,両者の連携が不可欠な統合生産システム(IMS)を対象に,筆者らが考案した4種類の総括表を埋めるだけで,比較的容易に機械のリスクアセスメントや保護方策の実施を容易化できる安全設計支援システムを開発した.この総括表は,(1) 危険源等の同定とリスクの定量化,(2) 保護方策の実施,(3) 残留リスクの明確化と安全管理策の実施に関する情報を提供する.以上の成果は,筆者らが提案する保護方策区分,リスク管理区分,危険点近接作業などの諸概念とともに,ISO12100やISO11161を補完する新たなリスクマネジメント戦略として提案可能である.

プロセス産業における安全管理の体系化と具体的な進め方

SRR-No41-1-3
島田行恭
 プロセス産業における事故・災害を減少させ,労働災害防止に寄与するための安全管理の体系化について検討し,次の1. から3. について,具体的な安全管理業務の進め方についてまとめた.
  1. 化学プラントの安全運転管理としてどのような業務を実施すべきかをモデル化するためにPDCA(Plan-Do-Check-Act)サイクルによる業務実施とそれぞれの業務に必要となる資源提供の関係を明示したテンプレートを提案し,安全運転管理業務プロセスモデルを構築した.
  2. プラントライフサイクルにわたるHSE(Health, Safety, and Environment)管理業務体系について提案するとともに,HSE管理のための業務及び業務実施に必要となる資源の具体例を整理した.
  3. 現場レベルでの安全管理業務として,安全性(Safety),品質(Quality),生産性(Delivery),コスト(Cost)の観点からの管理項目を明示したSQDC工程管理表による安全管理業務の推進について提案した.
 さらに,HAZOPの結果として得られたハザードシナリオを利用したフォールトツリー(Fault Tree:FT)の自動生成とこのFTのトップ事象発生確率(ハザード発生頻度)の計算結果に基づくリスクの評価及びリスク低減対策の立案を支援するシステムを開発した.


No.2 アーク溶接作業における有害因子に関する調査研究

序論

SRR-No41-2-0
奥野勉
 アーク溶接は,多くの産業分野,特に製造業および建設業を支える基本技術であり,日本では,100万人以上の作業者がアーク溶接に携わっていると考えられる.アーク溶接は,粉じん,一酸化炭素ガス,有害光線,磁場など多くの種類の有害因子を伴う.これらの有害因子による健康障害が実際に発生し,または,その可能性が懸念され,社会的行政的な問題となっている.本プロジェクト研究では,アーク溶接に伴う有害因子および健康障害に関して,健康影響の調査,有害因子の測定評価,有害因子の測定評価方法,障害防止の対策の面から,調査研究を実施した.

溶接作業に伴う健康影響についての調査 −建設業従事者集団を対象とした調査結果−

SRR-No41-2-1
齊藤宏之, 久保田均, 久永直見, 柴田英治, 毛利一平, 山口さち子, 坂本龍雄, 佐々木毅, 田井鉄男, 柳場由絵, 奥野勉
 溶接作業時には数多くの有害因子にばく露される可能性があり,それに伴う様々な健康影響の問題が指摘されている.ばく露と健康影響の因果関係を明らかとし,有効な対策を講じるためには疫学的な研究が不可欠であるが,残念ながら我が国では殆ど行われていないのが現状である.今回,我々は建設業従事者を対象とした溶接作業による健康影響調査を実施した.溶接経験群および対照群において呼吸器系自覚症状,既往症,呼吸機能検査結果,聴診結果の比較を行ったところ,呼吸器系自覚症状の訴えが溶接経験群で高く,特に喘鳴は有意な差が見られた。既往症では電気性眼炎,眼内異物が溶接経験群で有意に高かった。その一方で,呼吸機能ならびに聴診結果では溶接経験群の方が良好な傾向が見られた.今後,対象を建設業以外に広げることも念頭に入れてさらなる調査を行う必要があると思われる.

溶接作業における作業者の磁界ばく露の実態調査

SRR-No41-2-2
山口さち子, 小嶋純, 関野正樹, 北條稔, 奥野勉
 溶接は産業の基盤技術であり,国内で二十〜三十万人が従事している.しかしながら,アーク溶接では100A単位の比較的大きな電流を使用することや,抵抗溶接においては数KA単位の大電流を使用することから,近年,作業時の電磁界ばく露が懸念されている.本研究では,アーク溶接作業者の作業中の磁界ばく露について,最もばく露磁界が大きくなると予想される手首部分に着目して実態調査を行った.その結果,溶接作業者の最大ばく露磁界は, 0.35—3.35 mT (Mean ± S.D.: 1.55 ± 0.93 mT, N=17) ,1日平均は0.04—0.12 mT (Mean ± S.D.: 0.07 ± 0.02 mT, N=17)であった.そこで,被験者の手首における磁束密度分布と電流密度分布を得るために,電磁界解析を行った.その結果,手首では最大ばく露磁界は1.49 mT で作業環境でのばく露磁界測定の結果と大きなかい離はなくモデル計算と測定値は良い一致を示した.このとき筋組織では4.28 mA/m2 (300 Hz,手首から6 mm)の誘導電流が推定された.この誘導電流の値は,ICNIRPガイドラインの基本制限値10 mA/m2(300 Hz)を下回っていた.

軟鋼の炭酸ガスアーク溶接が発生する青光の実験的評価

SRR-No41-2-3
奥野勉, 小嶋純, 齊藤宏之
 アーク溶接のアークを裸眼で,または,不適切な遮光保護具を使用して熟視した結果,網膜障害を受けた症例が,多数報告されている.その原因は,溶接アークが発生する青光(Blue light)である.本研究では,軟鋼の炭酸ガスアーク溶接のアークを実験的に発生させ,その青光の有害性を,AGGIHの許容基準に従って,測定,評価した.溶接ワイヤは,ソリッドワイヤまたはフラックス入りワイヤを使用し,溶接電流は,120 - 480 Aの範囲で変化させた.青光の有害性の強さを表す量である溶接アークの実効輝度は,一般に,溶接電流が大きくなると,高くなった.今回調べた条件の下では,実効輝度は,22.9 - 213.1 W/㎠srの範囲にあった.これに対する1日あたりの許容曝露時間は,わずか0.47 - 4.36秒であり,溶接アークを直接見ることが危険であることが示された.アーク溶接を行なう作業者は,適切な遮光保護具を必ず使用し,また,アークに点火する際には,遮光保護具の装着が遅れないようにすべきである.また,作業場では,他の作業者が行なっているアーク溶接の青光にも注意する必要がある.

炭酸ガスアーク溶接ヒュームの質量濃度変換係数 −併行測定の採取位置の影響−

SRR-No41-2-4
小嶋純
 炭酸ガスアーク溶接から発生する金属粉じん(溶接ヒューム)はナノ・レベルの極めて微小な粒子として生成するため,発生直後から速やかに凝集し,粒径および形状を変化させながら周囲に拡散する.この様な粒子の物理的変化は光散乱式相対濃度計の感度に大きく影響を及ぼすため,溶接現場で粉じん濃度を測定する際は,採取位置によって相対濃度計の質量濃度変換係数(K値)も変わることが予想される.筆者が実験室内で溶接ロボットによる炭酸ガスアーク溶接を行って併行測定を試みたところ,K値と 測定点(採取点)〜発生源間距離には負の相関が認められ,測定点が発生源から水平方向に2m離れた場合,K値は発生源近傍で得られる値の1/5程度に低下することが確認された.

溶接作業場における一酸化炭素濃度測定に対する提言

SRR-No41-2-5
小嶋純
 溶接時には金属粉じん(ヒューム)ばかりでなく種々の有害ガスも同時に発生し,それによる中毒事故がしばしば起きる.しかし,溶接作業の労働衛生課題はヒュームのばく露対策が中心であったため,有害ガスの問題はさほど重視されておらず,測定法に関する研究報告も国内では未だ僅少である.そこで本報では炭酸ガスアーク溶接に伴って発生する一酸化炭素ガスに着目し,国内外の規格が定めているばく露濃度測定法を参考に,同ガスの適切なサンプリング方法のあり方について検討を試みた.実験の結果,溶接作業者が常用する遮光保護面の内側と外側では一酸化炭素濃度に顕著な差異を生じることが確認され,一酸化炭素のばく露濃度測定においても面体内部でのサンプリングが重要不可欠であることが証明された.ただし,作業者が対面方向から微弱な気流を受けるような場合においては,面体内外で明らかな濃度差は認められなかった.

炭酸ガスアーク溶接ヒュームの上昇速度の測定

SRR-No41-2-6
小嶋純
 プッシュプル型換気装置は比較的広い換気区域を有し移動作業に対応が可能なので,適切に使用すればアーク溶接時の粉じん対策にも有効である.しかし現行の性能要件では,気流の一様性を確保した上で「捕捉面上平均風速を0.2 m/sec以上に保つ」という,いわば最低限の基準であるため,溶接ヒュームに対し常に十分な排気効果が得られるかは疑問である.大きな初速度を持つ溶接ヒュームを捕捉・排気するには,ヒュームの搬送を担う上昇気流を勘案した風速の設定が必要だからである.そこで本報では種々の条件で炭酸ガスアーク溶接を行い,その際に発生するヒュームの上昇速度の測定を試みた.実験の結果,溶接ヒュームの上昇速度は,ソリッドワイヤ,フラックス入りワイヤの何れの電極材を用いた場合においても溶接電流値と正の相関関係があり,法規の定める「捕捉面における平均風速」の0.2 m/secを大きく上回る約0.7 m/sec 〜 1.0 m/secの速度で上昇することが確認された.またこの測定結果を踏まえ,プッシュプル型換気装置を適用する際に推奨される吹き出し気流の速度を求めてみた.

低ヒュームワイヤによるばく露低減効果の検証

SRR-No41-2-7
小嶋純
 実験室内に設けた溶接ロボット等を用いて,溶接作業場における粉じん対策を目的に開発された低ヒュームワイヤのばく露低減効果を検証した.溶接ヒューム,一酸化炭素,オゾンの各ばく露濃度を測定し,低ヒュームワイヤと従来型ワイヤとの比較を行ったところ次の結果を得た.
  1. 低ヒュームワイヤは溶接ヒュームのばく露濃度を約5%低下,もしくは約25%増大させた.
  2. 低ヒュームワイヤは一酸化炭素のばく露濃度を約15%〜24%低下させた.
  3. 低ヒュームワイヤはオゾンのばく露濃度を約25%増大,もしくは約75%低下させ,これらは統計的に有意であった.
 以上の結果より,低ヒュームワイヤのばく露低減効果は製品情報等から期待される程のものではなく,粉じん対策上あくまで補助的手段に留めるべきであることが示唆された.

液晶式自動遮光溶接面を使用してアーク溶接を行なう場合のアーク点火時の青光への曝露

SRR-No41-2-8
奥野勉, 小嶋純
 新しい種類の溶接用遮光保護具である液晶式自動遮光溶接面(液晶面)は,明るさ(透過率)が変化する液晶フィルタプレートと,溶接アークの点滅を検出する光センサーをもつ.アーク溶接作業では,液晶フィルタプレートを,アークが点灯している場合には暗く,消灯している場合には明るくなるよう変化させる.このため,液晶面は,従来の溶接用保護面と異なり,アークの点滅にかかわらず,常時,着用していることができる.しかし,液晶面の着用者は,アーク溶接を開始する際,アークの点灯から液晶フィルタプレートの作動までの短い時間に,網膜障害を引き起こす危険性がある青光へ曝露される.本研究では,市販の液晶面の製品について,これを使用してアーク溶接を行なう場合のアーク点火時の青光への曝露量を,ACGIHの許容基準に従って実験的に測定,評価した.液晶面を着用して溶接アークに点火した場合の青光への曝露量は,液晶面の製品,その設定,溶接の条件によって異なり,0.24から77 mJ/㎠srの範囲にあった.ACGIHは,任意の10000秒間における青光への曝露の許容値を100 J/cm2srとしているが,現実の状況では,作業者の曝露量がこの値を超えることはないと考えられる.現在,ISOでは,保護めがねなどに関する規格の策定が行なわれているが,本結果は,液晶面に対する規定を検討する際の基礎となると考えられる.


No.3 生体内繊維状物質の高感度・多元的検出とばく露レベルに関する研究


生体内繊維状物質の高感度・多元的検出とばく露レベルに関する研究

SRR-No41-3-1
篠原也寸志
 分析透過型電子顕微鏡による肺内石綿繊維計測を現在の電子顕微鏡の特性を活用し効率的に短繊維まで検出する手法の検討を行った.その中で試料作製法におけるシュウ酸処理の導入が有効であった.他の検査結果からはばく露量の推定が困難な場合であっても分析透過型電子顕微鏡分析によって肺内から比較的細く短い石綿繊維が高濃度で検出できることが確認できた.


No.4 職業性ばく露と作業関連疾患のアクティブ・サーベイランス(作業関連疾患の疫学研究の推進を含む)


序論

SRR-No41-4-0
坂本龍雄
 労働安全衛生におけるサーベイランスは,職業性ばく露や作業関連疾患に関する情報を系統的・継続的に収集することにより,課題の優先順位の決定などを通じて政策決定プロセスに寄与する.日本においては,労災補償統計や業務上疾病統計がその役割を担うが,実態を必ずしも正確には反映していないとして批判されることが少なくなかった.また2007年には,総務省の「労働安全等に関する行政評価・監視結果」において,労働災害の発生実態の把握・分析を適切化するよう勧告がなされている.こうした状況を背景として,当研究所では2002年より新しいサーベイランスモデルの開発を続けてきた. これまでの成果に基づいて,本プロジェクトにおいてWebベースでの針刺しサーベイランスシステムを完成させることができたが,その実効的稼働には至らなかった.今後,日本において作業関連疾患等のサーベイランスを確立するために必要な要件について,検討されなければならない.

作業関連疾患のアクティブ・サーベイランス −Web情報システムの開発と活用−

SRR-No41-4-1
毛利一平, 坂本龍雄, 牧祥, 小川康恭
 サーベイランスとは,健康問題を監視するための仕組みであり,公衆衛生学的な課題の発生を迅速に捕捉し,多数ある課題に優先順位を設定して社会的資源の配分を効率的に行い,あるいは対策の効果を評価する際などに,必要とされる科学的根拠を提供する.しかしながら,日本の職業病/作業関連疾患のサーベイランスについては過小評価が問題とされてきた.このため作業関連疾患を対象とした新しいサーベイランスモデルの確立を試みた.2002年よりWebベースのサーベイランスシステムの開発に取り組み,職歴記録システムなど三つの異なるシステムを構築することができた.しかし,症例の報告に参加する医師らのグループの組織化が困難であり,実質的な稼働には至らなかった.世界的に見れば,従来の労災・職業病サーベイランスからよりアクティブな作業関連疾患のサーベイランスへと向かっており,日本においても新しいサーベイランスシステムの確立が必要とされている.


No.5 中小企業における労働安全衛生マネジメントシステムの確立

序論

SRR-No41-5-0
甲田茂樹, 佐々木毅, 渡辺裕晃, 鶴田由紀子,山口秀樹, 丸山正治, 伊藤昭好, 原邦夫, 堤明純
 職場の安全衛生活動に労働安全衛生マネジメントシステム(OSHMS)を導入・定着させることは,効果的かつ継続的な安全衛生活動を実施する有効な手法であることが,大企業での先行事例からも報告されてきた.このようなOSHMSの導入・定着が,人的資源や経済的制約のある中小企業において職場の安全衛生活動や働く人の安全と健康にプラスの効果をもたらすのか,検証することが本プロジェクト研究の目的である.研究対象には地方の中規模自治体を選定し,OSHMSの導入研修とリスクアセスメント研修を2年間にわたり実施し,その介入前後で,職場環境等と心理的・身体的ストレス反応や職場での安全衛生活動等に関するアンケート調査,公務災害や私傷病による休業者数の推移,内部システム監査による安全衛生活動評価,グループ討論による職場環境等の改善対策の提案,などを経年的に観察していった.職場にOSHMSが導入・定着されることで,各職場から多面的なリスクに対応できる効果的な改善対策事例が提案され,公務災害や短・長期休業の件数に減少傾向が認められ,職場環境等への改善対策の関与の度合いが上昇し,労働者の心理的・身体的ストレス反応が低下するなど,職場の安全衛生活動や労働者の安全・健康指標にプラスの効果が認められた.

職場への労働安全衛生マネジメントシステムの導入がもたらす労働安全衛生活動への影響について

SRR-No41-5-1
甲田茂樹, 佐々木毅, 渡辺裕晃, 鶴田由紀子, 伊藤昭好, 原邦夫, 堤明純, 山口秀樹, 丸山正治
 多様な業種があり中小規模の職場を抱える某地方自治体職場(O市)に労働安全衛生マネジメントシステム(OSHMS)の導入を試みた. 約2,000名の職員からなり,10の安全衛生委員会を組織するO市は,2007年6月にOSHMS導入の方針を決定した.各委員会から委員2名,事務局1名の計3名の参加者に対し,約2ヶ月おきにOSHMS概要(基礎)研修を1回とOSHMS導入研修を4回行った.研修は講義の他,幾つかのモデル職場を設定しアクションチェックリストを携え職場巡視し,グループ討議により職場環境等の改善提案を論議するという参加型アプローチで行った.2008年8月からは各職場の安全衛生上の課題を個別に抽出・評価しそれらの対策を自らで考えるためのリスクアセスメント研修を全ての委員会の職場巡視をしながら実施すると共に,メンタルヘルスに関する研修としてストレス・リスクアセスメント研修を2回実施した.同時期に安全衛生活動の評価法についても試行し,2009年10月からシステム監査研修を全ての委員会において行った.また,ほぼ全ての職場でリスクアセスメントの研修が終了して以降に,提案された職場の改善・対策事例は2年間で96良好事例と127改善事例に及び,職場における安全衛生活動が自発的に動き出したことが観察された.
 2010年3月にO市固有のOSHMS実施要綱が策定され,事業主(市長)によって安全衛生方針が表明され,開始から3年以内にOSHMSの導入が完了し,職場の安全衛生活動への定着を図るフェーズへと移行した.

職場への労働安全衛生マネジメントシステムの導入による労働安全衛生指標への効果について

SRR-No41-5-2
佐々木毅, 甲田茂樹, 渡辺裕晃, 鶴田由紀子, 伊藤昭好, 原邦夫, 堤明純, 山口秀樹, 丸山正治
 某地方自治体職場に労働安全衛生マネジメントシステム(OSHMS)の導入を試み,その取り組みをはさんでパフォーマンス指標や労働安全衛生に関する指標の変化について追跡調査を行った.O市は職員約2,000名で14部署からなり,2007年6月にOSHMS導入の方針を決定し,様々な研修や取り組みを実施し,2010年3月にOSHMSの導入が完了した.この間,質問紙調査をベースラインは2008年8月,フォローアップ1回目は2009年10〜12月,フォローアップ2回目は2010年10〜11月に実施した.その結果,
  1. パフォーマンス指標として作業環境や作業内容・作業姿勢に関する対策や改善の実施状況を検討すると,それらを実施した割合は増加したとはいえなかったが,積極的に関わる者が増加していた.
  2. ストレスに関連した指標は,仕事の負担度が増えていた他は,働きがい,仕事のコントロール度,仕事や生活の満足度など多くの尺度が好転し,仕事や職業生活での強い不安,悩み,ストレスは低減し,疲労の回復状況も良好となった.
  3. 公務災害発生件数,疾病休業者数とも減少していた.
 以上から,OSHMS導入に付随した様々な取り組みの影響を考慮しなければならないが,OSHMS導入が発端となり,職場の安全衛生活動が活性化され,安全衛生指標が向上することが示唆された.

刊行物・報告書等 研究成果一覧