労働安全衛生総合研究所

特別研究報告 SRR-No.47 の抄録

  1. 労働災害防止のための中小規模事業場向けリスク管理支援方策の開発・普及
  2. 電気エネルギーによる工場爆発・火災の防止に関する研究
  3. 介護職場における総合的な労働安全衛生研究

No.1 労働災害防止のための中小規模事業場向けリスク管理支援方策の開発・普及

序論

SRR-No47-1-0
高木元也,高橋明子,島田行恭,藤本康弘,板垣晴彦,佐藤嘉彦,大塚輝人,土屋政雄,大西明宏,菅間 敦,清水尚憲,梅崎重夫
 中小規模事業場の労働災害防止を研究テーマに、業種横断的研究とともに、これまでの当研究所の研究成果の蓄積を十分活用できる建設業、化学プロセス産業、小売業を対象に、労働災害防止促進方策の開発・普及を行った。
 業種横断的研究では、都道府県労働局を対象としたアンケート調査を実施し、中小規模事業場に対する労働安全行政による指導の実態を把握し、また、欧米諸国における中小規模事業場に対する労働安全衛生行政施策の事例調査を行い、それら施策のわが国への適用を検討した。一方、個々の業種についてはそれぞれサブテーマを設け、業種特性に応じ、建設業では作業者教育システムの開発、化学プロセス産業ではリスク管理方策の構築、小売業では、最頻発している転倒災害の防止策の構築等を行った。さらに、中小規模事業場の労働災害防止を促進させるには、効果的な研究成果とともに、その成果を普及促進させるための手法が必要であり、本研究ではその手法の構築にも注力した。

中小企業に対する労働安全行政の指導に係る実態調査 —業種特性に応じた安全指導の提示—

SRR-No47-1-1
高木元也,高橋明子
 労働災害が多発している中小企業に対する安全指導の実態を把握するため、各都道府県労働局を対象にアンケート調査を実施した。その結果、数多くの労働局では、製造業、建設業、陸上貨物運送事業、第三次産業等を重点業種にあげ、リスクアセスメント、健康障害、安全教育等を重点項目にあげた。また、安全指導には業種特性が見受けられ、例えば建設業では、効果が認められた安全指導には、改善事例や労働災害事例を用いた指導、個別指導、グループ討議や発表を含む研修会、産業団体・労働災害防止団体との連携等があげられ、安全指導に役立つもののニーズは、製造業と同様のものとして業種別・作業別のツール、他方、建設業特有のものとして各種労働災害の詳細分析等があげられた。

欧米諸国で推進される中小企業向け労働安全衛生行政施策のわが国への適用について

SRR-No47-1-2
高木元也
 本研究では、中小企業の労働安全衛生活動の支援方策を見出すため、欧米諸国における中小企業に対する労働安全衛生行政施策に関する事例調査等を行い、それら施策のわが国への適用を検討した。その結果、欧米諸国の中小企業に対する労働安全衛生行政施策には、①労働災害を含む経営全般リスクの総合的支援、②中小企業の経営支援を所管する行政との連携、③大企業による中小企業支援の仕組みづくり、④労働安全衛生関係法規を理解促進させる取り組み、⑤企業等の依頼に応じた行政支援、⑥慈善団体や中小企業等組合への支援、⑦中小企業への新たな規制による労働安全衛生推進等の特徴があることが明らかになった。わが国でもこれらを踏まえた行政施策の推進が求められる。

管工事業における安全教育の実態調査 —中小建設業者の安全教育上の課題の抽出—

SRR-No47-1-3
高木元也
 中小建設業者の多くは、人材面、資金面等に余裕がなく、安全活動推進力の向上が課題とされている。
 本稿は、管工事業を対象に安全講習会の受講者に対するアンケート調査を実施し、安全教育の実態等を把握した。その結果、1)一人親方、従業員5 人以下の業者に所属する者、豊富な実務経験年数を有する者等は安全教育受講頻度が少ない傾向にある、2)小規模な建設業者は安全教育に有効とされる災害事例を十分に活用できていない、3)安全教育には教育後の理解度の確認が重要である、4)高年齢層の講習の理解度は他と比べ高くない、5)安全管理水準が高いとはいえない業者に所属するものの災害撲滅への自信が高い元請業者の管理者等は、その自信が安全活動推進の阻害要因になるおそれがある、などが課題として明らかとなった。

タブレット端末を用いた安全教材の訓練効果と安全管理への応用 —低層住宅建築現場を対象として—

SRR-No47-1-4
高橋明子,三品 誠,高木元也,島崎 敢,石田敏郎,梅崎重夫
 建設現場はリスクの高い作業環境や作業内容が多いため、作業者自らが安全教育や安全活動によって現場のリスクを学習し、労働災害防止のために努力をする必要がある。このような状況から、著者らは平成24年度から基盤的研究において、低層住宅建築現場を対象としてタブレット端末を用いた危険予知のための安全教材を作成し、教育内容の理解の観点から教育訓練効果を検討してきた。しかし、実際の現場での危険認知能力が高まるかなど別の指標での教育訓練効果の検討も必要であった。そこで、本研究では、危険認知能力とその自己評価に着目し、安全教材の訓練効果の検証を行った。その結果、危険認知能力が向上することや自己評価が安全側へ変化することが確認できた。さらに、作成した安全教材を現実の作業者訓練に導入するために、教材の提供方法、管理者による履歴や成績の管理方法など、実用的な課題もあわせて検討し、管理用のWebシステムの構築を試みた。

プロセス災害防止のためのリスクアセスメント等の進め方

SRR-No47-1-5
島田行恭,佐藤嘉彦,板垣晴彦
 平成28年6月1日より、SDS(安全データシート)の交付が義務付けられている物質については、リスクアセスメントを実施することが義務化された。実効性のあるリスクアセスメント等を実施する上で重要な点は「プロセス災害(漏洩・火災・爆発・破裂など)を発生させる潜在危険を如何に特定するか?」、「現実的に起こりうるシナリオを如何に同定するか?」などである。
 本研究では、化学物質を取り扱う事業場におけるプロセス災害の防止を目的としたリスクアセスメント等の進め方を技術資料としてまとめた。その進め方は、まずSTEP 1 で、取り扱い物質及びプロセスの特性に関する質問に回答する形で物質及びプロセスに係る危険源を把握するとともに、過去の事故事例などから起こりうる災害を確認する。STEP 2 では、潜在する危険を顕在化させる引き金事象(初期事象)として、作業・操作や設備・機器の不具合、外部要因を特定し、引き金事象からプロセス異常(中間事象)及びプロセス災害(結果事象)発生に至るシナリオを同定する。シナリオに対して、リスクの見積りと評価を行い、リスクレベルが高いシナリオに対しては、多重防護の考えに沿って、追加のリスク低減措置を検討する。同時に、現場作業者への伝達事項もまとめておくことで、現場でのリスク認識、対応を促す。STEP 3 では、リスクレベルが高いシナリオから順番にリスク低減措置の実装を決定する。

JIS 安全靴における耐滑性の検証と上位基準の検討 —滑りやすい床面での歩行実験による評価—

SRR-No47-1-6
大西明宏,菅間 敦,清水尚憲
 安全靴の滑りにくさの基準としてJISで規定された耐滑性(たいかつせい)が存在するが、実際の歩行において滑りを抑制するのに妥当なのかは報告されていない。更に現行の耐滑性基準が策定されて10年以上が経過し、当時よりも耐滑性能が向上していることから上位基準の検討が必要と考えられる。本研究はこれら耐滑性の2つの課題を検証するため、動摩擦係数が0.12から0.64までの5種類の靴を用い、滑りやすい傾斜面での歩行時の滑り発生角度、急速な前後移動を伴うステッピング課題における主観評定値等の分析を行った。その結果、現行の耐滑基準である動摩擦係数0.20は前後移動の滑りを抑制する基準として妥当であることが確認された。また、動摩擦係数が0.1向上すると傾斜面において滑り発生角度が有意に約2度増加することが分かったが、主観的な滑りにくさの差異を感知できるレベルまでを考慮するなら動摩擦係数0.6程度が必要と示唆された。これら結果はJIS T 8101原案作成委員会に報告し、動摩擦係数0.30が耐滑性の上位基準として新たに採用された。


No.2 電気エネルギーによる工場爆発・火災の防止に関する研究

序論

SRR-No47-2-0
山隈瑞樹,大澤 敦,崔 光石,三浦 崇,遠藤雄大,鈴木輝夫,最上智史
 依然として化学工場、粉体製造・貯蔵工程等においては爆発・火災が数多く発生しており、人的・物的被害は甚大である。在来工程における災害の更なる減少および新工程への対応のため、災害防止対策も新たなアプローチ、例えば新しい測定・対策技術を導入した安全性の向上および理論的解析をベースとした安全技術の高度化が求められている。本プロジェクト研究においては、三つのアプローチ(サブテーマ)でこの問題に取り組んだ。まず、サブテーマ1では、グラスライニング容器による攪拌工程および絶縁配管による液体輸送時の静電気現象について実験的研究を行い、簡便で効果的な静電気対策技術を提案した。次に、サブテーマ2では、粉体の輸送・貯蔵に関連して発生する静電気災害を防止するための静電気観測機器として静電界センサシステムを開発し、また、ノイズの影響を受けにくい粉じん雲の電界測定装置の基礎構造を確立した。最後に、サブテーマ3では、静電気放電のエネルギーを推定するために、放電光の二つの特定スペクトルの比が放電エネルギーと関係があることを発見し、また、放電エネルギー輸送過程を考慮した数理モデルについて、シミュレーション結果と実験的知見を比較し、妥当であるとの結論を得た。

新手法を応用した放電着火性予測技術の開発 —火花放電の速度論的モデリング—

SRR-No47-2-1
大澤 敦
 着火とはエネルギー輸送の結果の現象である。火花放電着火においては電気のエネルギーから着火へとエネルギーが輸送される過程を詳細に調査することが本質的な着火現象の解明につながる。このエネルギー輸送過程を調査するための回路方程式による回路モデル、ボルツマン方程式による電子の速度論的モデル、密度・エネルギーバランス式による重粒子の反応速度論的モデルから構成される火花放電の速度論的(kinetic) モデルを開発した。このモデルを大気圧空気中の容量性火花放電に適用し、電気エネルギーから放電(電子)エネルギーを経て重粒子(原子・分子)のエネルギーへと輸送される過程を調査するとともに、これを着火性評価に応用した。

平等電界火花放電における静電エネルギーと発光スペクトルの関係 —非接触光測定による静電スパークの着火能力評価方法の開発—

SRR-No47-2-2
三浦 崇
 静電気による火花放電は火災や爆発を引き起こす原因となりうる。可燃性物質の着火性は、最小着火エネルギーで代表されるように、着火に至る火花放電の静電エネルギーの大きさで評価している。一方、現場などで実際に起こる火花放電の着火能力も同様にその静電エネルギーの大きさで評価できることになるが、電気回路や電荷の保持状態などが不明であるため、状況や条件などからエネルギーを算出することが難しい。そこで、別の角度からのアプローチとして、非接触光測定による火花放電の静電エネルギー推定手法の実現可能性について検討した。容量性回路と移動電極による静電気放電を模擬した平等電界火花放電において、静電エネルギーによる発光スペクトルの変化について詳しく調べた結果、励起窒素原子の輝線強度に対する励起窒素原子イオンの相対輝線強度が静電エネルギーに伴って増加することが明らかとなった。

化学プラントにおける静電気災害・障害の発生機構の解明と対策 —有機溶剤の小分け作業時における静電気危険性と対策—

SRR-No47-2-3
山隈瑞樹,遠藤雄大
 化学プラント等においては、ホース等を使って有機溶剤を小分けする際に、静電気放電で着火したと推定される火災・爆発事故事例が多い。本研究では、過去の災害事例を参考にホースとボールバルブからなる液体流動・噴出実験装置を構築し、酢酸エチルを含む数種類の有機溶剤について静電気帯電量の測定を行うとともに、根本的な静電気対策を検討した。その結果、バルブでの液滴生成時の噴出帯電が支配的であり、発生電荷は溶剤の導電率によって変化し、100-8 S/m 付近でピークを示す傾向が得られた。例えば、酢酸エチル(1.8×10-8 S/m)の電荷は他の溶剤よりも顕著に大きな値を示し、ごくわずかな放出量(100 g 程度)でも着火を引き起こす静電エネルギーレベルに達することが判明した。また、ノズルの先端を小口径にしてバルブ内部を完全に液体で満たすことによって放出時の液滴発生を抑制することにより、電荷をほぼ安全なレベルにまで低減できることを明らかとした。

振動型静電界センサのパージエアが電界強度計測に及ぼす影響

SRR-No47-2-4
崔 光石,鈴木輝夫,山隈瑞樹
 近年、化学、製薬、食品関連工場などの産業現場において、高分子材料、医薬品や食品材料を粉体で取り扱うことが増えている。特に、絶縁性が高い粉体では、静電気が蓄積しやすく様々な静電気の障害・災害が発生している。これらの静電気に関する障害・災害を防止するためには、粉体の静電気帯電状況をリアルタイムで正確に把握し、安全対策を施すことが肝要である。そのため産業現場においては、静電気安全管理の器具としてエアパージ方式の振動型静電界センサが活用されている。本研究では、このエアパージ方式のセンサの粉体の浸入の防止策であるパージエアが静電界センサの計測値に及ぼす影響を定量的に調べた。本実験では帯電物体を模擬した帯電板を用意し、パージエアの圧力、平行平板電極間の電界強度(計算値)、静電界表示値(計測値)の3 つのパラメータを用いて調べた。実験結果から、パージエアの圧力の影響により、計測値は、計算値と同値とはならなかった。具体的には、零点がずれると共に、電界強度の計測値が低下した。これらの主な原因は、チョッパの振幅が送風圧力の影響を受けていることであることが分かった。

No.3 介護職場における総合的な労働安全衛生研究


序論

SRR-No47-3-0
岩切一幸,高橋正也,外山みどり,劉 欣欣,甲田茂樹,市川 洌,岡部康平,齋藤 剛,池田博康
 介護職場では、介護職員(以下、介護者と記載)の身体的負担が大きく、特に腰痛が多発している。この対策としては、作業姿勢の改善や福祉用具の使用などがあげられる。しかし、それらの対策に繋がる介護者自身の安全衛生活動への取り組みが不十分なため、十分な効果を得ていない。そこで本プロジェクト研究では、高齢者介護施設が取り組んでいる安全衛生活動と介護者の腰痛との関係を調査し、腰痛予防対策として有用な安全衛生活動について検討した。また、介入研究による検証を経て、介護職場にて安全衛生活動の改善点を明確にするためのチェックリスト形式の評価表を作成し、それに基づく改善策を提案した。さらに、介護者の身体的負担の軽減に役立つ福祉用具の使用において災害が発生していることから、特に入浴介助機器に着目して、その機器の安全性や利便性などを改めて検討し、その技術指針原案を提案した。

介護者の腰痛予防につながる介護施設の安全衛生活動と介助方法に関する全国調査

SRR-No47-3-1
岩切一幸,高橋正也,外山みどり,劉 欣欣,甲田茂樹
 高齢者介護施設では,介護職員(以下,介護者と記載)の腰痛が多発していることから,全国の特別養護老人ホームを対象とした,腰痛予防に有用な安全衛生活動を明らかにするためのアンケート調査を実施した.調査の結果、最近1 年間において仕事に支障をきたすほどの腰痛(以下、重度の腰痛と記載)を訴えた介護者は34.7%にものぼった。また、介護者が人力で入居者の抱え上げを行っていることと無理な姿勢をとっていることが、重度の腰痛を引き起こす直接的な要因になっていた。さらには、介助方法や福祉用具の講習・研修の実施、福祉用具の利用指導、介助方法や福祉用具の使用方法に関する評価、責任者からの助言や指導といった安全衛生活動を実施することが、人力での入居者の抱え上げや無理な姿勢をとることを抑制し、重度の腰痛の発生を抑えることが示唆された。

介助方法や福祉用具の使用方法に関する安全衛生活動が介護者の腰痛症状に及ぼす影響

SRR-No47-3-2
岩切一幸,高橋正也,外山みどり,劉 欣欣,甲田茂樹,市川 洌
 福祉用具が導入され、介助方法などの講習や研修が行われているにも関わらず、十分な腰痛予防効果を得られていない介護施設がある。本研究では、このような介護施設において、適切な介助や福祉用具の使用を実施するための責任者の選任、講習や研修、評価の実施といった安全衛生活動を改めて職場改善プログラムとして実施し、そのプログラムによる介護職員(以下、介護者と記載)の腰痛予防効果を介入研究(介入施設と非介入施設)により検討した。その結果、介入施設では、リフトなどの福祉用具が頻繁に使用され、介入1 年半後(以下、介入1.5 年後と記載)においても仕事に支障をきたすほどの腰痛(以下、重度の腰痛と記載)の増加は認められなかった。一方、非介入施設では、適切な介助方法や福祉用具の使用が十分行われず、介入1.5 年後の重度の腰痛者数が介入前に比べて2 倍に増加した。これらの結果より、介助方法や福祉用具の使用に関する職場改善の取り組みは、介護者の腰痛改善とまではいたらなかったものの、腰痛を悪化させない効果があり、腰痛予防に有用な安全衛生活動であると考えられる。

入浴介助機器の実態調査とリスク分析

SRR-No47-3-3
岡部康平,齋藤 剛,池田博康,岩切一幸
 高齢者介護施設では、介護職員(以下、介護者と記載)の腰痛予防対策として、入浴介助機器の使用が推奨されている。本研究は、この入浴介助機器使用における介護者の危険性を把握するために、公表されている厚生労働省などのデータベースから、入浴介助機器に起因して発生した災害事例を抽出するとともに、高齢者介護施設を訪問し、実際に利用されている入浴介助機器の仕様や使用方法について調査した。その結果、災害事例の解析から、機器を操作する介護者のはさまれ・巻き込まれなどの機械災害が発生していることが判明した。介護者へのヒアリング調査からは、動力式特殊浴槽、電動ストレッチャ、入浴用リフト座椅子、吊り下げ式バスリフトの計7 機種について、挟圧危険箇所などの危険源が確認された。さらに、現行の入浴介助機器に関わる製品安全規格を調査した結果、機器を操作する介護者に対する保護方策の要求が、産業用機械などと比べて十分ではなく、補完が必要であることが明らかになった。以上の結果を踏まえ、入浴介助機器を対象にしたリスク分析を行い、工学的保護方策の適用によって、受容可能なレベルにリスクを低減する方法について検討した。

介護者のはさまれ災害に対する入浴用ストレッチャ式電動リフトの保護方策の開発

SRR-No47-3-4
齋藤 剛,岡部康平,池田博康,岩切一幸
 高齢者介護施設での腰痛予防対策の一つとして、動力を用いる入浴介助機器の積極的な利用が推奨されている。しかし、労働災害事例の調査及び高齢者介護施設を訪問しての実態調査を行った結果、機器を操作・使用する介護者の安全については十分に配慮されておらず、設計段階でのリスク低減が不十分であることが明らかになった。そこで、本研究では、具体的な対象として、市販の入浴用電動ストレッチャを取り上げ、これまで製造ラインや工作機械等の産業機械で培われてきた安全技術を応用するアプローチで、機器を操作する介護者のはさまれ災害に対する保護方策を検討した。考案した方策を試作し、入浴用ストレッチャ式電動リフトに実装して、基礎的な動作試験から所要の特性の実現を確認した。さらに、考案した方策が機器本来の使用性や介護者の作業条件に影響しないことを、業務で同種機器を扱っている介護者らの参加を得た評価試験から検証した。以上の結果から明らかになった各保護方策の課題は、入浴用動力介助機器に関する構造要件及び使用規則を策定する際に、入浴介助作業の実際を踏まえた合理的に実施可能な要求事項を策定する上で重要であり、機器に講ずべき工学的保護方策の構造要件の中に考慮し、反映する予定である。

動力介助機器を対象とする労働安全に関する技術指針の提案

SRR-No47-3-5
池田博康,岡部康平,齋藤 剛,岩切一幸
 高齢者介護施設において腰痛予防に有用とされる入浴介助機器について、その危険性を把握するため、労働災害事例を調査するとともに、介護施設を訪問して使用の実態を調査した。その結果、災害事例調査では入浴介助機器による災害が発生していることが確認され、さらに、実態調査でも巻き込まれやはさまれなどの危険性が確認された。また、それらの危険性に対する製品規格の安全要件を調査し、運用時の安全管理としての補完(要件追加)が必要であることも確認した。本稿では、この補完として、産業用ロボットにおける安全のための技術指針を参考に、動力介助機器全般を対象とする技術指針の提案に向けた検討を行なった。入浴介助機器を題材として、リスクの高い動力介助機器の適切な導入及び管理を支援するための工学的な要求事項を示す。



刊行物・報告書等 研究成果一覧