労働安全衛生総合研究所

冬季のオフィス環境における低湿度の実態と対策について

独立行政法人労働安全衛生総合研究所

1.はじめに


 我が国の気候は地域によって差がありますが,日本海側や北日本を除けば冬に降水量が少なく,乾燥しているという特徴があります。同じ相対湿度であっても気温が低いとそこに含まれている絶対的な水分量は少なく(絶対湿度が低く),さらに冬季のオフィス環境では暖房が使用されるため,ますます湿度(相対湿度)が低下することになります。低湿度ではのどや鼻,皮膚などの乾燥を引き起こし,風邪をひきやすくなるなどの健康影響が生じることが懸念されます。
 我が国では,事務所衛生基準規則(事務所則)においてオフィスの環境基準が定められています。温湿度に関しては「空気調和設備を設けている場合は,室の気温が17度以上28度以下及び相対湿度が40%以上70%以下になるように努めなければならない」とされています1)。このうち,室温の「17℃以上28℃以下」に関しては昨今の節電の呼びかけ等によってかなりの方がご存知かと思われます。その一方で相対湿度の「40%以上70%以下」に関してはご存じの方が少なく,かつ,冬季については「40%以上」の基準を満たしていない状況が多く見られるということが従来から報告されています。例えば,全国を対象とした特定建築物立入検査等の結果(図1)ならびに東京都による特定建築物立入検査結果(図2)によれば,他の項目と比較して相対湿度の不適合率が高く,特に冬季(暖房期,12〜3月)の不適合率が高いことがわかります2, 3)
 では,最近のオフィス環境における冬季の湿度の実態はどうなっているのでしょうか?


図1 特定建築物立入検査等の結果(厚生省生活衛生局企画課,厚生労働省健康局生活衛生課調べ)2)



図2 東京都における特定建築物立入検査の結果3)
(東京都健康安全研究センター調べ。
2006〜2008年度東京都全体,2009〜2013年度は多摩地区を除く特別区・島嶼地区のデータ。
暖房期(12〜3月)については2010年および2011年はデータなし。)

2.冬季オフィス環境における温湿度の実態


 私たちは、2013年の冬季に首都圏の大型オフィスビル(4事業所,全105ヶ所)において,温湿度の測定を連続的に行いました3)。平日の勤務時間帯(9:00〜18:00)の温湿度分布を図3,図4に,このうち事務所則の基準値からの外れ値(基準値を満たしていない時間帯)の割合を表1に示します。この結果が示すように,首都圏の冬季オフィス環境においては冬季の乾燥が問題となっており,全測定場所における勤務時間帯のうち30〜40%が相対湿度40%RH未満と,事務所則の基準値(40%RH以上)を満たしていないことがわかりました。
(注:RHは"Relative Humidity"の略で,相対湿度を示します)


図3 冬季の首都圏オフィス環境における温湿度の分布の例
(四角で囲まれた範囲は事務所則の基準範囲)



図4 冬季の首都圏オフィス環境における湿度の分布の例



基準値事業所A事業所B事業所C事業所D
17℃未満0.1%0.0% 0.1%0.1%
28℃超0.1%0.1% 0.2%0.0%
40%RH未満27.7%37.1%39.5%40.9%
70%RH超0.0%0.0% 0.1%0.1%
表1 温湿度の外れ値(基準範囲からの逸脱した時間帯)の割合

3.低湿度による健康影響


 さらに,温湿度調査を実施した事業所に勤務する従業員に対して,アンケート調査を実施しました(有効回答数:997名)3)。20項目の自覚症状について,職場環境が原因と思われる過去一週間の自覚症状の有無(一週間に一度以上の頻度で,職場を離れた時に悪化する場合を除く。)を聞いた結果を図3に示しました。夏季に同じ事業所で実施した調査結果と比較した結果,赤字で示した「手や足の冷え」,「皮膚の乾燥・かゆみ」,「くしゃみ」,「せき」,「鼻水・鼻づまり」,「のどの痛み・乾燥」が夏季に比べて有意に高い割合であることがわかりました(図5)。これらのうち,「皮膚の乾燥・かゆみ」,「のどの痛み・乾燥」,「くしゃみ」,「せき」,「鼻水,鼻づまり」は乾燥が一因となっているものと考えられます。
 

図5 冬季ならびに夏季オフィス環境における自覚症状の割合

4.冬季オフィス環境における低湿度対策


 屋内環境における低湿度対策として真っ先に思い浮かぶのは加湿器の使用です。しかし,加湿器は一般家庭等の狭い部屋であれば効果が期待できるものの,オフィスのように広い空間ではなかなか効果を実感することが難しいのが現状です。その一方で,近年普及が進んできた調湿機能付きの空調システムを活用することにより,室内の相対湿度を40〜70%RHの基準範囲に収めることが可能となってきています4)。調湿機能付きの空調システムを有するオフィスと,従来型の空調システムを有するオフィスでの相対湿度の推移を比較すると,調湿機能付きの空調システムを有するオフィスでは相対湿度が40%RHを下回らないように自動的に調節されているのに対し,従来型の空調では40%RHを下回る低湿度となってしまっていることがわかります(図6)。このことから,調湿機能付きの空調を適切に使用することにより,冬季の乾燥を防止することが可能になると思われます。


図6 空調の調湿の有り無しによる相対湿度の推移の例

 ただし,空調システムの更新にはコストが掛かることから,一朝一夕にこの方法で対策を取ることは現実的とは言えません。したがって,設備更新までの当面の間は他の対策に頼らざるを得ない事業所が多いと思われます。そういった場合においては,従来通り個別に加湿器を利用するとともに,マスクの着用により喉を潤すといったことが有効ではないかと考えられます。なお,前述のとおり加湿器の効果は面積の広いオフィス環境では限定的と考えられますので,過度な期待をせず,温湿度を確認しながら使用することが大切です。

5.まとめ


 冬季の乾燥は空調での対応が可能な夏季の高温多湿と比べて対策が遅れがちですが,かなりの割合で法令上の基準値を満たしていない実態や,乾燥による健康影響を考えると対策が必要な分野であると考えられます。オフィス空間の温湿度の確認と,乾燥による健康への悪影響が生じていないかどうかを確認しつつ,調湿機能付きの空調システムの設置や加湿器とマスクの併用などの必要な対応を講じていくことが求められます。

  参考文献
  1. 事務所衛生基準規則,昭和47年9月30日労働省令第43号,
    http://law.e-gov.go.jp/htmldata/S47/S47F04101000043.html
  2. 厚生労働統計協会(厚生労働協会),国民衛生の動向(1984年版〜2009年版).
  3. 東京都健康安全研究センター,ビル衛生管理講習会資料(平成19年度版〜平成26年度版),
    http://www.tokyo-eiken.go.jp/k_kenchiku/bldg/
  4. 齊藤宏之,澤田晋一,安田彰典 他,節電下のオフィス環境における温湿度と健康影響調査.労働安全衛生総合研究所特別研究報告 JNIOSH-SRR-No.43 (2013) 157-163,
    http://www.jniosh.go.jp/publication/doc/srr/SRR-No43-4-3.pdf
  5. 特集:空調システムにおける加湿装置・方法と空気清浄.空気清浄 43(3) 176-219, 2005.

(有害性評価研究グループ 上席研究員 齊藤宏之)

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