労働安全衛生総合研究所

特別研究報告 SRR-No.46 の抄録

  1. 建設機械の転倒及び接触災害の防止に関する研究
  2. 墜落防止対策が困難な箇所における安全対策に関する研究
  3. 建設業における職業コホートの設定と労働者の健康障害に関する追跡調査研究
  4. ナノマテリアル等の高機能化工業材料を使用する作業環境中粒子状物質の捕集・分析方法の研究

No.1 建設機械の転倒及び接触災害の防止に関する研究

序論

SRR-No46-1-0
玉手 聡,吉川直孝,堀 智仁,清水尚憲,梅崎重夫,濱島京子
 建設業における労働災害は建設機械等によるものが墜落に次いで2 番目に多く、中でも掘削用機械のドラグ・ショベルによる激突、転倒・転落災害は後を絶たない。また、クレーン機能付きドラグ・ショベルの使用では、つり荷の落下や機械との激突によって人がはさまれたり巻き込まれたりする接触災害が多発する傾向にあることから、本プロジェクト研究では建設機械の転倒及び接触災害の防止に焦点を当て、現場内走行に潜在する転倒危険の解明や接触防止のための警報装置の開発を行った。また、基礎工事用のくい打機や移動式クレーンなどの大型機械の転倒では被害が現場周辺にも及び近年社会問題化している。そこで本研究では主な転倒原因である地盤の養生不足の問題を解決するために地耐力確認のための簡易調査法を提案した。本報告では本プロジェクト研究全体の概要を述べる。

建設機械等による労働災害の詳細分析と再発防止対策の検討−ドラグ・ショベルによる災害に着目して−

SRR-No46-1-1
吉川 直孝,伊藤 和也,堀 智仁,清水 尚憲,濱島 京子
 本研究では、建設機械等の死亡災害をまず概観した後、建設機械に分類されるドラグ・ショベルの保有台数及び死亡災害が、他の建設機械に比べ多いことに鑑み、主にドラグ・ショベルに係る死亡災害について詳細に分析した。その結果、ドラグ・ショベルに係る死亡災害は、ドラグ・ショベルが「墜落・転落」、「転倒」する災害、つり荷による「飛来・落下」、掘削等により斜面、溝等が「崩壊・倒壊」する災害、ドラグ・ショベルに作業員が「激突され」「はさまれ・巻き込まれ」て被災する災害に大別された。また、斜面上での走行や旋回といった動的な状態によりドラグ・ショベルが不安定化すること、狭小な作業環境もあり作業員がドラグ・ショベルの最大掘削半径内で作業していた状況等が明らかとなった。再発防止対策として、転倒時保護構造(ROPS)を有したドラグ・ショベルの使用、シートベルトの着用の徹底、動的な状態を考慮した安定度の設定と遵守、作業員と運転者にお互いの接近を認知させるシステム等を挙げた。

現場地耐力試験と平板載荷試験による地盤調査の性能比較

SRR-No46-1-2
玉手 聡, 堀 智仁
 平板載荷試験(PLT)では支持地盤に対する載荷圧力q と沈下量S の関係から極限支持力qd や地盤反力係数Kvsが導かれ、建設機械等を設置する際の圧力載荷を再現した調査が可能である。しかしながら、その実施には4 時間程度を要するため、機械を移動する度毎にこの試験を行って地耐力を確認するには困難な側面があった。そこで本研究では、簡易な方法として現場地耐力試験(BCT)を考案した。BCT は10 から20 分程度の短時間で試験が可能であり、その方法もPLT に比べて簡易なものである。本稿では、BCT の方法とこれを迅速に実施するための試験装置を紹介するとともに、新たに二箇所の現場で行ったBCT とPLT の比較調査の結果を報告する。そして、既往のデータに新たなデータを加えた総合的な検討からBCT の有効性を議論した。

ドラグ・ショベルの斜面降下時と残土乗り越え時における不安定性の実験的解析

SRR-No46-1-3
堀 智仁,玉手 聡
 ドラグ・ショベルに代表される掘削用機械の過去の災害事例を分析すると、斜面走行中の転倒に起因する災害が数多く発生している。とりわけ、転倒したドラグ・ショベルが走行していた斜面の角度は、その傾斜の影響で転倒が生じる可能性があるとされる角度(安定度)を超えるような急勾配の場合だけでなく、それよりも緩い勾配の場合においても転倒災害が発生していることがわかった。そこで本研究では、残土等の斜面を乗り越える際または斜面を降下する際の転倒現象等を解明するため、ドラグ・ショベルの小型模型を製作し、遠心模型実験により検討を行った。検討の結果、ドラグ・ショベル模型の転倒現象は、模型の安定度よりも角度の緩い斜面においても観察され、災害事例で見られた転倒現象を遠心模型実験により再現することができた。またドラグ・ショベルが転倒の危険なく走行できる斜面の角度は、前進移動の場合と後進移動の場合で異なること等が明らかとなった。本研究の結論として、ドラグ・ショベルの斜面走行時の転倒現象は、エネルギー保存則に基づく概算値により、おおよそ説明できることを明らかにした。

クレーン機能付きドラグ・ショベルのつり荷走行時における機械の不安定化に関する研究

SRR-No46-1-4
堀 智仁,玉手 聡
 クレーン機能付きドラグ・ショベルには、クレーン作業を安全にするためJCA 規格(一般社団法人日本クレーン協会規格)に適合したフック等の安全装置が備わっている。一方で同機械による災害は近年多く発生しており、クレーン作業中の転倒が見受けられる。本研究では、つり荷走行時における不安定要因を明らかにするために、実機を用いた実験を行った。その結果、理想的な水平堅固条件においてもつり荷走行時にはつり荷の重さの約1。3 倍の荷重が作用することや、走行路の起伏と走行速度はつり荷の荷重を増減させる不安定要因であることがわかった。

建設機械と人間の接触等を防止するための保護装置に関する研究

SRR-No46-1-5
清水 尚憲, 濱島 京子, 梅崎 重夫, 吉川 直孝
 平成18 年に発生した建設機械による死亡労働災害89 件の分析によると、建設機械とその周囲にいた作業者が接触したために発生した災害(激突され、はさまれ・巻き込まれ)は全体の53%を占めており、建設機械のオペレータ、周囲作業者、誘導員による人の注意力に依存した安全管理にも限界があることが示唆された。そこで、最新のセンシング技術を利用したモニタリングシステムやICT(Information & Communication Technology:情報通信技術)を応用して危険情報を伝達する支援的保護システムを開発し その妥当性を検証するとともに、実際の作業を想定したリスク低減方策について検討を行った。また、独立防護階層の概念を応用した建設機械の安全防護階層を提案し、リスク低減方策としての支援的保護システムの位置づけを明確にした。さらに、ICT 機器を適切に組み合わせることで、確実性の高いリスク低減効果が期待できることが分かった。


No.2 墜落防止対策が困難な箇所における安全対策に関する研究

序論

SRR-No46-2-0
日野泰道,大幢勝利,高橋弘樹,吉川直孝,高梨成次,伊藤和也,豊澤康男
 建設業における労働災害において、足場、屋根、崖・斜面からの墜落災害が数多く発生している。その要因の一つとして、墜落防止対策の基本となる足場等を用いた従来型の墜落防止対策が困難な現場が見られることである。とりわけ災害復旧工事や軽微な改修工事などで、このような問題が見受けられる。本プロジェクト研究は、従来型の墜落防止対策が困難な箇所として、「組立・解体作業中における足場からの墜落防止対策」、「屋根作業における墜落防止対策」、「崖・斜面からの墜落防止対策」の三つの状況を取り上げ、当該箇所における墜落防止対策について検討を行ったものである。

足場からの墜落防止対策に関するアンケート調査

SRR-No46-2-1
大幢 勝利
 建設業では従来から墜落災害の発生件数が最も多く、その対策として平成21 年には足場等からの墜落防止措置等を強化するため、労働安全衛生規則の一部を改正する省令が公布され同年6 月から施行された。これにより、足場等からの墜落防止措置として手すりに加え中桟や幅木、下桟等の設置が義務付けられ、足場については欧米と同等の墜落防止措置が実施されるようになった。厚生労働省では、この規則改正を受け、「足場からの墜落防止措置の効果検証・評価検討会」を設置し、改正された規則の効果や今後の対策等について検討を行った。その中で、足場からの墜落防止措置の現状を調べるために筆者も協力してアンケート調査が実施され、その結果等を参考に、平成27 年にさらに労働安全衛生規則の一部を改正する省令が公布され同年7 月から施行された。本研究では、平成27 年に改正された省令の内容と関連付けながら、アンケート調査の結果について述べることとする。

足場の組立・解体時における安全帯取付設備等の安全性の実験的検討

SRR-No46-2-2
大幢 勝利,日野 泰道,高橋 弘樹,高梨 成次
足場の組立・解体時における安全帯取付設備としては、従来から墜落防護時の安全性が確認されている、手すり先行工法に用いる手すりわくや親綱が使用されている。しかし、足場を構成する建地や手すり等、その他の部材に安全帯を取り付けた場合の安全性は不明な点が残されている。そこで本研究では、安全帯を取り付ける可能性のあるくさび緊結式足場の建地、手すり、またはわく組み足場の建わくに安全帯を取り付けた場合の安全性を、人体ダミーを用いた落下実験により確認した。その結果、人体ダミー落下後においてもこれらの部材に大きな損傷もなく、安全帯を安全に取り付けることが可能であることがわかった。さらに、手すり先行工法が実施しづらい単管足場で、安全帯取付設備となる手すりを先行して取り付ける方法の可能性についても検討した。

橋梁検査路の損傷程度が安全帯取付時の性能に与える影響の実験的検討

SRR-No46-2-3
大幢 勝利,高梨 成次,日野 泰道,高橋 弘樹,熊田 哲規
 橋梁検査路は、橋梁の維持管理のために設置される。主として橋台、橋脚、主桁等の点検活動や保守活動に用いられる。このとき作業員は、手すり等に安全帯を掛けて、墜落防護の対策を講じているのが現状である。しかし、近年、検査員が腐食した検査路から転落するといった重篤な事故が報告されていることから、定期点検により確認された損傷が安全性に与える影響を定量的に把握する方法の開発が望まれる。そこで本研究では、作業員の安全という観点から、安全帯を掛ける部位と想定される手すりが既に負っている損傷に着目して、橋梁検査路の損傷程度が墜落防護性能に与える影響を実験的に検討した。その結果より、孔食による穴や腐食による肉厚減少が、検査路手すりの墜落防護性能に与える影響を明らかにした。

墜落阻止時の垂直親綱と安全ブロックの伸びと衝撃荷重に関する基礎的研究

SRR-No46-2-4
高橋 弘樹,日野 泰道,大幢 勝利
 親綱・安全帯等を用いた屋根上作業において、作業員が屋根から滑落後、親綱等により墜落阻止された場合、親綱に荷重が作用するとともに、親綱自体に伸びが生じる。しかし、親綱を地面に対して垂直方向に使用した場合(以下、垂直親綱とする)の伸びと衝撃荷重の関係は分かっていない。また、墜落阻止時に垂直親綱に生じる最大の伸び量も分かっておらず、伸びすぎて地面に墜落する可能性もある。本稿では、墜落阻止時の垂直親綱等に作用する衝撃荷重と伸びの関係を墜落実験により検討し、これらの結果をもとに、屋根上作業における垂直親綱等の使用基準について示した。

屋根上作業における垂直親綱・安全帯の使用方法に関する検討

SRR-No46-2-5
高橋 弘樹,日野 泰道,大幢 勝利
 家屋等の屋根上作業において、作業床を設置すること等が困難な場合、親綱・安全帯等を用いて墜落防止対策をすることになる。しかし、親綱を地面に対して垂直方向に使用した場合(以下、「垂直親綱」という)の墜落阻止時の垂直親綱に作用する衝撃荷重の大きさは分かっておらず、垂直親綱・安全帯の使用基準は整理されていない。本論文では、実物大の屋根供試体を用いた墜落実験により、垂直親綱・安全帯の使用方法を検討した。その結果、次のことが分かった。1) 垂直親綱が短い場合や、屋根上の障害物により、垂直親綱の伸びが制限される場合は、8kN を超える衝撃荷重がランヤードに作用する可能性がある。2) 屋根上で作業をする場合は、ショックアブソーバ付きのランヤードを使用し、垂直親綱を堅固な構造物に固定することを推奨する。3) 垂直親綱を設置する際は、垂直親綱の設置長さと墜落阻止時の垂直親綱の伸びを考慮して1)、垂直親綱のたるみをできるかぎり無くすようにする。

移動はしごを用いた屋根作業における墜落防止対策の検討

SRR-No46-2-6
日野 泰道,高橋 弘樹,大幢 勝利
 建設業における労働災害として屋根関連工事での墜落災害が数多く発生している。これらの工事の大半は、新築工事ではなく、改修工事や災害復旧工事などで発生している状況である。特に2011 年の東日本大震災を契機に、災害復旧工事における建設業の労働災害防止対策、とりわけ高所からの墜落防止対策の重要性が認識されるようになっている。つまり、短期間で工事が終了する屋根関連作業における簡易で安全性の高い対策が必要とされていると考えられる。そこで本研究では、住宅屋根工事において利用可能な安全対策として、主に「①移動はしご」、「②ショックアブソーバ付きの安全ブロック」、「③4 本のナイロンロープ」、「④ハーネス型安全帯」および「⑤垂直親綱」を用いた新しい安全対策について検討を行った。
 検討の結果、移動はしごの上端部と下端部を堅固な構造物とロープで連結固定し、ショックアブソーバ付きの安全ブロックをはしご上方部に設置した、墜落防止対策の土台となる部分を設置することにより、屋根高所作業の準備段階から片づけ作業に至る一連の工事における墜落防止対策が構築できることが実物大実験により明らかとなった。
 本工法は、墜落防止対策の土台となる部分の組立・解体を地上にて行える点に特徴がある。また本研究で検討した新しい安全対策は、屋根上に垂直親綱を設置する作業における安全対策のみならず、単に移動はしごの昇降時の安全対策として利用できるものと考えられる。

屋根関連工事における新しい墜落防止対策の提案

SRR-No46-2-7
日野 泰道,大幢 勝利,高橋 弘樹
 「移動はしごを用いた屋根作業における墜落防止対策の検討」では、災害復旧工事などの短期間に作業が終了する屋根関連工事における新しい墜落防止対策として、移動はしごと垂直親綱・ハーネス型安全帯および安全ブロックを用いた工法について実験的に検討を行った。本研究は、当該工法の適用範囲や具体的な設置手順、利用に際しての注意点について、実験結果等を交えて整理を行ったものである。

建設業における斜面工事中の墜落による労働災害の調査・分析

SRR-No46-2-8
伊藤 和也,吉川 直孝
 建設業における労働災害による死亡者数は従来から墜落災害によるものが最も多く、建設業全体の約4 割を占めている。本論文は、土木工事業における墜落災害発生時の主な作業箇所として分類される「崖・斜面」からの墜落災害を対象として、実態把握および墜落災害防止対策の確立のための基礎データを得ることを目的とした労働災害(死亡災害)事例の調査分析を行った。その結果、多くが地方公共団体発注の公共工事で発生し、30 名未満の事業規模の会社での55 歳以上の年齢層での災害が多くを占めていること等がわかった。

法面工事現場における安全管理法に関する実態調査−富山県・宮城県を対象地域としたアンケート調査-

SRR-No46-2-9
伊藤 和也, 吉川 直孝, 菊池 信夫
 建設業における労働災害による死亡者数は従来から墜落災害によるものが最も多く、建設業全体の約4 割を占めている。このうち、足場については労働安全衛生規則の改正によって適切な安全対策が施された現場では災害が発生していない。そのため、足場以外の作業箇所からの墜落災害を減少させるための対策が急務となっている。本論文では、足場以外にも墜落災害が多い「崖・斜面」に関係する斜面工事の安全管理に関して、特に墜落災害を防止するための基礎的なデータ・技術的知見の収集を目的として、斜面工事に従事している企業を対象とした墜落防護設備に関する実態調査(アンケート調査)を行った。また、それらの結果と既往の災害分析の結果を踏まえて、今後検討すべき課題の抽出を行った。

法面からの墜落災害防止のためのアンカーによる親綱固定方法に関する検討

SRR-No46-2-10
伊藤 和也,吉川 直孝,岡庭 翔一
 我が国は様々な自然現象によって斜面崩壊等の斜面災害が多発している。このような斜面災害から社会インフラや住居を護るために吹き付け工などの法面工事が行われる。法面工事は斜面での作業を伴うため、作業員の安全を確保するために親綱と安全帯を使用した墜落災害防止対策を行っている。しかし、親綱の固定方法の目安は提示されているが、工学的根拠については明確ではない。そこで、本研究では親綱の固定方法の一つであるアンカーを打設して固定する方法について、適切なアンカー径や打設深さ、形状、親綱の擦れ防止方法などを検討し、法面作業時の安全性を確保することを目的とする。

No.3 建設業における職業コホートの設定と労働者の健康障害に関する追跡調査研究


序論

SRR-No46-3-0
佐々木毅,久保田均,柴田延幸,中村憲司,松尾知明,岡 龍雄,甲田茂樹
 建設現場には多種多様の物理的因子、化学物質等の危険有害因子が潜在することから、建設労働者の働き方に起因する疾病の発症、或いは死亡に関連していることが危惧される。それに加え、小規模事業場が大半を占めるという点で、労働安全衛生面の管理・指導はおろか、その実態を把握することも困難である。
 本プロジェクト研究では、産業疫学的手法を用い、建設業での職業コホートを中心とした以下の3 つのサブテーマを設定して実施することにより、建設業の以前からの課題と新たな問題を抽出・提起し、建設労働者の労働災害や健康障害の発症の解明や予防策、労働安全衛生対策に寄与できるデータを提供することを目的にした。
 サブテーマ1 は職業コホートによる死因に関する追跡調査で、建設業の職種と死亡原因との関連について長期の追跡を行った。サブテーマ2 はサブコホートによる定期健診時の問診票調査で、得られた結果の一つとして騒音/振動発生工具使用の複合影響と推測される聴力低下の有訴が年々増加していた。サブテーマ3 は現場の有害物ばく露の実態調査で、サブテーマ2 の結果に基づき建設現場での騒音/振動発生工具使用時の騒音や手腕振動レベルの実態を検証し、実験室での実証実験によって工具使用時の聴力低下について検討した。

建設業の職業コホートによる死因に関する追跡調査

SRR-No46-3-1
久保田 均,佐々木 毅,久永 直見,柴田 英治,毛利 一平,甲田 茂樹
 建設業従事者を対象に死亡動向を把握し、それらの死亡原因から労働安全衛生上の問題点を抽出することを目的に、某県建設労働組合(以下、建労)の男性組合員を対象とする職業コホートを設定し、死因動向を把握するための追跡調査を実施した。
コホートの規模は17,412 名、死因の把握は現役組合員等から建労に提出される死亡情報の提供を受け、それを毎年度追跡することにより行った。なお、本プロジェクト研究開始以前の当研究所基盤的研究等(以下、前研究)ではコホートの規模を17,668 名としていたが、本研究でコホートデータの精査(重複、欠損情報等)を随時行い、最終的に17,412 名のコホートを対象とした追跡調査となった。
 前研究(1973〜1998 年)で見出された主要な結果は、鉄骨工における肺がん死亡に関する標準化死亡比(SMR)の有意な上昇であった。この結果はデータ精査後のコホートにおいても確認できたが、追跡期間の延長(1973〜2009 年)後コホートでは同様の傾向は確認できなかった。全職種についても、何れの死因ともSMR は大幅に低下していた。これらの結果は、何らかの影響によるものというよりも収集した死亡数の規模が正当な死因解析結果を導くには不十分であったことによると結論づけた。

建設業の問診票調査からのサブコホートの構築並びに騒音/振動工具の使用と聴力低下の自覚症状との関連

SRR-No46-3-2
佐々木 毅,久永 直見,柴田 英治,毛利 一平,久保田 均,柴田 延幸,甲田 茂樹
 某県建設労働組合の定期健康診断時に実施された問診票調査のデータをデータベース化してサブコホートを構築した。サブコホートは最終的に2008〜12 年までの5 年間分のデータで延べ28,890 名、5 年連続で参加した男性組合員は2,345 名であった。 騒音または振動発生工具の使用と聴力低下の有訴についての関連を多重ロジスティック回帰分析等で検討した結果、1) 聴力低下は一般には50〜60 歳代から現れるとされるが、騒音発生工具をよく使用する者は、より低年齢層の40 歳代から聴力低下の愁訴が多かった、2) 騒音発生工具をよく使用する者の聴力低下の愁訴は大工、鉄骨工といった特定の職種で多かった、3) 横断的に解析すると、聴力低下の有訴は騒音のみのばく露では2〜3 倍程度、騒音と振動の複合ばく露では3〜4 倍程度であった、4) 縦断的に解析すると、騒音ばく露のみの聴力低下の有訴は3〜4 年後に4 倍になったものの、騒音と振動の複合ばく露による聴力低下の有訴は1 年後に4 倍強、2年後に6 倍強まで上昇し、その後3〜4 年後には同等か若干低下した。振動による人体への影響として、自律神経系障害(交感神経系の亢進による内耳の血管収縮による有毛細胞の障害)の報告があることから、聴力低下有訴の増加は騒音と手腕振動の蓄積的ばく露が一因と考えられた。問診票調査では限界があるので、工具使用時の騒音や手腕振動発生レベルの実態調査や複合ばく露による聴力への影響を実証実験で検討することとし、次稿の柴田ら「建設業における騒音/振動発生工具での作業に関する実態調査並びに聴力変化へ及ぼす影響の実証実験」で報告する。

建設業における騒音/振動発生工具での作業に関する実態調査並びに聴力変化へ及ぼす影響の実証実験響

SRR-No46-3-3
柴田 延幸,佐々木 毅,久永 直見,柴田 英治,久保田 均,中村 憲司,松尾 知明,岡 龍雄,甲田 茂樹
 建設業従事者の問診票調査から騒音発生工具に加え振動発生工具を使用すると聴力低下の有訴が更に高くなることが示された。しかし、建設現場で実際に用いている工具の騒音や手腕振動の発生レベルに関する報告が少ないため、その実態調査を行った。また、その現場では聴力低下に関する調査は困難なため、実験室実験によって騒音、そして騒音と手腕振動の複合ばく露による一時的聴力低下に関する検討を行った。 実態調査は、某県建設労働組合員を対象に計30 名のおよそ39 種類の作業について騒音と手腕振動の発生レベルを測定した。作業は据え置き型機械または手持ち工具を用いたものに分け、発生レベルを1 日のばく露許容時間に換算して整理した。その結果、手腕振動レベルは1 日のばく露許容時間が1 時間までと強い振動を発生する工具があったものの、多くの機械・工具で1 日のばく露許容時間が8 時間までであった。一方、騒音レベルはほとんどの機械・工具で1 日のばく露許容時間が2 時間まであり、手腕振動レベルでの1 日のばく露許容時間との違いがみられた。
 実証実験は、男子大学院生8 名を対象として、騒音は上述の実態調査で録音したサンダーによる木材研磨作業時のものと手腕振動は加振器を用いてばく露を行った。その結果、複合ばく露によって一時的聴力低下が発生する可能性、交感神経系(唾液中クロモグラニンA)が亢進することが示唆された。


No.4 ナノマテリアル等の高機能化工業材料を使用する作業環境中粒子状物質の捕集・分析方法の研究


序論

SRR-No46-4-0
鷹屋 光俊, 小野真理子,篠原也寸志,中村憲司,山田丸
 ナノテクノロジー産業の伸長に伴い、工業用ナノ材料の労働衛生問題が注目され、厚生労働省は、予防的にナノマテリアルに対するばく露防止対策をとることを求めている。当研究所においても平成19 年度よりプロジェクト研究、政府受託研究などを実施しナノ材料製造職場でのばく露リスク評価に関する研究を行ってきているが、複数のナノ材料や、他の物質も存在するナノ材料を利用した製品の製造工程でのばく露アセスメント方法等の課題について、本プロジェクト研究を実施し問題の解決に向けた研究を実施した。本プロジェクトの実施内容は、粒子計測によるばく露リスク・作業場の環境評価、測定方法の評価およびコントロールバンディングに必要な粉じんの発生しやすさ(ダスティネス)の評価などに使用するためのナノマテリアルの気中粉じん発生法および、粒径表面加工等が様々な状態の材料が使用されているナノ二酸化チタンの分析、樹脂などに混錬されて使用されているカーボンナノチューブの分析法である。
 粒子計測については、ナノマテリアル凝集粒子の発生法を確立したうえで、近年製品化がすすむポータブル型粒径別測定装置を、ナノマテリアル凝集粒子測定に使用する場合の問題点を見出した。
 粒子発生について、より現場の発生条件に近い落下式の発生を表面状態が異なる各種二酸化チタンナノマテリアルを被験試料とした実験を行い、表面状態の違いによる粒子発生量、粒径分布の違いなどのデータを収集した。
 このデータは、コントロールバンディングによるリスク管理に広く使用可能だと考えられる。
 二酸化チタンの分析について、気中粒子捕集サンプルに対する一次粒子粒径の推定を、X 線回折、可視—紫外吸収スペクトル測定などの方法で試みたが、いずれも困難であるという結果が得られた。一方、酸分解が困難となる疎水化処理などを行ったナノ二酸化チタン材料でも簡易に分析できる蛍光X 線分析による気中チタン濃度測定を試み、学会等が提案しているナノ二酸化チタンの許容濃度を超えているかどうかを簡易に判定する方法を開発した。
 カーボンナノチューブについては、カーボンナノチューブをプラスティックスに混練し、導電性プラスティックを製造している工場での現場調査を実施した。測定・分析方法として粒子計測による気中濃度測定と、捕集した粒子の炭素分析による分析を試みた。粒子計測は、共存する他の粒子状物質との分離が困難であったが、炭素分析については、樹脂材料由来の粉じんが共存する状態で、カーボンナノチューブの定量分析は可能であった。

多分散ナノマテリアル粒子を用いたポータブルSMPS の評価

SRR-No46-4-1
山田 丸,鷹屋 光俊
 空気中に浮遊するナノマテリアル粒子は主に凝集した状態にあり、幅広い粒径分布を示す。したがって、ナノマテリアルのリスク評価を行う際は、その濃度に加え正確な粒径分布の情報が欠かせない。気中粒子の粒径分布をモニターできる装置の一つとして走査型電気移動度粒径測定器(SMPS)が有用だが、大型で持ち運び困難なものしかなく、研究以外の用途で使用されることは少なかった。しかし近年、バッテリー駆動で携行が容易なポータブルタイプのSMPS が2機種市販された。本研究ではそれらポータブルSMPS の性能評価を目的とし、ナノ二酸化チタン粒子と実験室内気中粒子を測定対象として、従来の据置型SMPS との比較を行った。実験室内気中粒子に関してはどの装置でも大差のない測定結果が得られたものの、ナノ二酸化チタン粒子に関しては1 機種において明らかに異なる粒径分布を示した。原因を調べた結果、装置保護および測定精度確保のために取り付けられている粗大粒子除去用の吸引口(インレット)が粒子に対して外力を加え、凝集粒子の一部を壊し、その結果粒径分布の形状を微小域へシフトさせ、粒子数濃度を増加させたことが明らかにされた。弱い力で凝集した粒子(agglomerate)を測定する際は、インレットが及ぼす影響に留意する必要がある。

作業環境測定法評価のための簡易な多分散ナノマテリアル粒子連続発生法の検討

SRR-No46-4-2
山田 丸,鷹屋 光俊,小倉 勇
 ナノマテリアル取り扱い現場でのエアロゾル計測法の検証のため、多分散凝集粒子を連続して発生させる簡易なシステムの構築が望まれる。粉体取り扱い時の粉じん飛散量を評価する手法として、ボルテックスシェーカ ーで試験管内の粉体を振動撹拌して飛散性を評価する方法(ボルテックスシェーカー法)が提案されているが、本研究では、ボルテックスシェーカー法を多分散ナノマテリアルの連続発生システムとして転用可能かどうかを検討した。ナノマテリアルのテスト試料として、同程度の一次粒径を持つ4 種類のナノ二酸化チタン粉体を用いた結果、いずれの試料でも100 nm 以上の凝集体を主とした幅広い粒径分布のエアロゾルの発生が確認された。
 また、長時間の発生を試みたところ、各粉体で挙動が大きく異なることが明らかになった。その原因の一つとして粒子の表面処理や結晶構造の違いが示唆された。ボルテックスシェーカー法を多分散ナノマテリアル連続発生装置として用いた場合、事前に発生濃度や粒径分布を把握しておく必要はあるが、他の方法に比べて少量の試料で連続発生が可能であり、さらにビーズの使用により濃度コントロールができることを確認した。以上のことから、本法が飛散性の評価だけでなく、ナノマテリアルの連続発生装置としてエアロゾル計測手法の開発や評価等にも利用できることを示した。

ナノマテリアル二酸化チタンの一次粒径判定法の検討及び疎水性処理済材料の分析に有効な蛍光X線分析の検討

SRR-No46-4-3
鷹屋 光俊,山田 丸,篠原也寸志
 二酸化チタンは、使用に当たり粒径が異なる二酸化チタンを併用する場合がある。また使用目的により様々な表面加工が施された材料が使用されている。そこで、ナノマテリアル二酸化チタンとナノマテリアルでない二酸化チタンの粒子が混合している場合にナノマテリアル二酸化チタン濃度を把握する方法と表面加工などにより、酸分解などの溶液化処理が困難な二酸化チタン材料由来の気中粉じんを蛍光X 線分析により測定する方法の2 種類の測定を検討した。粒子径別測定については、粉末X 線回折(XRD)と、紫外−可視吸収(UV-VIS)スペクトル測定による方法を試みたが、一次粒子径の推定、あるいはナノマテリアルのみを区別して定量することは、困難であった。
 一方、蛍光X 線分析によるフィルター試料中のチタン分析については、塩化ビニールメンブランフィルター上で、 6µg のチタンを測定可能であった。これは、現在提案されているナノ二酸化チタンの日本産業衛生学会の許容濃度0.3 mg/m3 の1/10 の0.03 mg/m3 を200 L の空気捕集で測定可能であることを示しており、定点測定用の20 L /min で10 分、ばく露濃度測定用の2 L/min で100 分の捕集時間であり、XRF による測定で作業環境管理が十分可能であるという結論が得られた。

作業環境におけるカーボンナノチューブの評価法に関する研究

SRR-No46-4-4
小野 真理子,山田 丸,中村 憲司,鷹屋 光俊
 活用が期待されるナノマテリアルであるカーボンナノチューブ(CNT)は、使用量が増加し使用される製品の種類も増加している。その一方、CNTはその健康影響が懸念されていることから、 作業環境における測定法と環境評価の実施手順を提案することが期待されている。本研究では近年使用量が増加しているCNTを使用する導電性樹脂の合成現場について現場調査を実施した。秤量作業のような粉体を取り扱う作業では、適切な囲い込みや局所排気装置を用いて対策を強化することで、ばく露を低減することが可能であった。大気をHEPAフィルターに通過させて清浄化してから取り入れているような作業場ではバックグラウンドの数値が低減され安定化するので、リアルタイム測定装置が有効な場合もあったが、定量的な評価は難しい。定量的な評価には捕集粒子の炭素分析を実施し、電子顕微鏡観察によるCNTの同定を行う必要がある。


刊行物・報告書等 研究成果一覧